15話 入学式
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
一月八日エクサフォン学園の入学式だ。なぜこんな中途半端な日にちなのかをリベルに聞いたら、一月八日はエクサフォン国王が成立した日だかららしい。だからこの日は王都内ではお祭りだったり入学式だったりとおめでたい事を執り行うようだ。
(リフォンは緊張してる?)
宿舎で用意を済ませたリベルが聞いてきた。
(俺は特にする事とか無いから気楽だよ。リベルは大変だよな新入生挨拶なんて。)
リベルは事前指導に選ばれたエリートだから新入生挨拶をするらしい。その時俺はリベルの隣で大人しく座ってれば良いそうだ。だから俺は気楽でリベルは緊張しているってわけだ。
(よし!行くよ。)
(はいよ。)
リベルがネクタイを締め気合を入れる。まだ宿舎だがここからリベルの戦いは始まっているらしい。
「おはようリベル、リフォン。」
「おはようハーリー、ハリス。」
「ついに入学式だね。」
「緊張するね。」
「何で?別に私たちは受け身で良いんだから…あっリベルは事前指導に選ばれたから新入生挨拶しなくちゃいけなかったりする?」
「する…」
さっきまでの気合いは消え去って心配性モードになってしまった。
「ま、まぁリベルなら上手く出来るよ!頑張れ!」
「が、頑張ってくださいリベルさん。」
「ハリスまでありがとう。」
リベルは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして入学式が行われる学園ホールに向かった。
「ハーリー、僕たちはこっちだからまた後でね。」
「うん。頑張ってね。」
「頑張ってくる。」
リベルについて行くとホールの舞台袖に着いた。そこにはマリー先生がいた。
「マリー先生、あれから実験はどうですか?」
「久しぶりだねリベル君にリフォン君。実験は…正直言って芳しく無いね。行き詰まってる感じだ。リフォン君が実験に付き合ってくれたら良いんだけどねぇー。」
マリー先生は俺の方をチラチラと見ながら話す。そんなマリー先生の期待を裏切る形で俺はそっぽを向いた。
「振られましたね。」
「残念だ。でも答えが見えてる状態で実験しても面白く無いからね。もうすぐ君たちの番だよ。」
俺たちはマリー先生に背中を押され壇上に向かった。壇上からホールを見渡す景色は壮観だった。千を超える生徒に各学科の教師そして貴族の様な来賓。俺がリベルの立場だったらまともに喋れないのは明白だ。だがリベルはそんな途轍もないプレッシャーを跳ね除けて新入生挨拶を完璧にやり終えた。
(流石俺のリベル。)
(ありがとう。)
ホールに響き渡る拍手を聞きながら舞台袖に戻った。
「流石公爵家次男だね。」
「やめてくださいよ。」
リベルは満更でも無さそうに笑いながら言った。
「次は学園長の挨拶だよ。エクサフォン国最強の魔法使いだから目に焼き付けておきな。」
マリー先生が壇上に指を差しながら言うので俺たちはその指の先を追う様に見た。そこには国王の隣にいた髭の長いザ魔法の人がいた。先日のパーティでは遠目からしか見る事が叶わなかったが今回は目と鼻の先にいる。オーラというか威厳というか何とも言えない気配を纏っており全身の毛が逆立つ感じがした。使い魔だからそういうのに敏感なのかは分からないが動物の本能のような気もする。学園長が話を終えこちらにやってくる。全身の毛が逆立つ感じが更に強まった。
「すまない。君の使い魔はかなり魔力感知に長けているようだな。これなら大丈夫か?」
そう言うとさっきまでのオーラがふっと消えた。そして学園長は俺を優しく撫でてくれた。その時学園長が一人言を呟いた。
「これほどとは見誤っておったな。」
その声は俺にしか聞こえていなかった。
「学園長お初にお目にかかります。リベル・ペタフォーンです。ご存知とは思いますが名乗らせていただきます。そしてこちらが私の使い魔のリフォンです。」
「丁寧にどうも。それよりリベル君。君はどこの部活に入るか決めているかな?」
「いえまだ決めていません。」
「ならこの後私の所に来なさい。」
「はい!」
学園長はその一言を言い終えるとどこかに消えてしまった。リベルが今まで見た事ないぐらい目をキラキラさせている。
「マリー先生今のが風魔法の極地テレポートですよね?!」
「そうだよ。いつ見てもすごいよね一瞬で消えちゃうんだもん。」
リベルはテレポートを見れた事に大層喜んでいる。
「一生に一度でも見れたらラッキーなぐらい珍しいからね。」
「ハイネ先生久しぶりです。」
「久しぶり。ナサリーから聞いたよリベル君たちもパーティに行ってたんだってね。私は仕事が忙しくてついて行けなかったんだ。何か失礼な事はしてなかった?」
「大丈夫でしたよ。」
「そうか良かった。」
ハイネ先生は胸を撫で下ろした。この様子を見るに外向きは礼儀正しいお嬢様なのだろうが家族や身内に対しては態度が大きいとみた。
(なぁリベル。ハイネ先生とナサリーあんまり似てなくないか?お母さんに似たのかな?)
俺は少し失礼だとも思ったが気になったのでリベルにテレパシーをした。
(どうだろう?でも侯爵家からそんな噂は聞いた事ないから分からないや。)
「そうだ。ところで学園長がさっき私の所に来なさいって言ってたんですけどどこに行けば良いですか?」
「学園で一番高い塔の最上階が学園長室だよ。風魔法使えるなら簡単に行けるけど使えなかったら結構面倒だよ。」
「階段ですか?」
「そう。」
リベルは悩んでいた。浮遊のアイテムは手元に無いしだからと言って階段はかなりキツいからだ。そこで俺は妙案を思いついた。
(水を出してその上に乗って、水を動かせば良いんじゃない?)
(天才か?)
リベルのこんな反応は初めて見た。
「リフォンが天才的なアイデアを思いついたんでそれで行きます。」
「どんなアイデアなんだ?」
マリー先生も気になるようだ。
「教えてあげません。」
俺たちは学園長室に向かった。学園はただでさえ広くどこに行くにも時間がかかる。だから風魔法を使える生徒は全員浮遊して移動しているそうだ。でもそのせいで魔力を余分に使って魔法演習では少し成績が落ちているらしい。
「あれだ…」
リベルが足を止め見上げているので俺もそれに倣って見上げた。そこには想像してたより倍は高い塔が建っている。おそらく学園長は日常的に魔法を使わせて魔法を自分の物にさせるためにわざわざこんな風にしているのだと思い込んだ。
塔の中に入ると広さは大人五人でいっぱいになるぐらい狭い。俺はリベルの足元に上半分は硬く下半分は柔らかい水を出した。リベルは何も言わずに俺を抱き上げその水の上に乗った。俺は水の下半分だけに波が起こっているイメージをした。
「おお!すごい進んでる!」
思いの外上手くいきリベルも感心している。最初はゆっくりだったがこのままでは日が暮れるのでスピードを出来る限り早くして塔を登った。
「着いた。」
「入りなさい。」
学園長が扉を開けて待っていた。俺たちは学園長室に入りソファに座った。
「思っていたよりも早かったな。実に見事だった。リフォン君と言ったな。君はおそらくこの世界で一番の使い魔になれるだろう。だがその反面苦難は付きものだ。リベル君はリフォン君の主人として恥じぬように今までの三倍は努力しなさい。その為にも私が勧める部活は魔法競技部だ。ここは毎日のように魔法競技をしている。だからと言って座学が疎かというわけではない。年に一度ある部活対抗祭と言う行事があるんだが魔法競技部は座学、演習、応用、創作の四つ全てで一位だ。それほど優秀な生徒が集まる部活だ。どうじゃ興味が出てきただろう?」
あまりの情報量にリベルはあまり頭に入っていないようだ。
「はい!」
とりあえず元気に返事をしましたと言わんばかりの返事をした。
「なんじゃその返事は…」
(急に学園長の口調がおじいちゃんになったな。)
(何か理由があるのかな?)
「二人で何を話しておるんじゃ?」
「あっ、いやーそのー…」
「無理にとは言わんが私は何を言われても怒らないぞ。」
リベルは生唾を飲み言った。
「急におじいちゃん口調になったのは何でだろうねって話してました。」
「…あはは、何じゃそんな事か。それはお主らしかおらんからじゃ。」
「それってどういう意味ですか?」
「大勢の前では衰え知らずの最強魔法使いとして演技しておるが、老いには勝てんくてな。」
学園長は自前の長い髭を触りながら言う。その姿はどこか哀愁を漂わせている。
「回復魔法で治らないのですか?」
「痛みは無いんじゃが、どうも気力がな…」
それもそうだろう。優に百歳を超えているほど生きていたらやりたい事もやるべき事も無くなって惰性でしか生きていけない。しかも学園長は王国最強魔法使いでその抑止力や影響力は凄まじいだろうから簡単には死ねないのだろう。俺はそんな学園長を見かねて学園長に体を擦り寄らせた。
「こんな老耄に生きる気力をくれるのか?」
「ニャー。」
「そうかそうかありがとう。」
学園長はシワシワの手で俺の事を飽きるまで撫でた。
「ワシも今から使い魔召喚をしてみようかな。」
学園長がぼやくように言ったその言葉は一縷の希望を見つけたようだ。
「良いんじゃないですか?人生いつからでも遅く無いって言いますし。」
リベルが学園長の背中を押した。
「今から使い魔召喚をするから二人はそこで見ていてはくれんか?」
「はい!」
リベルはどんな使い魔が召喚されるのかワクワクしながら見守っている。部屋が眩い光に包まれて召喚は成功したようだ。光に目が慣れて召喚陣の方を見てみるとそこにはシェパードがいた。学園長はそのシェパードを見て何も言わずに右手を出しお手をさせた。シェパードはそれに答えるように自分の左手を乗せた。学園長は嬉しかったようで声には出さないがニコニコと笑っている。
「カッコいい犬ですね。」
「生きる気力を貰えるそうだ。」
学園長はシェパードの手を握り肉球を堪能している。
「学園長はこれからこの子の為に生きていくんですか?」
「そうかのぉ。」
学園長は髭を触りながら応えた。
「この子の為では無くこの子が生きる世界の為に生きてください。」
俺はそれはちょっと酷じゃないかと思ったが案外学園長はその気のようだ。
「そうだな。この子に私の生きる理由を押し付けるのはいけないな。なら私はこの子が生きるこの世界を守ろう。」
「よっ!学園長!」
リベルが囃し立てる。そのリベルの顔はとても楽しそうだ。
「ところでこの子の名前はどうしますか?」
「うーん…」
学園長は考え込んだ。しばらく考え込み一つの名前を思いついたようだ。
「サラーマ。」
「良い名前ですね。」
「ワン!」
「気に入ったようじゃな。」
幸せそうに笑う学園長の顔はさっきまでとは大違いだ。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。