125話 ユディと
暑くて目が覚めた。リベルとジュナが俺に抱きついて寝ていた。寒かったのか俺の体温が高いからか分からないが、俺は暑くて暑くて二人を起こさないように抜け出した。俺たちはユディの家で寝ていたようだ。俺はとにかく暑いから体温を下げるために外に出た。吹雪は治っていた。ユディの家はダナフたちの住処の最奥にあり中央の広場を囲むように他のダナフたちの家があった。その中央広場でユディ含めダナフたちが乾布摩擦を行っていた。この雪山で当たり前のように上裸で行っていることに俺は恐怖した。普通に氷点下の気温なのに涼しい顔してるのはダナフと鬼人だからなのかも知れない。俺はユディに見つかり参加しろと言われる前に家の中に戻った。リベルたちはまだ寝ていた。俺は二度寝しようかとも思ったがリベルとジュナの体温で汗をかくのは嫌だったからやめておいた。しばらくすると二人が起きた。それと同時にダンも目を覚ました。皆大きなあくびをした。俺もつられてあくびをした。
「おはよう。ぐっすり眠れたかな?早速だが、乾布摩擦をやるぞ。さぁ上を脱いでそこにあるタオルを持って出てこい。」
「「「えー…」」」
俺たちが嫌そうに言うとユディは少し悲しそうな表情になった。その表情はご飯をお預けにされた子犬のようで俺たちは仕方なく従うことにした。
「よーしやるぞー!」
俺たちが家から出るとあまりの寒さに体の震えが止まらなかった。周りのダナフたちが俺たちのことを見ていたがそんなこと気にならなかった。ユディは震える俺たちを見ながら乾布摩擦を始めた。
「俺の真似をするんだ。寒くても頑張れー!」
俺たちは火魔法で暖め合うことなく震えながら乾布摩擦を終えた。俺たちが火魔法で暖まっているとユディがシチューとバケットを朝食として用意してくれた。体内から暖まるシチューをゆっくり食べて文明の素晴らしさを噛み締めた。俺たちが朝食を食べ終えるとユディが準備運動を始めた。俺はなんでそんなことをしているのか分からず直接聞いた。
「ユディさんどこかに行くんですか?」
「そりゃもちろん食料調達だ。お前らも行くぞ。」
働かざる者食うべからず食うべからずというわけだ。俺たちも準備をして食料調達に向かった。バルフィー山脈には牛と羊をミックスさせたような動物がいた。羊のモコモコな毛だけど体は牛のように大きく愛嬌があった。その動物はバシュギーという動物らしく極寒地帯に住んでいる動物らしい。魔物とは違い攻撃してくる様子はなく俺たちはなぜかファンタジーリュックに入っていた雑草を食べさせたりして愛でた。ユディ曰くバシュギーは肉は硬くてあまり美味しくないが乳は美味しいらしくたまに餌をあげたりして乳を貰っているらしい。今回の目的はバシュギーではなく近縁種のスアルギーという動物とのことだ。そいつはバシュギーとは違い体の大きさは一回り小さくもっと丸いらしい。俺はもう少しバシュギーと戯れていたかったが、ユディにスアルギーを探しに行くとぞ引っ張られてバシュギーとお別れすることになった。
ダナフたちの住処から少し離れた場所にそのスアルギーはいた。スアルギーが豚と羊のミックスだということはすぐに分かった。なぜなら鼻が豚そっくりだったからだ。でもバシュギーとは違いスアルギーは食肉にするのだと思い出し情が移らないようにした。このような環境だから貴重な食料だろう。だから俺の感情でスアルギーの命を左右するのはダナフ含め俺たちの命にも関わる。これは俺たちが生きるためなのだと割り切った。魔物は討伐しなくてはいけない存在だが、動物は殺さなくていい存在だから心が痛んだ。前世で学ばなかった分今世で命の尊さを学ぶためにもユディがスアルギーを食肉にする場面をきちんと見た。命を頂いて生きている実感を得るためにもこれは必要だ。それから俺たちはスアルギーの肉を持ち帰りその肉を頂いた。いつもは何気なく食べていた肉が今はいつも以上に美味しくそして感慨深かった。
昼過ぎになるとユディがダナフたちを集めて何かを話し合っていた。俺はその会話を盗み聞こうかなと思ったが流石に辞めておいた。話し合いが終わったのかユディが家に戻ってきた。ユディの表情はどこか暗く何か深刻そうな顔をしていた。俺は何があったのか聞いた。するとユディはゆっくりと話し始めた。
「実はこの近くに人狼族の住処があるんだけど近々抗争が起こりそうなんだ。俺たちが先にここを住処にしてて動物を狩ったりしてたんだけど、向こうは俺たちの食い物を取られたって怒ってるそうなんだ。それでいつ襲って来てもおかしくない状況でどうしようか話し合ってたんだ。正直なところ被害者は出ないようにしたいけど、人狼族はやる気満々らしいんだ…」
ユディは大きなため息をつき現状を吐露した。俺たちは何かできることはないかと時間を巡らせた。住処を変えるなど簡単な対処法は思いつき提案してみたが、家をもう一度作り直す労力や住処の場所を見つけ出すなど様々な労力がかかるとのことだった。ダナフは魔物だが、人狼族は魔人だから知能にも差があり戦略的な戦闘は不利とのこと。さらに人狼族はダナフの特効である魔法が使え正面戦闘も不利だ。そこでリベルが言った。
「一宿一飯の恩義を返す良い機会だね。」
「良いのか!?」
ユディはリベルの提案に食い付いたが、俺は部外者が介入して良いのかと思った。もちろん話し合いで解決するなら良いが、リベルのことだから武力行使だろうなと顔を確認して確信した。まだ戦ったことのない人狼との戦闘にワクワクが止まらない様子だった。一抹の不安を覚えながらも人狼族との抗争が始まることとなった。
次回もお楽しみに