115話 シィー討伐
俺たちは依頼書を確認しながら討伐に向かうとその場所はなんと断絶壁の外だった。幸い侯爵領から出発する前だったため冒険者ギルドに戻り話を聞くことにした。受付のお姉さん曰く断絶壁は人間から素通りできるとのことだった。子爵領での俺たちの攻防は無駄だったようだ。そんな感情と本当に素通りできるのかという不信感を胸に俺たちはシィーがいる断絶壁の外へと向かった。侯爵領では断絶壁の外に自ら赴きワイバーンなどの等級の高い魔物を事前に討伐しておくことで、子爵領のような被害を事前に防いでいるのだろう。
断絶壁の近くに来ると他の冒険者も討伐に行くのか断絶壁を素通りする様子が見えた。なんと本当に素通りできているのだ。断絶壁という名前だから何人たりとも通さない物だとばかり思っていたから衝撃だった。つまり学園長は大抵の魔物に突破されない強度を持ちながら人間は素通りできて、エクサフォン国を外界と区切るほどの大きさがあるということだ。俺はその事実に気づき脱帽だった。イメージの精密さそれを出現させる魔力量、維持させる光魔法、どれを取っても一級品と言わざるを得ない。
俺たちは先ほどの冒険者に倣い歩いて通ることにした。俺の風魔法が断絶壁に干渉する可能性を考慮してのことだ。俺たちは手を繋ぎ断絶壁を同時に通った。すると何ともなく安心した反面、拍子抜けだった。二人も同じような反応をしていた。外界はサバンナのような感じでビリヤーのような魔物たちが群れを成しており、子爵領のように魔物がすぐに襲ってくるということはなかった。土地の差なのか魔物の種類の差なのか分からないが、外界なのにのどかだなという感想を覚えるほどだった。
「なんかピクニックできそうだね。」
「そうですね。」
二人が遠くを見つめながら言った。それほどのどかなのだ。本当にワイバーンやシィーなどの等級の高い魔物がいるのか疑問に思うほどだ。とりあえず進まないことには何も始まらないため俺たちは依頼書に書いてある大まかな場所に向かった。侯爵領から南東に進み外界を出てそのまま十キロ直進と依頼書には書かれているがあまりにも大まかというか雑すぎて本当に合っているのか心配になる程だった。
しばらく飛んでいると四足獣の魔物の群れ同士が争っているのを見つけた。偶然か必然かそこにはシィーと思わしきライオンのような魔物がいた。でもその見た目は普通のライオンとは一線を画すものがあった。遠くから見たらそれほど大きく見えなかったが、よく観察できるように近づくとその大きなに驚愕した。なんとバルンほどの大きさがあり、体長は約四メートルほどだ。俺が知っているライオンの二倍はあった。俺たちはシィーの群れと他の四足獣の魔物の群れの争いが終わるのを待った。結果はシィーの圧勝だった。もう一方の魔物の群れは多数の犠牲を出したにも関わらず、シィーの群れは怪我は負っているが致命傷を負った個体すらいなかった。知能もパワーもあるシィーが群れているのだから等級がレッドなのも納得だ。
「それじゃあやろうか。」
リベルがそう静かに言うと俺たちはありったけの魔法を用意した。でも威力が強すぎると素材としても肉としてもギルドに買い取ってもらえないため、ジュナが水魔法で拘束しリベルが高電圧の雷魔法を、最後のトドメに俺の氷魔法で締めだ。俺たちは互いにアイコンタクトを取り魔法を使った。すると俺とリベルは魔法を使うことができなかった。なぜならシィーがジュナの水魔法を感知して避けたのだ。予想以上の魔法感知で俺たちは動揺した。きっと他の魔物と争っている最中から俺の風魔法を感知していたのだろう。魔法が主戦法の俺とジュナは手も足も出ない相手だ。そんな時リベルが言った。
「降ろして。僕がやる。」
俺は一瞬無理だと言いそうになったが、リベルの覚悟の決まった瞳を見てすんでのところで飲み込んだ。
「本当に良いんだな?」
「うん。援護してほしい時は言うから用意しておいて。」
「分かった。」
「分かりました。」
俺はリベルの手をそっと離した。リベルが着地すると同時に俺とジュナはシィーの魔力感知に引っかからないように魔法を出現させることなくイメージだけを確立させた。リベルが一匹のシィーと相対したことからシィーの大きさが顕著になった。だが、リベルはそんなシィーを恐れることなくより一層冷静になった。リベルはただじっとシィーを見つめているだけだった。瞬きをすることもなくただじっと見ているとシィーが痺れを切らしてリベルに飛びかかった。その刹那リベルがシィーの首を切った。その見事な太刀筋に俺たちは感嘆の声が漏れた。シィーは同族がやられたにも関わらずリベルの実力を見抜いたのか逃げてしまった。
「もう大丈夫だよー!」
リベルの声を聞いて俺たちは恐る恐る降りた。リベルは平然としており、その度胸と冷静さ実力を再確認した。俺たちはシィーの死骸を水魔法で包み血が落ちたりしないように運んだ。断絶壁を魔物の死骸が通れるのか心配だったが、その心配は要らぬ心配だった。シィーの死骸を運んでいると下を歩いている冒険者に驚きの目で見られて少し恥ずかしかった。
冒険者ギルドにシィーの死骸を運んでくると俺たちは先ほどの冒険者同様驚きの目で見られた。受付の左手にある買い取り処にシィーの死骸を置くと担当者は狼狽えていた。俺たちのような子どもがシィーを討伐してきたのを見るのは初めてなのだろう。大きい個体だから解体するのに時間がかかるとのことだったので俺たちはギルド内で食事をすることにした。俺たちが楽しく会話しながら食事を楽しんでいると男性2、女性2のパーティのような人たちが俺たちのそばに来た。その女性の一人が焦ったような悲しいような表情で話しかけてきた。
「急にごめんねちょっと話をしたくて。良いかしら?」
俺たちが頷くとその女性が続けた。
「ありがとう。私たちはウッツクルーシュってパーティなんだけど、この前パーティメンバーと逸れちゃってメンバーを探しに行きたいの。だからシィーを討伐した実力を見込んで、臨時でパーティメンバーになって欲しくて。もちろん報酬は出せる額出すわ。私たちが持ってるアイテムで欲しい物があったらあげるからお願い!どうしても探しに行きたいの…どんな結果だったとしても良いから…お願いできないかしら…?」
その女性の声は泣きそうな感じだった。騙そうとしているようにも見えないし、裏がありそうな感じもない。俺が二人を見ると二人も同意見だったようで安心した。
「分かりました。すぐに案内してください。」
「ほ、本当…ですか…?本当に良いんですか?」
女性は目に涙を浮かべながら言った。俺たちは他のパーティメンバーの人たちも見てみると皆目元が赤くなっており泣いていたことが分かった。俺たちは断る理由なんてないと早速逸れたメンバーを探しに向かった。
次回もお楽しみに