143話 闇魔法習得
バルフチーティーを討伐した翌日、俺は朝日が顔を出して間もない時間に目を覚ました。今日はルナに闇魔法を教えてもらえる日であるため早く起きてしまったのだ。俺は身支度を終えルナが起きるまで待つことにした。ルナの寝顔はとても綺麗で逆に寝ているのか疑わしいほどだった。試しにリベルの顔を見てみると口は少し空いていて幸せそうに寝ている。でもルナは、口をしっかり閉じていて非の付け所がない彫刻のような寝顔だった。さらに、寝相も良く手足を真っ直ぐにさせて寝ている。一方リベルは片腕をジュナの胸の上に乗せていた。胸の上に腕があるジュナは少し寝づらそうにしていた。俺がしばらくルナの寝顔を眺めているとゆっくりと瞼が瞳を顕にした。今更気づいたが、ルナの瞳の色は黄色だった。瞳孔の形は人間の丸い形とは少し違い、爬虫類のように縦に細長いスリット状になっていた。
「おはよう。」
まだ寝ぼけているルナに俺が挨拶をするとルナは目を擦りながら言った。
「お、おはようございます…」
まだ眠たいのか歯切れが悪かった。こういうところは案外普通なんだなと少し可愛く思えた。俺は自然とルナの頭を撫でていた。
「えへへー…」
ルナはまだ寝ぼけているのかいつもは見せないような可愛い反応を見せてくれた。俺が笑みをこぼすとルナはようやく頭が冴えてきたのかしっかりと俺の表情を見た。その瞬間いつものキリッとした雰囲気のルナに戻り言った。
「おはようございますリフォン様。その…今のことは忘れていただきたく…」
「嫌。」
俺はすぐさま否定した。自分を慕ってくれている人が自分にだけ見せた一面を忘れることができるだろうか。否できないのが普通だ。俺はその普通の感性通りのことをしたまでだ。
「そ、そこを何とか…」
「嫌だって。あんなに可愛い顔見せられたら誰だって忘れないよ。」
「うぅ…」
俺がストレートに言うとルナは俯いて何も言えなくなっていた。
「みんな起きちゃうかも知れないから向こう行こ。」
俺はルナに闇魔法を教えてもらうべくルナの手を取り言った。
「はい。」
ルナはさっきまでのめそめそしていた顔から一変して頼り甲斐のある表情で言った。ルナは翼を生やし準備ができたところで俺も風魔法を使い空を飛んだ。こうやって二人で空を飛ぶのは初めてだったため新鮮だった。しばらく飛びみんなに影響が出ない所で降りた。
「まずは何からやるの?」
俺がルナに問いかけるとルナはにこやかに笑い答えた。
「リフォン様のやりたいものからやりましょう。」
俺はそんなに適当で良いのかと疑問に思った。変なふうになったり制御できなくなる可能性があるのではないかと思ったからだ。本格的に使うのは初めてだから心配だったためルナに聞いた。
「意図してない挙動になったりしないか?制御できなくなったり、変な方向に飛んで行ったりとか…」
「大丈夫ですよ。リフォン様ほどの魔法使いなら。」
俺は自信満々に言うルナを信用することにした。
「じゃあバルフチーティーを討伐するために使った魔法を教えて欲しい。」
「分かりました。あれは自分より弱い存在を即死させる魔法ということは前お話しした通りですが、効力は術者の魔法に対する理解度や練度、才能に依存します。使い始めは相手を弱らせる程度かも知れません。ですが、使い続けることで理解度が深まり相手を即死させるまでに至ります。」
俺は何となく理解できた。とりあえず使って使って使いまくるのが成長の一歩なのだと。俺はとりあえず使ってみるためにルナにイメージの仕方を教わることにした。
「分かった。じゃあどんなイメージなのか教えてくれ。」
「まず相手に対する負の感情を募らせます。あの時の我は、リフォン様を危険に晒した事に憤慨しておりました。そのような感情が大前提です。そして相手の姿を思い浮かべて自分の闇魔法が相手の命を奪うイメージをして完成です。」
いや完成ですじゃないが、とツッコミたかったがグッと堪えた。そもそも感性が俺とは異なるため俺が合わせる必要があると感じた。この世界では死が当たり前だ。肉を食べるにも魔物を討伐したりする。例え子どもであっても死を直視している。そんな世界なのだから自分の魔法が相手の命を奪うイメージなんて容易いものなのだろう。でも俺にはできなかったと言うよりしたくなかった。俺はよそ者だ。前世の記憶を保有しながらこの世界に転生してきた。だから倫理観や感性がまるで違うのだ。でもこの世界に来て何度も死を直視してきた。思い返せばすぐに命を奪った光景が蘇ってくる。前世の感性を捨てずにこの世界に染まりきることなく生きていくか、この世界に染まりきるか俺は悩んだ。でも今悩んだところで何も変わらないと思い悩むのをやめた。
「じゃあやってみる。」
俺はそう告げイメージをしてみた。目の前にビリヤーがいると想像してそのビリヤーを即死させる様をイメージした。俺の闇魔法がビリヤーに侵食していき心臓を止めコロンとビリヤーが死ぬ様を。そして俺はその闇魔法を手から出現させた。ルナが使った闇魔法と同じ感じの闇魔法が俺にも使えて俺は歓喜してルナに聞いた。
「できたよな!?」
「はい。それはもう完璧に。」
俺はその言葉を聞き嬉しく思ったが同時に複雑な感情を抱いた。今の俺は前世の感性を完全に捨てていた。きっと闇魔法を使えば使うほど闇魔法の理解度は上がるだろうが、それと同時にこの世界に染まるということだと痛感した。流石に無意味に殺傷をするような感性にはなりたくないし、死が当たり前だとも思いたくはない。こんな俺はこの世界では異端だと実感しつつも染まりきれない優柔不断さにため息をついた。ふとみんなのことが気になり目をやるとみんな起きており、キリも良いからとここまでにすることにした。
次回もお楽しみに




