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転生するなら貴族の飼い猫でしょ 〜飼い猫兼相棒として異世界を旅します〜  作者: 描空
ダンジョン編

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141話 後9階

ニ十一階層をルナのおかげで突破した俺たちは次の二十二階層に上った。そこはビリヤー山脈のような山が(そび)え立っていた。見慣れた光景に少し安心感を覚えた。二十一階層のような砂漠は何が起こるのか、何がいるのか分からず、さらに生き延びるのも困難な場所だった。でも今回は山であることからある程度何が起こるのか、何がいるのかは想像しやすく、生き延びるのは容易な場所であるため安心したのだ。リベルとジュナも良かったと言わんばかりの顔で安堵のため息をついた。


「今回は前回より断然楽だな。」


ユディも同じ考えらしく俺たちには楽勝ムードが漂っていた。でも、二十二階層が想像通り楽に勝てる相手なはずがないと気合を入れた。


「前回より強い相手かも知れないから油断しないように。」


俺がそう言うと、みんなきちんと真剣な眼差しになり気合を入れたことが分かった。ルナは元から緊張感を持っており頼れる(しもべ)だと感心した。


「これだけ木々が生い茂ってると空から見渡しても何がいるのか分からないだろうから歩くよ。」


俺たちは山の中に足を踏み入れた。しばらく歩いても魔物どころか動物すらいない。ただ木々が生い茂ってるだけの山を登っているとルナが言った。


「二手に分かれませんか?我とリフォン様が飛べるのでどちらかに分かれて効率化しましょう。集合する時も飛べた方が早く集まれます。」


俺はその提案に納得してどう分かれるか話し合うことにした。その結果俺、ジュナ、ルリチームとルナ、リベル、ユディチームになった。ルナが二人を抱えて飛べるのか心配で聞いたが、実際に二人の手を取り飛んで見せた。涼しげな顔でやってのけたので安心して送り出すことにした。俺たちは現在地からまっすぐ進み、ルナたちは反対から俺たちに向かって進むという感じだ。山頂を挟んでいるので最後は飛んで合流する形をとった。それからずーっと山を登っていたが、一向に魔物が現れたりする気配はなかった。そんな時痺れを切らしたジュナが叫んだ。


「出てこいやー!」


あまりの声量にルリが驚いて耳を塞いだ。それなのにこの階層にいるはずの魔物は出てこなかった。ここまでくるとこの階層には魔物がいないのではないのかとも思えてきた。だが、警戒を怠ることなく歩みを進めた。そのまま進んでいると山頂付近まで来てしまった。日はかなり落ちておりもうすぐ夜となりそうだった。俺はジュナとルリと手を繋ぎ山頂に向かって飛んだ。しばらく山頂でルナたちを待っていると浮かない顔でやって来た。


「その様子だと何もいなかったんだな?」


三人はこくりと頷いた。


「とりあえずもう暗いから麓付近で夜を明かそうか。」


俺たちは山の麓まで戻りそこで夜を明かすことにした。一日歩いていたからかなりの体力を消耗しており夕食を食べてすぐに眠ることにした。俺は断絶壁を展開して魔物たちを警戒した。俺が風魔法ベッドで寝ようとするとルナが起きていることに気づき話しかけた。


「寝ないのか?」


「我は見張っております。リフォン様の風魔法が完璧なのは身をもって理解しておりますが、もし夜襲をかけてくる相手ならば正体を掴まねばなりません。ですから我は起きておきます。リフォン様はゆっくりとお休みください。」


「お言葉に甘えて寝させてもらうけど、もし夜襲かけられたら起こしてくれよ。俺も相手を確認しておきたい。」


「分かりました。それまではごゆっくりお休みください。」


俺はルナに不寝番を任せて眠りについた。思っていた以上に疲れていたのかすぐに寝てしまった。


「おはようございます。」


ルナに起こされることなく目が覚めると朝日が昇っていた。


「夜襲はなかったのか?」


「はい。この階層に魔物等はおらず山を探索して次の階層に続く階段を見つけるだけの階層なのかも知れません。もしくは、魔族のように知性のある者でリフォン様の魔法には歯が立たないと手を出さなかったのかも知れません。」


できるなら前者だと嬉しいが後者の可能性も十分にあるため警戒は怠ることはないようにみんなにも言った。とりあえず昨日探索できなかった所を探索するために俺とルナが木々の間を飛び大まかに探索することにした。その間、みんなは次の階層に続く階段がないか探してもらうことにした。俺とルナはある程度の速度で木々の間を飛び探索したが、魔物や魔族はおらず次の階層に続く階段らしき物もなかった。俺とルナは山頂で合流し、みんなを探した。山の中腹辺りでみんなを見つけて合流した。


「見つかった?」


みんなの反応は芳しくなかった。俺とルナも捜索に加わりかなりの範囲を捜索したがめぼしい物は見つからなかった。夜になり俺たちは昨日と同じように断絶壁で守り寝ようとしたが、これがダメなのではないかと感じた。知性の高い相手なら完全に油断したであろう時まで息を潜めて時を待つだろうから、それを逆手に取り襲って来たところを返り討ちにするのだ。でもこの作戦はハイリスクハイリターンであり負傷者を出すリスクは回避できない。俺が思い悩んでいるとそれに気づいたリベルがテレパシーを送って来た。


(何思い悩んでるの?)


(良い策を思いついたけど、ハイリスクハイリターンだからどうしようかなって…)


俺がそう言うとリベルは言った。


(僕たちなら大丈夫だって。それに僕たちにはリフォンがついてるんだから。)


俺頼りじゃないかと言いたかったけど、今はユディもいるしルナもいるから近接戦闘もできる。危険になれば俺の断絶壁で守ることもできる。俺は覚悟を決めてみんなに作戦を伝えた。意外にもみんな乗り気で俺は恐怖心とかないのかと言いたくなった。でもその思いは心のうちにしまい作戦を決行した。俺たちは眠っているフリをして相手がどう出るか待った。俺は猫の目で暗闇もしっかりと見え、ルナ曰く悪魔の目も暗闇がしっかりと見えるため、俺とルナが座って寝ているようにしていつでも動けるようにした。


どこからともなくザッザッと足音が聞こえてきた。足音の数からして三匹だ。その少なさに俺は内心驚いた。先遣隊なのか暗殺に特化したベテランなのか分からないのが心配だが、ルナは一切動揺していないのが呼吸の安定感で分かった。俺は起きていないことを悟られないために呼吸するので精一杯だった。次第に俺たちを襲いに来た奴らの姿が見えてきた。なんと奴らの見た目は地下迷宮で見たゴブリンとそっくりだった。でも違う所も幾つかあった。異様に発達した耳、牙、そして小さいながらも二本の角があった。ゴブリンは小鬼と書くとどこかで聞いたことがあったが、まさか鬼のダナフたちと同様に角がある個体がいるとは思わなかった。


「ガギギググ?」


「ギギガグギ」


ダナフたち同様聞き取れない言葉で話しているのが分かった。奴らは完璧に俺たちが寝ていると思っていると確信した。その刹那ルナが爪を伸ばし一匹のゴブリンを瞬殺した。俺はゴブリンたちが逃げられないように断絶壁で囲んだ。その刹那ユディがもう一匹のゴブリンを切り伏せた。最後の一匹は一矢報いようと俺に向かってきた。


「醜い手でリフォン様に触れるな。」


最後のゴブリンはルナの手によって始末された。それで終わりだと俺たちは思っていた。でもそれは間違いだった。どこからともなくゴブリンたちの声と足音が聞こえてきた。断絶壁を展開しているからと安心していたが、ゴブリンが俺の断絶壁に集まってくるとその数に驚愕した。見える範囲は全てゴブリンたちで埋め尽くされており、その数は千をゆうに超えていた。俺たちはどうしようかと悩んだ。断絶壁は外に魔法を出現させることはできず中から安全に討伐するのは不可能だった。とりあえずリベル、ジュナ、ルリ、ルナには各々自分たちに被害が出ないように広範囲な魔法をイメージしてもらった。


「いける?」


俺が四人に聞くと四人は力強く頷いた。ユディにも確認したら大丈夫とのことだった。


「3.2.1、今だ!」


俺は断絶壁を消した。その刹那ゴブリンたちが雪崩のように流れ込んできたが、ルリの水魔法で押し出され、リベルの雷魔法で感電し、ジュナの火魔法で燃え出し、ルナの闇魔法がゴブリンたちを覆い尽くし息絶えらせた。俺たちは安堵のため息をついた。ユディは四人に賞賛を送っていた。すると急に地鳴りが起こった。俺たちは何が起こっているんだと驚いたが、ルナが空高く飛び辺りを見渡した。


「何が起こってるのー!」


俺がルナに聞くとルナは大きな声で返事をした。


「山頂からハシゴが伸びてます!」


俺は何をバカなことを言っているんだと思いルナの隣まで上昇すると文字通りのことが起こっていた。山頂から徐々にハシゴが上に向かって伸びているのだ。その光景に笑えたが、同時にこの階は攻略できたのだと確信した。俺はみんなの元に戻りありのまま伝えた結果、みんなも笑いその日はその楽しい雰囲気のまま眠りについた。そして朝になりみんなでハシゴを登り二十三階層に向かった。

次回もお楽しみに


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