122話 ダンの試験
俺たちが受付のお姉さんに試験場まで案内された。案の定ダンはまだ用事でここにはおらず待たされることになった。しばらく魔法のイメージをしたり魔法を造形したりして暇を潰していると二人の話し声が聞こえてきた。一人はダンの声でもう一人は聞いたことのない男性の声だった。何やら俺たちの話をしているような気がした。姿が見えるとダンは依頼の時とは違い爽やかに笑って手を振った。俺たちはその様子に違和感を覚えた。依頼の時の態度とは違いすぎるから同名の人違いなのではないかと思った。
「さっきぶりだな。」
ダンが手を振りながら言うから同名の人違いではないと確認できたが、それにしてもさっきの態度とは違いすぎることの違和感は拭えていなかった。
「さっきぶりですけど態度違いすぎじゃないですか?」
リベルが聞くとダンは説明し始めた。
「さっきまでは依頼っていう一枚の書類上での関係だったけど、今からは冒険者っていう仲間になるんだから態度が変わっても仕方ないだろ?仲良くなる必要のないやつらには愛想を振り撒かないのがオレだ。」
ダンの至極真っ当な言い分に俺たちは何も言えなかった。何とも言えない雰囲気を変えるためにダンと話していた人が自己紹介を始めた。
「俺はカティファス、鬼人だ。呼びづらかったらカティーとでも呼んでくれ。この角が目印だから見かけたら声かけてくれよ。お前らは強いってダンから聞いてるから頼りにしてるぜ。」
カティファスはかなりフレンドリーで接しやすいお兄さんキャラだ。おでこの中央上辺りに一本角があり鬼だとすぐに分かった。カティファスと握手をすると手に豆がたくさんあることに気づいた。腰に帯刀していることから毎日刀を振るっている冒険者なのではないかと思った。俺は刀に少年心をくすぐられた。前世では刀なんて小さい頃に博物館で見たぐらいだったから、こうして実際に使われている刀を見るのは初めてなのだ。俺が刀に見惚れているとカティファスが気づいて腰から刀を鞘ごと抜き見るかと差し出してくれた。俺は躊躇うことなく見せてもらった。見事な刃文が入っておりその技術に惚れ惚れした。刃こぼれは一切なく手入れも行き届いており大切にしていることが分かった。ひとしきり見た後に丁寧にお返しした。俺は良い物を見たと満足した。二人は楽しそうに俺のことを見ていて少し恥ずかしくなった。
「それじゃあ試験の説明をする。オレが魔法をカティファスが体術をテストする。試験の仕方は一対一方式かオレたちが受け身になる一方的方式があるがどうする?」
俺たちの答えは決まっていた。
「「「一対一で!」」」
迷いのない返事に二人は楽しそうな顔で微笑んだ。
「それじゃあまずはオレから行こうか。順番はそっちで決めてくれ。」
俺たちはどの順番でやるか話し合った。ジュナ、リベル、俺といういつもの順番になった。俺とリベルはダンの戦法をしっかりと把握して有利に立ち回れるように集中した。
「お願いします!」
「よし来い!」
ジュナが火魔法を投げつけダンが防いでいる間に水魔法と火魔法を融合させて爆発する魔法をダンに向かって打った。あまりの容赦のなさに驚いたが、ダンは何事もなかったかのようにしていた。
「もう終わりか?」
ダンが煽るように言うとジュナはムキになり距離を取って三メートルはあろう巨大な火の玉を出現させた。その時ダンが小声でバカだなと言った。その刹那ダンが風魔法を使ったのか目にも止まらない速さでジュナの懐に潜り込んだ。ダンは腹に手を置き一本取った。ジュナはあまりの速さに固まっていた。
「魔法自体の技術は目を見張るものがあるが、それ以外がまるでダメだな。才能だけでのし上がってきたやつにありがちだ。基礎がなってない。経験不足もあるだろうが、お前は強くなる。」
「ありがとうございました!」
ジュナはダンに一礼して俺たちの元に戻ってきた。その時の顔は悔しそうな顔をしていた。圧倒的な実力差を実感して悔しさが込み上げてきたのだろう。リベルとダン試験が始まった。
まずは様子見だろうと思っていたらダンがさっきのジュナにやったように目にも止まらない速度で懐に潜り込んだ。リベルはそれに反応して足から雷魔法を使い雷が雲の中を移動するように後ろに高速移動してなんとか回避した。初めて見る使い方にリベルも含めその場にいた全員が驚いた。リベルは咄嗟にやったことなのか、事前に考えてはいたが初めて使った魔法なのかは分からないが驚いていた。でもダンは容赦なく追撃を続けた。当たり前のように高速移動で追撃してくるダンにリベルは手を焼いていた。リベルも雷魔法で高速移動を可能にしているが、雷魔法に集中しているのか隙がないのか反撃に転じれていなかった。リベルがずっと逃げているからダンが痺れを切らしたのか、今までコンスタンスに出していた魔法を大きく当たりやすいものに変えた。でも大きい魔法は隙がかなり大きくリベルに反撃の隙を与えてしまうことになった。ダンが水魔法を打った刹那リベルは横に素早く避けダンの魔法が来ない間に懐に潜り込んだ。と思ったが、それは罠だった。ダンは右手で水魔法を打ったが左手に火魔法を用意しており、懐に潜り込んだリベルが不利となる形になるように誘い込んだのだ。
「負けました…」
自分の魔法は自分に影響しないという特性を逆手に取った戦法にリベルは一本取られてしまった。
「良かったが少し消極的すぎだな。あれだけ素早く使える魔法は総じて威力はあまりない。だから得意な魔法を出現させながら、それを盾にして魔法を打つって感じなら戦況を変えられるかも知れない。怪我をする覚悟を持っていた方が強くなれるぞ。」
「ありがとうございました。」
リベルの番が終わり俺の番になった。正直言って勝ち筋を一つも見つけられていない中でどうしようか悩んでいたかったが、そんな隙をくれるわけもなくすぐに俺とダンの試験が始まった。
俺はダンがどう動くか様子見した。するとダンはかかってこいと手招きをした。俺はその間に火魔法の明るさを極限まで高めて目眩しになるようにした。俺がそのイメージに集中していると、ダンがそれに気づいたのか高速移動で突っ込んできた。俺はそれに合わせるように火魔法を出現させた。自分に影響が出ないはずなのにこの火魔法はなぜか自分も少しだけ眩しく感じた。俺はダンが眩しくて目を押さえているうちに火魔法を顔の前に用意した。ダンが目を開けるとそれに気づき負けを認めた。俺は安堵のため息をついた。するとリベルとジュナが俺に抱きついてきた。
「流石リフォン!」
「流石ですリフォンさん!」
二人は興奮のあまり俺に飛びかかってきた。二人の体重を支えられるわけもなく俺たちは倒れた。
「労うんじゃなくて押し倒してなるじゃねぇか!」
「「あははは!」」
俺がそう言うと二人は楽しそうに笑った。二人が笑っているとダンがこちらに来て言った。
「試験でオレを負かしたのはリフォン、お前が初めてだ。見たこともない意表を突くあの魔法は見事だった。あれは魔物にも通用するだろうから普段使いして咄嗟に出せるようにしておく方が良い。それと三人とも合格だ。次はカティファスの試験だが、腹減っただろ?カティファスの試験は腹ごしらえした後だ。」
「「「はい!」」」
ダンに試験とはいえ勝てたことを誇りに思った。
次回もお楽しみに