表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/127

112話 授与式

「おはようございます。」


いつも起こしに来てくれているメイドが起こしに来た。いつも起こしに来てくれるけどこの人のこと何にも知らないなと思っているとメイドが続けた。


「本日は勲章の授与式でございます。お三方の衣装など全てご用意しております。授与式は午後からのご予定ですが、午前中に準備致しますのでそのつもりでお願い致します。それでは失礼致します。」


そう言うとメイドは離れを後にした。やはり今日が勲章の授与式だった。俺たちがやることは特になさそうで一安心だ。それから俺たちは朝食を食べ授与式の準備まで暇になった。


「何して暇つぶす?昨日みたいな暇つぶしは無理だろうし、どうする?」


何の案も浮かばない俺が二人に聞くと、二人も何の案も浮かばないのか考え込んだ。俺ももう少し考えた結果昨日見た街並みを思い出した。きっと授与式の盛り上がりで賑わっているだろうから二人に提案した。


「街に行こう。きっとお祭り騒ぎだから楽しいぞ!」


「何か良い掘り出し物でもあれば良いな。」


「俺は食べ歩きしたいです!」


二人も概ね賛成してくれていることから俺たちは街に向かった。そこはいつもの街とは違いまさにお祭り騒ぎだった。出店が中央通りに数多く出店しており食べ物から雑貨、アイテムまで売っていた。ジュナはその様子に目をキラキラさせていた。小さな村で育ってきたからこのようなお祭りは経験がなかったのだろう。


「見てきて良いですか!?」


ジュナは本当に小さな子どものような顔で言ってきた。その顔を俺は母性を覚えた。俺は優しくジュナに言った。


「あんまり使いすぎないようにしろよ。あと授与式の準備があるんだから早めに戻ってくるように。」


「はーい!」


そう返事をしたジュナは早足で人混みの中に消えた。残された俺とリベルはゆっくりと出店を見て回る事にした。


「ねぇこれ見て。」


そう言うリベルの手には綺麗な魔法石のような物があった。


「魔法石?」


俺がそう聞くとリベルはニヤッと笑い言った。


「ガラスを加工した物なんだって。凄く綺麗じゃない?」


「確かに凄い技術だな。」


魔法石に見紛うほどのクオリティを有しているそれをリベルは記念にと買った。その出店の店主は偽物だと知りつつ買うやつは珍しいと笑っていた。


次は焼き鳥のような物を売っている出店に向かった。最近はメガフォーン家の貴族らしい食事をしていたから、シュルラーで食べた冒険者らしい食べ物が恋しくなったのだ。その焼き鳥はタレを塗って焼き上げるタイプで焼かれたタレが香ばしくとても美味だった。


そんな感じで祭りを楽しんでいるとジュナが戻ってきた。よく見るとジュナの口角に食べ物のタレのような物が付いておりポケットからハンカチを取り出して拭ってあげた。ジュナは気づいていなかったのか不思議そうな顔をしていた。


「付いてたぞ。」


「えっマジですか!?恥ずかしー…」


ジュナが頬を赤らめて恥ずかしがっている。そんな様子のジュナを見るのは初めてで可愛いなと思った。そんなことをしていたら時間も良い頃合いになり俺たちは屋敷に戻った。


「丁度呼びに行こうと思っておりました。準備を致しますのでこちらに。」


メイドに導かれ俺たちはワードローブに連れて行かれた。様々な衣装が所狭しとあり見ているだけでも一日過ごせそうだ。リベルはペタフォーン家で見慣れているのか何も表情は変わっていなかった。俺とジュナは目をキラキラさせていた。


「衣装のご所望はございますか?」


メイドに聞かれ俺たちは特にないと答えるとメイドは俺たちに合うような衣装を探していた。良いと思った物を持ってきては肩幅などサイズを合わせたりしていた。一人につき一人メイドが衣装を選んでくれており効率化していた。最初は一人一人違う衣装にしようと話していたメイドだったが、選んでいくうちに組み合わせが悪かったりして最終的に全員燕尾服に落ち着いた。


「やはり美男子だね。とても似合ってるよ。」


俺たちが着替え終えるとほぼ同時にウェリルが部屋に入ってきた。そのタイミングの良さに扉の外でずっと待っていたのではないかと思うほどだった。とりあえず褒められたのだから俺たちは礼を言った。するとウェリルが言った。


「予定まで少し時間がある。ジュナは慣れない服だろうから少し歩いたりして馴染ませると良い。二人も必要だったら馴染ませておいてくれ。しばらくはその服のままだからね。」


「しばらくってどのくらいですか?」


俺が心配になってウェリルに聞くとウェリルが答えた。


「授与式が終わった後は領民たちに三人のことを知ってもらうためにパレードを開くから夜までかな。」


俺はきちんと貴族を演じきれるか心配になりリベルを見つめた。するとリベルは大丈夫だと肩に手を置いてくれた。俺は少しだけ勇気が出た。それにいざという時はリベルにテレパシーで聞けば良いから安心だ。


「それじゃあ出番まで待っていてくれ。君たちが何かやらなくちゃいけないことは特にない。パレードで嬉しそうな笑顔をするぐらいだ。」


俺はその言葉を聞いてホッとした。何かスピーチをしたりするのではないかと思っていたから一安心だ。ウェリルが部屋から離れると外から歓声が聞こえてきた。おそらく授与式が始まったのだろう。厳かな雰囲気の中行われるものだと思っていたから少し予想外だった。それからしばらくするとメイドが俺たちを呼びに来た。俺たちはそのメイドに着いていくと初めて来る場所だった。そこは屋敷の敷地の一部のように思えるが、屋敷の外と繋がってる屋外ステージのような所だった。まさかこんな所で行うとは思わず驚いた。俺たちは舞台袖で待機していた。ウェリルがこちらを一瞥して領民に言った。


「それではワイバーン討伐の英雄たちに登場してもらいましょう!」


エンターテイメント的な紹介に俺は心臓の鼓動が一気に速くなった。まさかこんなに陽気な雰囲気だとは思わないじゃんと心の中でつっこんだ。今更辞退することなんてできないと腹を括り俺は一歩を踏み出した。その瞬間割れんばかりの歓声と拍手が会場にこだました。こんなに歓迎されるものかと驚き半分恥ずかしさ半分だった。二人は満面の笑みで領民に手を振っている。俺だけやらないのはおかしいと思い二人に倣った。俺たちがステージの中央にいるウェリルの元に行くとウェリルが話し始めた。それと同時に領民と静かになった。


「改めて紹介しよう。リフォン、リベル、ジュナの三人がワイバーンを討伐してくれた英雄たちだ。今回の活躍を私は間近で見ていた。その強さ、冷静さに私は感服した。したがってこの三人に勲章を授与する。三人がいなければ子爵領は壊滅だっただろう。今一度三人に大きな拍手を!」


言い終わると再び歓声と拍手がこだました。俺は自分がこんなに大勢から感謝されるのは初めてで涙が出そうになった。歓声と拍手が静かになるとウェリルが俺たちに勲章を授与した。勲章の形は円形で装飾が施されており中央にワイバーンを模したパーツがあった。なぜワイバーンなのかわからなかったが、とりあえず受け取った。


「それでは今からパレードを開催する!本日限りのお祭りだ!」


「「「うおおおーーー!!!」」」


領民たちは今日一番の盛り上がりを見せた。授与式はそのまま終わり領民たちは街に戻った。俺はウェリルに一言言った。


「あれが一般的な授与式なんですか?」


「全然違うね。普通は領民たちに見せたりしないんだけど、今回は領民皆が知っていた上、ワイバーン討伐という偉業を成し遂げたのだから精一杯祝おうと思ってね。」


嬉しい反面恥ずかしい思いもしたから手放しに喜べず何とも言えない感情になった。それからすぐにパレードが始まった。俺たちは一風変わった馬車に乗る事になった。その馬車は車室がとても大きくそして前方部分が取り払われ中にいる人が分かりやすいようになっていた。車室は人が立てるほど上にも横にも広く特別仕様なのが分かる。


俺たちが馬車に乗り込むとゆっくりと走り出した。中央通りを通り中央広場まで行くと次は別の大通りを通って屋敷まで戻った。パレードの最中ずっと笑顔でいたから頬が筋肉痛になりそうになった。それから俺たちはメガフォーン家の人たちやディーノ、モーディに改めて感謝を伝えられた。夕食はメガフォーン家に仕えている者も含め全員参加のパーティーを行った。みんな楽しそうにしており、ウェリルは綺麗な奥さんとダンスを踊ったりしていた。


パーティーもお開きとなり俺たちは離れに戻った。今日は楽しかったねと三人で振り返り静かな夜を過ごした。今日だけでウェリルの知らない一面をいくつも知はことができた。

次回もお楽しみに


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ