138話 悪魔
特定条件下ではなくなったダンジョンは思いの外簡単だった。以前捜索依頼で来た時のラヴァーチプカリーのような強い魔物は出てこず、前はハズレクジを引いたんだなとリベルたちと話し合っても攻略できるほどだった。十五階二十階とドンドン攻略していった俺たちは手応えがないと落胆していた。そんな俺たちの気分を晴らすように現れた者がいた。
「フハハ!我はルナ・カタリア悪魔である!貴様らが我をこのダンジョンに閉じ込めたのであろう?この恨み晴らしてくれるわ!」
そいつはタキシードを着込んでいた。さらに耳は長くドラキュラのような牙もあった。黒髪サラサラヘアーイケメンで俺は一瞬イケメンだなーと見惚れてしまうほどだった。でもそいつは俺に一直線に向かってきたから光魔法の浄化をした。
「ウギャーーー!」
魔族、魔人に光魔法の浄化が効果覿面なのは覚えていて良かったと思った。でもまさか悪魔までいるとはと思いつつその悪魔に目をやると死にかけの虫のように仰向けでひっくり返りピクピクしていた。俺はもしものことがないように断絶壁を展開して声をかけた。
「おーい大丈夫か?」
そいつはまだピクピクしており俺は光魔法の回復を試してみた。
「ギャーーー!」
なんと悪魔には回復も逆効果らしく俺は何だか申し訳ないことをしたなと申し訳なく思った。俺がそんなことを思っているのにみんなはクスクスとこの悪魔を嘲笑している。俺は流石に可哀想じゃないかと思ったが、こいつから向かってきたわけだし俺は悪くないと思うことにした。俺は妙案を思いついた。光魔法がダメなら闇魔法は良いんじゃないかと。でも闇魔法を使えることはリベルにすら伝えていないトップシークレットなのにこんなところで使って良いのかと悩んだ。そんな時リベルからテレパシーがきた。
(何悩んでるの?)
(い、いやー…)
俺は伝えるか伝えないか悩んで結論を出せずにいた。するとそれを察したのかリベルが言った。
(僕にも言えないことなの?僕とリフォンの絆はその程度なの?うぅ…)
何とテレパシー越しにリベルが泣きそうになったのだ。俺はこんなリベル見たことないと驚きと伝えなくてはいけないという使命感から話した。
(驚かないで欲しいんだけど、俺、闇魔法使えるんだ。)
「え!?」
俺の言葉に対してリベルは驚きすぎてテレパシーじゃなく普通に言葉を発してしまったのだ。リベルが急に驚くからみんな何事かとリベルの方を見た。俺はもう隠すことはできないと直感し話すことにした。
「実は俺、闇魔法が使えるんだ。」
「「「えー!?」」」
みんな今までにない声量と表情で驚いた。それもそのはずだ。闇魔法は魔人にしか使えない魔法だからだ。厳密に言えば激しい憎悪や恨みを持っている者であれば使える魔法が闇魔法なのだが、人間や魔族ではその領域に達することはまず不可能なので魔人にしか使えないというわけだ。だから俺が使えるのはイレギュラー中のイレギュラーなのだ。俺はどうやって説明しようかと悩んでいるとみんなが俺のことを心配してきた。
「僕がリフォンに嫌なことしちゃった…?」
「俺がダメダメなのがストレスですか…?」
「魔法を使えない俺に対して何か思うところがあるとかか…?」
「私が無理矢理契約を迫ったから…?」
みんな泣きそうな顔で自分に非があるんじゃないかと言ってきた。俺はそんなみんなを落ち着かせるために嘘を言ってるように事実を言った。
「実はー夢に出てきた女神様に闇魔法を使えるようにしてくださいって冗談でお願いしたら、女神様が良いよーって使えるようにしてくれちゃったんだよね。」
俺がそう言うとみんな一瞬ポカンとしていたが、すぐに俺の言い方に気がつきリベルが笑い言った。
「優しいのかどうか分からない女神様だね。」
リベルの言葉にみんな笑いその場は何とか良い雰囲気で終わった。と思ったその時断絶壁の向こうにいる悪魔が言った。
「き、貴様闇魔法が使えるのか…なら我を助けてくれ…」
今にも消え入りそうな声で悪魔が言った。でも俺はすぐに反論した。
「俺がお前を助けるメリットは?」
悪魔はその言葉を聞いた瞬間、一瞬だけ目を逸らしたが、すぐにこちらを向き言った。
「わ、我が貴様の僕となる。我は貴様らには一切手出しせず、貴様は我を好きに扱える。敵情視察にでも魔物討伐にでも何でも命令できる。これならどうだ。」
かなり魅力的な提案に俺は一瞬良いなと思ったが、リベルとジュナがすぐに止めた。
「絶対罠だよ。」
「そうですよ。悪魔なんて実態が分からない奴の言うこと信じるんですか?」
リベルとジュナがそう言うとユディとルリが反論した。
「魔族と人間の契約は絶対服従だ。だからリベルとリフォンの使い魔契約とは違う。だからこの悪魔を意のままにできる。しかも名有りの悪魔だからかなり高位の悪魔のはずだ。契約して損はない。」
「そうだよ!それに契約の効力は絶大で賢者にだってその効力を上書きすることはできないんだよ。絶対に契約した方が良い!」
俺たち人間よりその辺りに詳しい魔族の二人がそう言うのなら事実だろうと確信して俺はその悪魔と契約することにした。
「どうすれば契約できるんだ。」
「血を我に飲ませこう言うんだ。我、汝の主人にならんと。」
俺はファンタジーリュックからナイフを取り出し右手の人差し指の腹を切った。そして断絶壁を消してその悪魔に血を飲ませ言った。
「我、汝の主人にならん。」
すると悪魔が続けた。
「我、主人の僕とならん。」
するとルリと契約した時のように眩い光を放った。悪魔に変化はなく味気ないなと思っていると悪魔が言った。
「や、闇魔法を…」
俺はすっかり忘れていたが、何とか闇魔法を使い回復させた。闇魔法は初めて使うため上手く使えなかった。黒色の魔力が俺の右手から出てきて汚いと思ったが、本当に悪魔は闇魔法で回復しており温泉に浸かったお爺さんのように心地良さそうにしていた。しばらく続けていると悪魔は全快したのか立ち上がり片膝をついた。
「改めて、我はルナ・カタリア。気軽にルナとお呼びください。」
俺たちは一人づつ自己紹介をした。ルナは俺のことをリフォン様と呼び他のみんなは呼び捨てにすると宣言した。きっとこの宣言には主人と認めるのは俺だけで、他のみんなは俺の仲間という扱いであるため俺の命令しか聞かないという意図があったのだろう。俺はルリの名付けの時にルナと付けなくて良かったと安堵しており気にしなかった。
「リフォン様、ダンジョン攻略に戻りますか?」
ルナに問いに俺は闇魔法を使って疲れたと答えるとルナが目を輝かせて言った。
「それなら我がリフォン様を癒してみせます。」
俺が風魔法のベッドに乗りながら何をしてくれるのか期待していると、ルナは俺をうつ伏せにさせて上に乗ってきた。俺は何をするのか一瞬怖かったが、そんな気持ちはすぐに快感に変わった。ルナは肩や腰、太腿をマッサージしてくれたのだ。最近ダンジョン続きで疲れていた俺にはそのマッサージが天にも昇る心地で最高だった。きっと情けない声が漏れていたと思うがそんなの気にしなかった。
「どうですか?」
ルナが得意そうに聞いてきた。
「最高…」
俺は気持ち良すぎてまともな感想は出てこなかったが、それが余計に気持ち良さを表見しておりルナは嬉しそうに答えた。
「それは何よりです!」
それからもルナは献身的にマッサージをしてくれて俺はルナに感謝の意を表した。それは闇魔法だ。ルナのさっきの表情で悪魔にとって闇魔法は心地良い物だと分かり、ルナにも気持ち良くなってもらいたいと思いやった。でもリベルたちにとって闇魔法は良い物ではなく不快な顔をしていた。ユディとルリも不快な顔をしていたから俺は闇魔法について聞くことにした。
「ユディとルリは魔族だけど闇魔法が嫌いなのか?」
俺が聞くと二人は声を揃えて言った。
「「嫌い。」」
俺が魔神城で会った奴らは闇魔法を好んでそうだったから、魔族は闇魔法が好きなんだと思っていたがどうやら違うらしい。俺の誤解を正すために聞いたところ、闇魔法を好む魔族もいるけどそれは根っからの悪者ぐらいで普通の魔族は人間とほとんど同じぐらいの感性らしい。そもそもあの魔神城にいたら奴らは実際にはいないことから、魔神が都合の良いように作り出した奴らなんだと勝手に思うことにした。とりあえず今日のところはかなり良い感じで一日を終えることができて俺は大満足だった。
次回もお楽しみに




