121話 魔族の国へ
俺たちが目を覚ましたのは早朝だった。明日の出来事を楽しみに早く寝る小学生のように、俺たちは今か今かと大男の来訪を待っていた。すると宿のドアをノックされた。俺たちはついに来たと思い宿のドアを開けた。そこには窮屈そうにしている大男がいた。
「行くぞ。」
「「「はい。」」」
大男の言葉に俺たちは返事をして後ろを歩いた。侯爵領を出るとそこには荷馬車が用意されていた。俺は大男に風魔法で飛んでいけることを説明したら、大男から帰ってきた言葉は否定の言葉だった。俺は効率的じゃないなと思いながら荷馬車に乗り込んだ。大男が御者をしてくれたため俺たちは何もすることがなかった。したがって、俺が大男に自己紹介をしてもらうべく俺から自己紹介を始めた。
「俺リフォンって言います。そして双子の兄弟のリベルに弟子のジュナです。あなたの名前も教えてもらって良いですか?」
俺がそう聞くと大男は無愛想に言った。
「オレはダン。魔族の国出身だ。オレは向こうにしばらく滞在する。もしお前らに近々用事があるのならすぐに帰してやることはできない。だからここで降りてくれ。でもお前らも向こうに滞在するつもりなら帰りも護衛の依頼をする。いつまでいるかは決めてないからお前らは存分に魔族の国を楽しめば良い。」
無愛想だが、悪いやつというわけではないらしい。魔族の国出身ということに疑問を持ったが、言いたくないこともあるだろうし空気が悪くなったら嫌だから聞かないことにした。しばらく荷馬車に揺られていると周りから魔物の鳴き声がしてきた。俺はだから飛んで行きたかったんだとダンに行ったが、ダンは護衛を依頼したんだから頼むぞと言って馬を守った。俺たちは仕方ないかと思い魔物を討伐した。ダンは鮮やかは手際だったと褒めてくれた。するとダンが魔物の死骸を解体してステーキを振る舞ってくれた。その肉は少し硬かったが美味しかった。夜になると魔物の鳴き声がさらに多くなった。するとダンが言った。
「今日はここで夜を明かす。」
俺たちはその言葉に正気か疑った。こんなに周りに魔物がいる状態で眠れるわけがないと、寝たら襲われると訴えた。
「お前らの魔法の腕前ならこのぐらいの魔物造作もないだろ。」
俺たちの訴えはその一言で一蹴された。よく考えてみれば俺は風魔法で断絶壁と同等の強度の風魔法を使えるのだから怯える必要はなかったのだ。でもそれよりなぜダンが俺たちの魔法の腕前を知っているのか疑問に思った。けどそんなこと気にしている場合ではないため俺は断絶壁を修復した時のことを思い出しイメージした。さらに試験運用でその風魔法に光魔法の維持のイメージを持たせた。風魔法は自由度が低いとリベルに読み聞かせられたが、かなり自由に使えるのは女神の加護のおかげなのだろうか。それともあの本を書いた著者が風魔法の適性が低くそう感じたのだろうか。俺はそんなことを考えているといつの間にか眠ってしまった。
「お前ら起きろ。」
ダンの声に俺たちは目を覚ました。まだ眠くあくびをしていると周りに無数の魔物がいることに気づいた。俺は少し吃驚したが、それ以上に俺の風魔法と光魔法が上手く機能していることに喜びを覚えた。
「早く殺してくれ。これじゃ先に進めない。」
ダンの言葉に俺たちははいはいと言い魔物を討伐した。ダンは周りの魔物の死骸を一つ一つ確認している。金になる魔物を選別しているのだろう。俺たちは魔物の死骸を触るのはまだ抵抗があったため荷馬車の中で待っていた。しばらくすると肉の焼ける良い匂いが漂って来た。昨日食べたステーキより良い匂いだった。シィーには劣るが、それでも良い匂いに俺たちは釣られて出て行った。
「朝飯だ。」
俺たちはダンの一言に肉を頬張った。肉の上には香草のような物がありいつもより美味しかった。食べても食べても腹が減るそんな感じでいつもより食べすぎてしまった。朝食も終え再び魔族の国に向かって出発した。しばらくすると聞き覚えのある咆哮が聞こえて来た。それはワイバーンだった。幸い俺たちは森の中を進んでいるからワイバーンに捕捉されることはないが、もし飛んで移動していたらと考えると荷馬車で移動する理由が理解できた。魔物が襲って来たら討伐してその肉を食い、夜になったら風魔法で守り夜を明かす。そんな日を五日送った日ダンが言った。
「今日中に魔族の国に着く。これは先払いだ。」
そう言ってダンは大金貨を一枚俺に投げ渡した。俺たちは報酬の金額に驚き声も出なかった。大金貨を持っていることにこんな簡単な依頼で何の躊躇いもなく大金貨を報酬にする財力に驚いた。俺は魔族の国に着くまでダンの金の出所、家柄などお金に関することばかり考えていた。
「助かった。帰る時はまた頼む。」
そう言ってダンは荷馬車を降りた。俺たちはダンについて行った。初めての場所だし勝手が分からないから不安なのだ。その旨を伝えるとダンが最初は案内してくれるとのことだった。門番にはダンが俺たちの身分証明をしてくれて入れた。中には魔神城で出会ったリザードマンや耳の長いエルフ、背の低いドワーフなどがいた。さすが異世界と言ったところか、インド神話がメインだと思っていたのに、西洋の存在も出てきてさらに異世界みが増した。俺はその様子に今まで以上に興奮していたが、リベルとジュナはこの世界の住人だからか好ましい反応はしていなかった。やはり自分と違うものは受け入れ難いのか少し残念な気持ちになった。魔族の国にも冒険者ギルドはあるようでダンに案内してもらった。
「オレは早く済む用事を終わらせてくるから冒険者登録しておけ。国が違うから冒険者も違うから色々聞いておけ。」
そう言うとダンはどこかに行ってしまった。とりあえず俺たちは冒険者ギルドに入り登録をすることにした。扉を開けると中にいた魔族の人たちが睨んできた。俺たちは一瞬臆したが、何も気にしてませんよって顔で受付に向かった。すると途中でビリヤーのような顔をした人狼が俺たちの前に立ちはだかった。
「何ですか?」
俺は揉め事は起こしたくないため愛想良く言った。でもそれが気に入らなかったのか人狼は眉間にシワを寄せて言った。
「人間が魔族の国に何の用だ!?」
俺はそんなくだらないことのためにと呆れてしまった。リベルとジュナも呆れたのか小さくふぅーっとため息をついた。とりあえず相手を刺激しないように慎重に言葉を選んだ。
「俺たちは今よりもっと強くなるためにここに来ました。魔族の皆さんは人間より強いと聞きます。そんな皆さんのように強くなりたいので来ました。理由はこれじゃダメですか?」
「そ、そういうことなら仕方ねぇな!」
人狼は案外聞き分けが良かった。褒められたからなのか俺の向上心を見込んでなのか不愉快なことを言わなかったからなのかは分からないが、とりあえず揉め事は回避できて一安心だ。受付にはエルフの綺麗なお姉さんと褐色肌のダークエルフ、耳は長いがエルフとは雰囲気の違う人がいた。俺はその人の種族を知りたいと思いその人の所に行った。
「何の用だい人間の坊やたち。ここが冒険者ギルドなのは分かってるね?」
その人の声は妖艶で落ち着きがあってずっと聞いていたい声をしていた。その声に聞き惚れていたが本来の目的を思い出し気を取り直した。
「分かってます。だから冒険者登録をしに来たんです。」
「それじゃあ試験管を一人選んで戦ってきて。」
俺たちに名前と種族が書かれた紙を見せてきてきた。そこには五人の名前と種族が書かれていた。上からシャル、ジェイナ、カティファス、ヘリテス、ダンと書かれていた。俺たちはダンと書かれていて驚いた。まさか冒険者ギルドに勤めているとは思わなかったし、俺たちが冒険者登録するのを分かっていながら用事を済ませに行ったためだ。今はそのことは置いておき種族も確認することにした。上から人狼、エルフ、鬼人、リザードマン、龍人と書かれていた。俺たちは再び驚いた。ダンが龍人といういかにも強そうな種族だったためだ。俺たちは龍人族なんていう種族を見て挑まずにいられるほど大人じゃないので全員でダンと戦うことにした。
次回もお楽しみに