142話 後8階
二十三階層に上ってきた俺たちは寒さに凍えた。なんと二十三階層はバルフィー山脈と同様の気候だった。吹雪が吹き荒れ、肌は凍てつくように寒く、火魔法で温め合わないとすぐにでも体が凍ってしまうのではないかと思うほどだった。とりあえず俺、リベル、ジュナで火魔法を出現させてみんなを温めた。それでも寒いは寒かったが、かなりマシでようやく身動きが取れるようになった。
「寒いよー…」
ルリが悲壮感漂う声で言った。水の精霊であるアプサラスにとってこの気候はかなり辛いらしい。俺はできるだけ温度を上げてルリが凍ってしまわないように努めた。
「流石にこんなに吹雪の中進むのは危険だからどこかで休もう!」
吹雪の中リベルがみんなに言った。みんな寒さに凍えてまともに返事はできていなかったが、ユディは違った。
「かまくらを作るからみんな手伝ってくれ!」
俺たちは藁にもすがる思いでユディを手伝った。ルリは水魔法でかまくらの形を作り出し、俺とリベルとジュナはできる限り雪を集めた。ルナは寒さに弱いのか三角座りでガタガタと震えていた。そんなルナなんか気にせずみんな作業を行った。みんな一秒でも早く風を塞げる場所に避難したいためだ。ユディがルリが作ったかまくらの形に合わせて雪を積んで簡易的なかまくらができた。ルナはかまくらができる前にある程度形になった段階でかまくらの中に入っていた。ユディは崩壊する危険があるから入るなと言っていたが、我慢できなかったのかかまくらの壁に身を寄せて風を避けていた。かまくらの中は風を凌げるだけでなく、焚き火の熱も反射してくれているのか暖かかった。
「ありがとう。」
俺がユディに感謝を伝えるとみんなも同様に感謝を伝えた。
「当たり前のことをしたまでだ。」
ユディは優しく微笑み言った。顔だけでなく性格までイケメンなユディに再び感謝を伝えた。吹雪は一向に止む気配がなく俺たちはどうするか話し合った。
「俺が探索しに行こうか?」
ダナフたちとバルフィー山脈で生活していたユディの提案は魅力的だったが、誰も賛同はしなかった。でも一人で行って帰って来れなくなる可能性があるからとやんわり否定しておいた。
「リフォンの断絶壁はどうなの?」
「まだ試してないから分からないけど、多分大丈夫だと思う。でもその場合、風魔法で物理的に壁を作ることになるだろうから視界は悪いまま、というよりさらに悪くなると思う。」
そう答えるとみんな黙ってしまった。そもそもこの吹雪が止めば良い話だから、その日はかまくらの中でじっと待つことにした。暖かさにいつの間にか眠っていた俺が目を覚ますと外から聞こえていた風の音が止んでいるのに気づいた。
「みんな吹雪が止んだ!」
俺がそう言うとみんなは寝ていたのにすぐに目を覚まし外を見た。各々で歓喜しており俺たちは素早く朝食を済ませて、吹雪が止んでいる今のうちに探索することにした。いつ吹雪いてもおかしくない環境なため二手に分かれたりせずみんなで探索することにした。でも固まっていては見落としがあるかも知れないからと俺、ルナチーム、リベル、ユディチーム、ジュナ、ルリチームの二人一組で横一列になり、広い範囲を探索できるようにした。もし魔物に出会した時は真ん中に向かって逃げるように言っておいた。
昨日は吹雪で一メートル先も見えない状況だったからそこがどんな階層なのか分からなかったが、そこはだだっ広い平野だった。所々に木が生えているだけの平野だったが、雪景色を鮮明に見渡せるため俺にとっては極上の眺めだった。ただだだっ広いだけの平野だから横一列になる必要はないと思っていたが、それはすぐに間違いだと気付かされることとなった。
「「わぁ!」」
なんとジュナとルリが声を上げた瞬間、一瞬にして俺たちの視界から消えたのだ。俺は何が起こったのか分からなかったが、ユディが言った。
「クレバスだ。」
俺は一瞬理解できなかった。普通の平野にクレバスほどの亀裂や穴があるとは思えなかったからだ。それに視界の先には木も生えているためここが陸地なのは間違いないだろう。でも現にジュナとルリはクレバスに落ちたと思われるので、俺たちはすぐに二人の元に駆け寄った。なんとそこには直径二メートルほどの穴が空いており、ジュナとルリの姿は見当たらなかった。俺は二人を助けに行こうと飛び込もうとしたらユディに止められた。
「中はかなり寒そうだからリベルと一緒に行け。じゃないと最悪の場合凍死するぞ。」
俺は自分の行動が軽率だったと反省した。前にちゃんと考えてから行動すると自分に言い聞かせたのにも関わらず、また考えずに行動してしまった。感情で動いてしまうことは悪いことではないが命取りとなるためすぐにでも治さなくてはいけない。でも今はそんなことよりジュナとルリだ。俺はリベルの手を握り風魔法で穴の中に飛び込んだ。
「ふぉーーー!」
リベルはアトラクションに乗っているような反応を見せたが、俺は早く二人を見つけないとと思いまっすぐ飛んだ。少ししたら寒さが襲ってきた。ユディの言った通り俺一人だったらヤバかっただろう。でもジュナはもっとヤバいだろう。ルリは水魔法しか使えないからモロに寒さを感じているはずだ。俺はさっきよりスピードを上げて探そうとした瞬間とあることに気づいた。何と上下左右様々な方向に分かれ道が作られており試しに分かれ道に入るとそこは部屋のようになっていた。それで俺は確信した。ここは蟻の巣だと。それなら今まで通ってきた道の下側にある部屋にジュナたちがいると思いすぐに引き返した。その時ルリの声が聞こえてきた。
「リフォーン!早く来てー!ジュナが寒そうだよー!」
その声は巣の中で何度も跳ね返り全方向から聞こえてきた。俺はその声に翻弄されそうになったが、きちんときた道を引き返しジュナを探した。少し戻ったところに火の玉が見えた。俺はその火目がけてトップスピードを出した。
「ジュナ!」
部屋に入るとそこにはガタガタと震えているジュナと涙ながらにキョロキョロしていたルリがいた。俺はすぐにジュナの手を掴み、それを見たリベルがルリの手を掴んだ。それを確認してすぐに地上まで飛んだ。飛んでる最中、体温と火魔法で温めジュナを精一杯温めた。しばらく温めているとジュナの震えが少し収まったのが分かった。俺は安堵したと同時に早く地上に上がるために尽力した。リベルが雷魔法できた道を傷つけてくれていたおかげで迷うことなく地上に上がって来れた。
「大丈夫か!?」
地上ではユディが火を起こしてスープを温めてくれていた。俺はジュナを座らせてゆっくりとスープを飲ませた。ジュナはまだ少し震えていたが、何とかゆっくり呼吸できる状態まで回復した。後から話を聞いたところルナが木を切って持ってきてくれたからそれで火を起こして、凍えてるであろうジュナのためにスープを温めていたのだ。気遣いのできる二人とリベルのおかげでジュナは一命を取り留めた。もう少し遅かったら、誰かが欠けていたらと考えると恐ろしくて考えないようにした。
ジュナが回復した後俺はユディとルナに中は蟻の巣のようになっていることを伝えた。するとユディがその特徴からバルフチーティーではないかと推測した。バルフチーティーは極寒地域に好んで生息する大型の蟻で体長は五十センチほどと大きくはないが、数千から多くて数万の蟻がいるらしい。俺たちはその数に絶句した。おそらく俺たちが行ったところは表層も表層だろう。そこまででかなり苦労したのにさらに、莫大な数のバルフチーティーがいるとなるとかなりの苦行になる。巣の大きさは想像を遥かに超える大きさだろうから安全地帯から魔法で討伐するのも物理的に不可能だろう。どうすれば良いのか俺は頭を悩ませた。そんな時ルナが言った。
「我ならそんな奴ら即死させてみせましょう。」
俺はこんな時に何の冗談だとルナの顔を見たが、ルナの表情は真剣そのもので俺はやれるのかと思い聞いた。
「本当にできるのか?」
「はい。」
ルナは自信満々に答えた。俺はそこまで言うならとルナに任せてみることにした。
「リフォン様、みなさんを連れて上空に避難しておいてください。」
俺はその言葉に従いみんなと手を繋ぎルナの上空に避難した。それを確認したルナが手を地面につき何かを始めた。辺り一帯をルナの闇魔法が覆い尽くした。そしてその闇魔法がそのまま地面の下へと消えていった。俺たちは何が起こっているのか理解できないでいると、ルナが言った。
「終わりました。」
俺はその言葉に何をしたのか余計理解に苦しみ直接聞いた。
「な、何をしたんだ…?」
「先ほどの闇魔法は自分より弱い存在を即死させる闇魔法です。」
「「「えーーー!?」」」
俺たちはその言葉に顎が外れそうなほど驚いた。俺たちが扱ってきた魔法はその特性を活かしたような魔法しか使えず、魔法という超常現象の枠には一応収まっていた。なのに闇魔法はその枠を飛び抜けてしまっている。俺はあまりの情報にぶっ倒れてしまいそうになった。俺はそれからしばらくの間ルナに闇魔法を教わった。なぜなら俺も闇魔法を使えるからだ。そんなにも強い闇魔法が使えるのに使わないのは勿体無いと思ったのだ。リベルたちは俺が闇魔法を使うのは否定的だったが、俺は止まらなくなってしまった。その日はもう暗くなってしまったので明日しっかりと闇魔法を教えてもらうことにした。
次回もお楽しみに




