136話 死
俺たちは八階層に上がった。そこは普通の階層で魔物も大して強くない階層だった。だからサクサク攻略して九階層に上がった。そこも八階層と同様に大して強くない階層だった。でもルリの訓練にはもってこいの強さだったから俺たちはルリと一緒にどう立ち回るのが良いかなどを話し合いながら攻略していた。ルリは戦闘経験が皆無なことから俺が指示したタイミングでのみ水魔法を使ってもらうことにした。水魔法で俺たちのことを守ってもらったり、魔物の邪魔をしてもらったりと基本的なことをしてもらった。一人魔法を使える者が増えるだけでかなり戦闘が楽になったのを実感した。なんだかんだあって九階層のボスも討伐していよいよ十階層まで辿り着いた。以前の捜索依頼の時にムーアから聞いた情報とは打って変わって、今は特定条件下ということもあり俺たちは今までとは全く違う魔物が出てくるのではと警戒して進んだ。
するとそこはいつも通りの主道に分かれ道のある構造だったのだが、魔物の死骸が見るも無惨な形で放置されていた。腹を貫かれた個体や頭がない個体、真っ二つに引きちぎられた個体など、どんな魔物なのか識別できないほどの状態だった。俺はその光景に吐き気を催した。リベルたちも酷いとしか言えない状況でルリはユディの背中の後ろに隠れていた。俺は流石に可哀想だと思い火魔法で火葬してから水魔法で海に散骨なような形で弔った。
俺たちはこんな風にしたやつがどんなやつなのか確かめるためにゆっくりと歩みを進めた。特定条件に含まれているやつだろうが、そいつが味方とは限らない。俺たちは今まで以上に警戒して進んだ。分かれ道にいるかも知れないと思い、正面は俺、分かれ道はリベルとジュナ、背後はユディに任せてどこからの奇襲にも対応できるようにした。そのまましばらく進むと俺の視界に人影が映った。俺はみんなに小声でそのことを伝えるとみんな正面を向いた。かなり距離が離れていることから相手はこちらに気づいておらずどうするか決めかねていた。そんな時その人影が一瞬で顔をこちらに向けた。俺はその刹那ヤバイと確信して断絶壁を展開した。リベルたちが反応した頃には展開し終わっておりそいつが俺を狙って氷魔法を撃った。俺の目の前の断絶壁で氷魔法は止まり九死に一生を得た。俺は安心して瞬きをした。それが間違いだった。今まで視界に捉えていたはずのやつがいなくなっていたのだ。
「やつが消えた!」
俺がそう言うとみんな事態の急変に対応できるように背中合わせになった。俺たちはしばらくそのまま警戒していたが一向にやつは現れなかった。
「い、いなくなった?」
リベルがそう言うがまだ油断はできない。俺たちは背中合わせの状態のままゆっくりと後退りした。どれぐらい経ったか分からない。一分かも知れないし一時間かも知れない緊迫した時間が流れた。俺以外のみんなは流石にもう大丈夫だろうと言い警戒心を緩めた。俺は襲ってくるなら今だと思い全神経を尖らせた。でもやつは襲って来なかった。俺は本当に大丈夫なのか不安だったが、警戒心を緩めた。でも断絶壁はそのままにしておいた。もし万が一のことがあってはならないためだ。俺はその日は不審番をすることにした。全員が寝てしまったらやつに殺されると確信していたからだ。やつからはそれほどの殺気を感じた。でもその日は襲って来なかった。俺は少しだけ安心した。俺は魔力消費を少しでも抑えるために光魔法で断絶壁を維持できないかと試行錯誤した。その結果なんとできたのだ。魔力消費をかなり抑えられることに俺は歓喜した。俺はすぐ我に帰り辺りを警戒した。
「おはよ。大丈夫だった?」
リベルが早めに目を覚ました。
「あぁ。でも心配だ。あいつが何を考えてるのか分からないし、どこにいるかも分からない。それにあいつの魔法のスピードと威力は洒落にならない。氷魔法で殺傷能力が上がってるとは言え、俺の断絶壁に突き刺さったんだ。まともにくらえば致命傷だ。」
「リフォン寝てないんでしょ?僕が見とくから寝てて良いよ。」
リベルが俺にそう言ってくれたが、俺は拒否した。俺が断絶壁を展開するよりもほんの少しだけあいつの魔法が遅かったから助かったレベルであいつは強い。俺の猫の反射神経がなかったらきっと今頃死んでいただろう。俺以外で反応できるのは鬼人のユディぐらいだろう。だから俺が警戒していないとみんなが犠牲になるそう確信した。少しするとみんな目を覚ました。あいつの恐怖心で熟睡できておらず、みんな寝不足だった。今襲われたら対抗する間もなく蹂躙されるだろう。かと言ってこのまま進んでやつと出会したら本末転倒だ。俺が必死に考えていると後ろを見ていたユディが言った。
「あ、あいつだ…」
俺はその声にすぐに断絶壁を追加で展開しようとしたが、一歩遅かった。俺の断絶壁が展開される刹那やつの氷魔法が俺の心臓向かって飛んできた。俺はあまりの激痛に倒れ込んだ。それを見てリベルが怒り狂い俺の断絶壁をドンドンと叩きながら叫んだ。
「何しやがるんだ!よくも…よくもリフォンを!」
「リフォン!しっかり息して!」
「目を瞑るな!起きていろ!息をしろ!何とか何とか意識を保て!」
「こんなに早いお別れなんて嫌!生きて!生きてリフォン!」
みんなが涙ながらに声をかけてくれたおかげで何とか意識を保てたが、やつは俺の断絶壁にまで近づいてきて言った。
「すまない。ここから出るためには貴様を殺すのが一番速い。だから犠牲になってもらった。この風魔法の障壁は見事だ。私でも破るのは困難だ。それに反応速度も早い。私レベルでなければ貴様は殺せないだろう。だからこそ惜しい。もし生きて私の前に現れたらその時は問答無用で貴様の仲間になってやろう。貴様にはその価値がある。だが、今回ばかりはタイミング悪かった。時が違えばもっと良い出会いだったであろう。」
「偉そうに!お前なんてこっちから願い下げだ!」
リベルがそう泣き叫ぶと無機質な声が流れた。
「特定条件下ではなくなったため通常ダンジョンに移行します。」
その声が流れた瞬間やつはダンジョンの壁を殴り穴を開けた。俺たちはそのパワーに驚愕した。ダンジョンの壁の分厚さは一メートルはあり、やつはそれを一撃でぶち抜いたのだ。俺は何とか意識を保っていたが、次第に意識が薄れていき、リベルたちが目を開けろと泣き叫んでいるにも関わらず意識を失った。
次回もお楽しみに




