140話 後10階
俺とルナが話を終えるとみんなは暇そうに座っていた。特に何かをしているわけでもなくぼーっと座っていた。俺たちがどれだけ話し込んでいたのか詳細な時間は分からないが、かなりの時間経っていることがみんなを見て理解できた。
「お待たせ。」
俺がみんなにそう言うとみんなはやっとかと腰を上げた。みんな何も言わず主道を進み二十一階層に向かった。俺とルナはその様子にどうしたのか疑問だった。
「みんなどうしたの?」
俺が言っても誰一人として返してくれない。俺とルナが話している間に何かあったのか心配になりリベルにテレパシーで聞いてみることにした。
(なぁリベル、何かあったのか?)
(別に。)
リベルまでこんな反応をするのは何かあったと確信して俺とルナはみんなと付かず離れずの距離で話すことにした。
「何があったと思う?」
「分かりませぬ。」
「もしかしてみんなのこと気にせずルナとずっと話してたからとか?」
「ま、まさかリフォン様と話していただけでそんな…」
ルナがそう言った瞬間みんなの視線がルナに集まった。その目つきは獲物を狩る魔物が如く鋭く俺とルナは動揺した。みんなはそんな俺たちに向かってきた。でも明らかにみんなの視線はルナに釘付けになっており、俺はどうしようもできなかった。そしてみんながルナの前で立ち止まると一斉に声を上げた。
「どれだけ話してたから分かってる!?具体的に時間を測ってたわけじゃないけど小一時間は余裕で経ってるよ!」
「長すぎるんですよ!俺たちがどれだけ待ったことか!」
「いつ終わるのかも分からず待ってた俺たちのことも考えろ!」
「先に行かずに待ってた私たちを褒めて欲しいぐらいだわ!」
みんなルナに向かって言っているが、内容的には俺も怒られる立場であったため申し訳なく思い反省した。でも、暇を潰す方法はファンタジーリュックを漁れば何かあったのではないかと思ったが、こういう時に反論するのは却って怒りを増幅させるだけだ。だから俺はそっとその思いをしまった。ルナを見ると不満たらたらの様子だったが、何も言わずじっと耐えていた。本心は分からないが、こういう時は反論するべきではないと知っていたのだろう。俺たちはそのまましばらく怒られることにした。しばらくするとみんなの怒りは治ったのか、また二十一階層に向かって歩き始めた。道中に首と胴体が繋がっていない魔物の死骸がありルリが顔を顰めていた。俺はルナの後処理をすっかり忘れておりすぐに水魔法で処理した。
「ルナ、討伐してくれるのはありがたいけどできるなら後処理までお願いできないかな?」
「分かった。」
リベルがルナに言いルナは素直に返事をした。きっと俺がリベルの使い魔だというのもあるだろうが、これから先ずっと一緒に過ごすだろうから軋轢が生じるのは本望ではないのだろう。俺からしてもこのままルナがみんなと仲良くなれることを祈っている。
そんな感じで進み二十一階層に着いた。そこから雰囲気がガラッと変わり、広大な砂漠が広がっていた。なんとダンジョン内であるのに日差しがあるのだ。俺は光景に呆気に取られていた。アプサラスたちの洞窟のようにダンジョンの階層が全く異なる場所になるのは理解していたが、まさか終わりが見えないほど広大な砂漠が広がっているとは思わなかった。みんなも俺と同様に驚いていた。それよりルリが干からびてしまわないか心配したが、俺が心配した時には全身に水を纏っており大丈夫そうだった。とりあえず何がいるのか、どこに次の階層に続く階段があるのか探すために飛ぶことにした。俺はリベルとジュナと手を繋ぎリベルがジュナと手を繋ぎジュナがルリと手を繋いだ。
「ルナは自分で飛べるよな?」
「はい。」
「俺はみんなと飛ぶからルナは辺りを飛んで魔物がいないか探してくれ。」
「承知致しました。」
ルナは翼を生やし軽々と飛んで行った。俺は飛ぶのが久しぶりだったから落ちたりしないようにゆっくりと飛んだ。しばらく飛んでも魔物の影すら見つからなかった。でもそれより問題なのは日差しの方でジュナに水の屋根を作ってもらい雨を降らしてもらった。正直言って濡れるのはあまり好ましくなかったが、熱中症になるよりはマシだと割り切り浴びた。ルリは嬉しそうに笑っていたが、俺を含めみんなは笑ってはいなかった。しばらくするとルナが戻ってきた。
「魔物は見当たりません。それどころかこの階層は壁がありません。」
その言葉に俺たちは戦慄した。今までの階層とは全く異なるこの階層にどのような魔物がいるのか、次の階層に行くにはどうすれば良いのか全く分からないためだ。もし砂の中に生息している魔物であれば、姿を見せてくれないと討伐することは不可能に近い。だらと言って次の階層に続く階段を探そうにも、この階層は壁がないため壁伝いに探す方法は使えない。この状況をどう打破するのか俺にはさっぱり分からない。だからと言って諦めるわけには行かずどうするか作戦会議を開いた。
「まず確認なんだけど、本当に壁はないのか?」
「我が最高速で一直線に飛んでも辿り着かなかったことから壁はないと考えます。」
「道中魔物を見落としたりは?」
「しておりません。」
何か条件があるのか考えているとリベルが言った。
「ここの魔物は砂の中にいるんじゃない?」
ここまできたらそう考えるのが妥当だろうが、この広大な砂漠から魔物を探すのは骨が折れるどころの騒ぎではない。その現実から目を背けたくて別のことを考えていたけど、もうそれ以外ないだろう。
「砂の中にいると仮定してそいつをどうやって釣り出す?」
俺がそう言うとみんな少し考えてユディが言った。
「肉や魔法を落として反応があるか確かめよう。」
ユディの策を採用して肉を落としてみることにした。その刹那肉は跡形もなく消えた。でも俺には見えていた。ミミズのような形状の魔物が一口で肉を丸呑みした様子が。俺はその光景にゾッとした。もし誰かが降りていたらと考えると恐ろしい結果になっていたであろう。俺はみんなに見た光景を伝えるとルナが言った。
「ヴィシャールキーチュワですね。砂漠に潜む掃除屋と呼ばれていて、奴らのナワバリに一歩でも足を踏み入れると跡形もなく食い尽くされることからそう呼ばれています。生態はミミズに似ていますが、干からびることはなく何でも食べることから毒餌を与えて討伐するのがメジャーです。」
ルナの有益な情報に心から感謝した。早速毒餌をと思ったが、毒は持っていないし作ることすらできない。万策尽きたと落胆すると、またしてもルナが言った。
「我の闇魔法で毒が生成できます。リフォン様許可を。」
「許可する。というか頼む。」
俺はルナに最大限の感謝を伝えた。端にいるユディがファンタジーリュックの中からある程度の肉を取り出しルナに渡した。するとルナは少し離れた。
「闇魔法は嫌いとのことですので我一人でやります。少し離れていてください。」
するとルナは肉に闇魔法を使った。ルナが持ってた肉はみるみるうちに黒く変色していき真っ黒になった。毒とは思えない色だったが、毒性が強すぎて変色した結果そうなったのだと解釈した。ルナが持っていた肉が全て変色するとそれを辺りに均等にばら撒いた。その刹那肉が全て消えた。少しの間何の反応もなかったことから失敗かと思ったが、その瞬間聞いたこともない音が聞こえてきた。高い音でギリギリといった音や石と石がぶつかり合っているような擦れ合っているような形容し難い音が聞こえてきた。しばらくすると音は止みルナが地上に降りた。俺たちは大丈夫なのかと心配したが平気そうだった。俺は少し心配だったが降りてみると案外何ともなく拍子抜けだった。
「リフォン様ここの砂を全て吹き飛ばす感じで風魔法を使ってください。きっと死骸になったヴィシャールキーチュワがいるはずです。」
俺がそう言われ思いっきり風魔法を使うとそこには砂と同じ色で分かりづらかったが、ミミズのような胴体に胴体の太さと同じ大きさの口が見えた。その見た目に嫌悪感を抱いたのは俺だけではなかった。みんなヴィシャールキーチュワの死骸を見た瞬間しれっと視線を逸らしていた。
「おそらく一定数のヴィシャールキーチュワを討伐すれば次の階層に行けると思いますので、この死骸を使って他のヴィシャールキーチュワを討伐してきます。我は悪魔ゆえそう簡単には死ねませんのでご安心を。リフォン様は人間なのですから安静にしておいてください。それでは。」
そう言うとルナはそこにいたヴィシャールキーチュワの死骸を全て持って飛んで行った。それから俺たちは安静にしていると手ぶらなルナが帰ってきた。
「次の階層に続く階段を見つけました。行きましょう。」
俺はなんて頼れるんだと感激した。ルナがいなかったらここでリタイアだったと確信した瞬間でもあった。
次回もお楽しみに




