146話 休暇と稽古
俺たちは二十五階層を攻略した後しばらく休みを取ることにした。二十五階層にいた魔物は全て討伐したし、文明的な造りの階層であること、ある程度の広さがあることなどを加味して、ここでしばらく休暇を取ることにしたのだろ。今まで楽だったとは言えまともに休んでいなかったことからここで、万全の状態に回復するまで休養するのだ。ストレスや表面上に出ていない疲労は蓄積されているだろうから休暇は最大一週間として、のびのびと休めるようにした。アスレチックのようになっていることもあり、暇になっても適度な運動はできるためこの階層は休養にもってこいだ。俺は今までの疲労を全て回復させるために寝れるだけ寝た。みんなもかなり疲労が溜まっていたのかぐっすりだった。一日目は眠っているだけで終わってしまった。二日目は疲労もかなり回復できたことから各々自分のしたいことをする日とした。
「リフォン様どうでしょうか。痛くはないでしょうか?」
「う、うん。大丈夫だ。」
なんとルナは俺の耳かきをしたいと申し出てきたのだ。したいことをする日と言ったのは俺だが、まさかルナのやりたいことが耳かきだとは思いもしなかった。一緒に遊ぶとかなら全然許容できるんだけど、耳かきなんてするかと疑問でならなかった。ルナが膝枕で耳かきをしてくれている間、俺はそんな考えを巡らせていたため、耳かきの心地良さなど一切感じれていなかった。
「終わりました。ご要望はありませんか?」
膝枕のままルナが俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「別にないかな。」
俺が素っ気なく言うとルナはニコッと笑い言った。
「なら我が思いつく限りリフォン様を癒しますので、フルコースをお楽しみください。」
俺はここで断る方が良いのかやらせる方が良いのか分からず悩んだ。これがルナのやりたいことならさせる方が良いのだろうが、それだと休暇にはならない。かと言ってやらせないと不満は募る一方。そこで俺はルナに聞くことにした。
「なぁルナ、これは本当にルナがやりたいことなのか?やりたくないんだったらやらなくて良いんだぞ。」
「我がやりたいのです!リフォン様は疲れが取れて嬉しい。我はリフォン様に尽くせて嬉しい。ウィンウィンな関係ではありませんか?」
ルナは真っ直ぐな瞳で俺に訴えかけてきた。その言葉と瞳から嘘はついていないことが分かりルナの自由にさせることにした。
「ならお願いするね。」
「任せてください!」
それからのルナは凄かった。前にやってもらったマッサージも凄かったが、今回はレベルが違った。どこから持ってきたのか分からないオイルにお香まで完璧な準備を整えたルナは、強くもなく弱くもない完璧な力加減で全身をもみほぐしてくれた。あまりの気持ち良さに俺はいつの間にか寝てしまっていた。目が覚めるとユディが夕食を作ってくれていた。ルナは片付けを終え俺の寝顔を見ていたようで目を覚ました瞬間目が合った。するとルナはふふっと笑った。俺は夕食を食べようと立ち上がった時体の軽さに驚いた。まだ若い体だから肩こりなど気にしていなかったが、かなり凝っていたようで俺はルナに感謝を伝えた。
「ありがとう。だいぶ楽になったよ。またお願いしても良い?」
ルナはパーっと表情を明るくして答えた。
「お任せください!」
俺たちは夕食をみんなで食べてその日を終えた。三日目になるとユディが俺たちに稽古をつけてくれると言った。俺たちは朝食をしっかり食べてユディの稽古に臨んだ。
「まずお前らの体はまだ成長途中にある。だから基礎的な体づくりから始める。剣術は日々の積み重ねの上に成り立っている。だから基礎ができていないと何の意味もない。これから毎朝、俺が課したメニューをこなすこと。ただ、前日に課したメニュー以上の運動量を確保できていたら翌日は無しとする。その辺りは臨機応変にやるから毎日励むように。」
「「「はい!」」」
「それじゃあ今日のメニューは腕立て腹筋スクワットを五十回ずつとランニング一時間だ。これを難なくこなせるようになったら次のメニューに移る。魔法を使うことも重要だが、俺のメニューでは使わないこと。良いな?」
「「「はい!」」」
そんな感じでユディの稽古が始まった。リベルはガインに鍛えられていたことから疲れを見せながらもある程度サクサクこなしていた。でも俺とジュナは筋トレなど一切行っていないことからゼーハーゼーハーと息を切らしながら行った。俺たちが筋トレを終える頃にリベルはランニングを終えるぐらいの感じだった。一時間もの差があるんだと俺とジュナは絶望した。とりあえず筋トレの疲労を少しでも回復させてからでないとランニングには移れなかったため俺とジュナが休憩しているとユディとリベルが打ち合い稽古を始めていた。リベルの体力と気力に感嘆しつつ俺たちはランニングを始めた。打ち合い稽古は俺たちが走り終えるまで続いており、素直にリベルが凄いと思った。
「疲れただろうから早く寝るように。」
ユディは一時間リベルと打ち合い稽古をしたとは思えないクールな表情で言った。俺たちはもう驚きすらしなかった。これほどの実力がないとパーティの前衛は務まらないのだと。俺はユディとルナに心の中で感謝した。
次回もお楽しみに




