120話 新たな依頼
俺たちがウッツクルーシュのリリとセスタをダンジョンから救助したという話は冒険者までに留まらず、侯爵領の領民や騎士たちにも広まった。領民から魔物の討伐依頼を受けてその魔物を持ち帰ったら報酬を貰うという依頼だ。騎士たちからはプライベートで魔物討伐に行くから同行して欲しいなどの依頼を受けていた。冒険者ギルドの依頼もこなしつつ一般の人からの依頼もこなしており、俺たちは侯爵領で便利屋のような立ち位置になっていた。便利屋の評判はかなり良くお金さえ払えばどんな魔物でも狩ってくれるから、珍しい魔物の肉を食べるグルメな人やパーティー等に用いる肉のために依頼する人もいる。
最初の方は様々な経験が積めて尚且つ報酬も得れる効率の良い仕事だと感じていたが、便利屋として一ヶ月もすると俺たちの成長は停滞してしまった。そんな俺たちにとある人が依頼してきた。それはザックとの喧嘩の後話しかけてきた大男だった。俺が一人でギルド内で御飯を食べている時に依頼してきたのだ。その依頼内容は魔族の国までの護衛だった。俺は初めて聞く単語に大男に聞いたが何も答えてくれず、三日後宿を訪ねるとだけ言い大男は去ってしまった。俺はそんな自分勝手なと呆れてしまった。
宿に戻りリベルたちに依頼を伝えた。リベルたちも魔族の国のことは知らなかったようでピンときていなかった。その日は遅かったことから俺たちはそのまま眠り翌日、冒険者たちに聞き込みをすることにした。
翌日俺たちは朝食を食べるついでに辺りにいる冒険者に魔族の国について聞いた。でもめぼしい情報は得られたなかった。名前だけ知っている冒険者は多くいたが、実際に行ったことのある冒険者や見たことのある冒険者はいなかった。魔族の国の現在地も分からずじまいだった。こうなったら大男を探して聞くしかないと思い俺たちは手分けして大男を探し出した。侯爵領で二メートル以上ある人はあいつしかいないためすぐに見つかるだらうと踏んでいた俺たちを嘲るようにその大男は見つからなかった。なんの収穫もなく一日が終わってしまった。誰も実態を知らない魔族の国のことも気になるが、それと同等ににあの大男が何者なのかも気になってあまり眠れなかった。
翌日も魔族の国について聞き込みをしたがダメだった。そこで俺たちは侯爵領にある図書館を利用することにした。侯爵家ほどの貴族が運営している図書館になら一冊ぐらいは魔族の国について記された本があると踏んでの行動だ。初めて訪れるため俺は少しワクワクしていた。その反面前世では活字に触れてこなかったため心配でもあった。ウェリルの書斎でも読むのに苦労したから心配なのだ。
図書館に着くとまずその精錬されたデザインに目を奪われた。左右対称に配置された本棚は幾何学的な模様を映し出しており貴族の屋敷の庭にありそうな模様のようになっていた。でも利便性はきちんと残されており誰でも使いやすい形で作られていた。匠の技とはこういう物を言うのだと初めて実感した。俺が見惚れているとリベルに目的を見失ってると叱られた。
図書館には何万冊も本が置いてあることから素人が目的の本を探すのは難しくしばらく探しても見つからなかったため、学園にもいたように司書に探してもらうことにした。司書が本を探して持ってきてくれるまでの間俺は近くにあった本を手に取った。それはどうやらエクサフォン国の歴史について書かれていた本だった。その本にはこう書かれていた。
はるか昔まだエクサフォン国はなく外界に支配されていた頃。そこに賢者がやってきた。賢者は殺生を好まない性格だったため、エクサフォン国の領土を区切る際には魔物たちに協力してもらい今のエクサフォン国の領土が確保されたと言う。それから長い月日が経ちエクサフォン国に人間が住み始めた頃。賢者はエクサフォン国を外界から断絶していた魔法を消滅させた。抵抗する術を持っていなかった人たちが諦めかけたその時ついに彼が行動に移した。その人物こそアルフレッド・ヒューリレーンその人だ。彼は賢者の魔法を模倣し自分のものにして断絶壁を出現させたのだ。魔物の増援は来なくなりエクサフォン国内の安全は確立されたのだ。
流石学園長と感心していると司書が一冊の本を手に戻ってきた。司書の説明曰く、魔族の国単体が書かれた本はここにはないため書かれている可能性が高い、魔族について書かれた本を持ってきてくれたのだそうだ。俺はその気遣いに感謝して本を端から端まで読んだ。すると最後のページに少しだけ書かれているのを見つけた。
魔族の国は侯爵領から南にずっと行った外界にあり、名前の通り魔族が暮らしいている国だ。人間が訪れることもできるが、かなり肩身が狭いらしい。さらに、魔族の身長は二メートル超えが普通であり一般人では歯が立たない。魔族と人間は互いに関わりが浅いため人間というだけで偏見や差別が常に付き纏うとのことだ。魔族は魔物から自分たちの国を守るために日夜戦っており、正面戦闘になれば腕の立つ冒険者でも三分ももたない。
俺はその内容を読んで心臓が興奮度合いを心拍数で訴えかけてきた。俺はこの内容と興奮度合いを二人に伝えるために図書館内を駆け回った。少しすると難しそうな顔で本と睨めっこする二人を見つけて伝えたいことを全て伝えた。二人も俺と同様に興奮して鼻息が荒くなっていた。俺たちは明日が待ち遠しくなりその日は早めに寝ることにした。
次回もお楽しみに