131話 裏切り
俺たちはバチチャの案内でアンディーバチチャの元に向かった。バチチャは女王とその親衛隊のような奴らが案内してくれた。アンディーバチチャの元に着いたらリベルとジュナが前俺とユディが後ろで挟む形を取るようにした。バチチャたちの住処から一度主道に戻り反対側の分かれ道に入った。俺は階層ボスだと聞いていたからてっきり主道の突き当たりにボス部屋があるのではないのかと思ったが、どうやら違うらしい。主道の右側がバチチャの住処で左側がアンディーバチチャの住処となっているそうだ。バチチャたちが元の住処にこだわるのは何が理由があるのかも知れないが、俺からしたら今の左右に住処を分けている現状で良いのではと思ってしまった。
「もうすぐ奴らの住処です。容赦なくお願いします。」
親衛隊の一人が俺たちに言ってきたが、俺はそこまでやらなくちゃいけないのかと未だに疑問に思っていた。でもリベルとジュナは相手がバチチャという魔物であろう生き物だからか、何も思っていなさそうな涼しげな顔をしていた。ユディは周りを警戒しており常にピリピリしていた。
「ここです。」
そう言われた場所はバチチャたちの住処と同じように大きな空間が広がっており、アリの巣を彷彿とさせた。その広い空間にアンディーバチチャたちが身を寄せ合って寝ていた。コイツらが本当に悪い奴なのか定かではないが、とりあえずリベルとジュナ、俺とユディに分かれてバチチャたちが不審な行動をしないか見張った。その間にリベルとジュナは二人で一つの大きな火魔法を作り出した。二人で魔法を撃つというのは初めて見るため俺の視線は一瞬だけ火魔法に奪われたが、すぐにバチチャたちに戻した。幸いバチチャたちは何の行動もしておらずずっと二人の魔法を見ていた。その瞬間二人がアンディーバチチャたちに火魔法を撃った。一切の苦痛を感じない威力でアンディーバチチャたちを葬り去った二人にバチチャたちは拍手を送った。
「流石です。」
「ありがとうございます!」
「皆様は私たちの英雄です!」
バチチャたちが感謝を述べた。その態度に嘘偽りはないように思えた。すると女王がリベルとジュナに向かって言った。
「本当に感謝てしもし足りません。どうか皆様を祝うために祝典を開かせてください!時間は取らせませんので参加していただけませんか?」
俺たちは特に急いでいたりしておらず限られた食料を無駄に消費しないためにも祝典に参加することにした。ユディは相変わらず警戒していたが、俺たちはすっかり心を許していたためのほほんとしていた。それから少しして俺たちの前にステーキが運ばれてきた。俺はこの肉は何の魔物の肉なのか不思議に思ったが、下の階層の魔物かなと思い頬張った。そのステーキはきちんと下味がありいつもより美味しく感じた。俺たちは美味しいと食べていたが、お腹空いていないと言ってユディは頑なに食べなかった。残してはいけないと俺たちは三人でユディの分のステーキを分けて食べた。そんな俺たちの様子を見て女王が言った。
「このご恩は一生忘れません。お疲れでしょうから今日は私たちの客室でおやすみください。少し狭いですが、部屋の前に護衛もつけますので安心して疲れを癒してください。」
俺たちはそのまま疑うことなくその部屋で寝ることにした。
「俺が見張ってるから三人はゆっくり寝ろ。」
ユディはそう言い俺たちを寝かせてくれた。ユディはまだ警戒しており流石に神経質じゃないかと思ったが、その考えはすぐに手のひらを返すことになった。
「起きろ!」
ユディの大声に俺たちはすぐに目を覚ました。部屋の扉を見るとそこにバチチャたちはおらず何をそんなに焦っているのかと疑問に思った刹那轟音が響いた。その轟音の正体は火と雷魔法らしく、俺たちを生き埋めにしようとしているとユディが言った。俺たちはとりあえず部屋から出ないとと焦り部屋の扉に向かって火魔法を撃った。幸い扉はすぐに壊れて外に出られた。俺たちが砂埃に咳き込みながら部屋を出ると女王の声が聞こえてきた。
「そのまま生き埋めになっていた方が楽に死ねましたのに。でも出てきてくださったおかげで私の家臣たちの楽しみが増えましたわ。さぁ!存分に楽しみなさい!」
女王が声高らかに言うと辺りにいたバチチャが一斉に襲いかかってきた。俺たちはすぐに火魔法や水魔法で広範囲に魔法を撃ったが、数の多さとすばしっこさ小ささに翻弄されてバチチャ用の小さな刃物で徐々に徐々に追い詰められていった。すると女王が言った。
「あのステーキ美味しかったでしょう?あれには魔法効率を下げる植物を香り付けに使いましたの。あまりに大量だと不審に思われて食べていただけないと思い少量にしましたが、これほど効果があるとは思いませんでした。後もう一つ教えて差し上げますわ。皆様が殺したアンディーバチチャたちの本当の名前はバチチャで私たちがアンディーバチチャですの。バチチャたちは皆様のためを思って私たちを攻撃したのに、皆様はそんなバチチャたちの思いなんて露知らず殺してくださって本当に感謝していますわ。」
女王は口に手を当ててオホホと高笑いしている。そんな時でもバチチャたちは攻撃の手を止めなかった。俺はアンディーバチチャたちは一体たりとも逃さない覚悟を決めた。一体一体討伐していては埒が明かないと俺はリベルにテレパシーを送った。
(今から巨大な火魔法を撃つからそれまで俺のことを守ってくれ!時間はかかるだろうが頼む!)
(分かった!)
リベルの返事を聞いた後俺はさっき二人がやっていた火魔法を思い浮かべた。二人が互いに魔力を出し合い作り出した火魔法。それを俺一人で作るのだ。火魔法と火魔法の融合という一見すると意味のないイメージに思えるが、さっき二人の魔法を見ていた俺は効果はあると確信していた。俺がイメージに時間をかけているとリベルが叫んだ。
「もう無理!」
やっとイメージが終わり俺はバチチャたちの中央上空にその火魔法を出現させた。
「それだけの魔法しか使えないなんて可哀想ですね。」
女王は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「くたばれ。」
俺は自分たちの前に風魔法で断絶壁を作り出し簡易的な防壁にして火魔法の爆発を防いだ。その刹那轟音と共に六階層が大きく揺れた。火魔法に火魔法を掛け合わせることで乗算になり飛躍的に威力が増したのだろう。最後に俺の断絶壁で守られたバチチャたちを討伐して断絶壁を消した。砂埃でよく見えなかったが、バチチャたちの声は聞こえなくなっていた。俺たちがふーっとため息をつくとユディが言った。
「だから俺は反対だったんだ!もう少し警戒心を持ってくれ!」
俺たちはユディの言葉に何の反論もできなかった。するとユディが俺たちを抱きしめた。
「良かった。本当に良かった。」
ユディの声は少し震えていた。俺たちは悪いことをしたなと猛省した。するとバチチャたちの住処が天井から崩壊し始めた。
「ヤバい崩れる!」
「逃げるぞ!」
俺はリベルとジュナの手を掴んだ。二人は察したのかユディの手を片方づつ掴み言った。
「「行くよ!」」
俺は最高速で分かれ道を駆け巡り何とか主道に出れた。でも崩壊しかけていたのは主道も例に漏れず俺は最高速のまま主道を飛んだ。すると主道の突き当たりに扉があり見えざる手で扉を開けて七階に滑り込んだ。すると扉の向こうは瓦礫で埋め尽くされた。俺たちは心的、肉体的疲労から大きなため息をついた。俺はユディに見えざる手の話をしないといけないなと思い話そうとしたらユディに止められた。
「今じゃなくて良い。落ち着いてから話してくれたらそれで良い。」
俺はユディの気遣いに感謝しつつ今は疲労回復に努めた。
次回もお楽しみに