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109話 子爵領での休日

「起きてリフォン!アイテムを試しに行くよ!」


まだ日が昇ってそれほど経っていない早朝俺はリベルに叩き起こされた。眠い目を擦りながら起き上がると二人が準備を終えて目の前に立っていた。


「おはよ。」


俺が二人にそう言うと二人は早く準備してと言わんばかりの顔で見つめてきた。俺はそそくさと身支度を済ませ二人を待たせないようにした。


「お待たせ。」


「それじゃあ沼地にでも行こうか。」


リベルの提案に俺は素直に従い久しぶりの三人飛行を楽しんだ。道中何気ない会話を楽しんでいると久しぶりの沼地が見えてきた。前に来た時と何も変わっておらず、冒険者が近づいていないと感じた。魔物の死骸もなければ魔法痕もない。これほど何もないものかと不思議に思ったのは俺だけではなかった。二人も眉を顰めており不思議に思っているようだった。


「なんか変じゃないですか?」


「「うん…」」


ジュナの問いかけに俺とリベルは相槌を打つしかなかった。しばらく上空から様子見していたが、埒が開かないとリベルが言ったので降りて確認することにした。沼地に降りると違和感に気がついた。


「魔物いなくない…?」


そう魔物が一匹もいないのだ。ネズミのような小さな魔物からビリヤーのような中型、バルンのような大型の魔物すらいないのだ。隠れているのかここを離れたのか定かではないが見渡す限り一匹も見えない。俺たちは今までに経験したことのない事態に最大限注意を払いつつ歩みを進めた。


しばらく警戒しても何も起きないどころか魔物の気配すらないので、これを逆手に取りリベルとジュナはアイテムの試し打ちを始めた。リベルが手始めに氷魔法を五つ出現させた。大きさは約二十センチほどで、それがこっちに向かって来たらと思うと恐ろしい。ジュナは自分に光魔法の効果が現れないのか試すために、ナイフの刃先で手の甲に極僅かな傷を作って光魔法を使った。でも手の甲の傷は一向に治る気配はなかった。何度も試すジュナを不憫に思い、ジュナと同じように手の甲に傷を作り実験台になることにした。


「あれ?なんで?」


ジュナを見ると光魔法のアイテムを使えずに首を傾げていた。俺はウェリルが言っていたことを思い出した。


「ウェリルがこれは慣れるまで扱うのが難しいって言ってたから今の方法でダメなら違う方法に変えてみろ。それでもダメなら一度休憩してしばらく考えてみてそれでもダメならしばらく放置しておけ。ジュナはまだ魔法を使い始めて日が浅いから仕方ない部分もある。」


俺がそう言うとジュナは一度深呼吸をした。おそらくさっきの方法から変えたのだろうがそれでも俺の傷が治ることはなかった。それを見てジュナが周りを警戒している俺の顔を覗き込んだ。俺が急なジュナの顔面ドアップに驚いているとジュナが言った。


「リフォンさんの光魔法見せてください!」


「見ただけでできるとは思えないが…」


俺がそう言いジュナの傷を治すとジュナはより一層分からなくなったのか苦い顔をした。


「今日できなくても明日できるかも知れないから落ち込まず毎日やってみ。」


俺はジュナにそう伝えるとリベルを見た。リベルはアイテムの精密さを確かめるために彫刻を作っていた。彫刻を作り出すのは難しいのか人型であることだけはかろうじて分かった。俺は何を作っているのか気になりリベルに聞いた。


「何を作ってるんだ?」


「お父様だよ。でも難しくて良い感じにできないんだ。」


リベルはそう言うと真剣な顔で彫刻のイメージに戻った。俺とジュナは退屈になった。そこで沼地の違和感の正体を探ることにした。何か原因があるはずだから俺とジュナはリベルにその旨を伝え沼地の上空を飛び回った。でも上空からではなんの異変も見つけられなかった。仕方なく俺たちは上空一メートルほどのところを飛んで沼に足を取られないようにした。しばらく奥の方に進んでいると大きな池があった。水は沼と同じ色をしており魔物が描かれていそうだった。俺たちはここに何かいるかも知れないと思いリベルを呼びに行った。


「リベルー!怪しげな池があったー!」


俺が少し遠くからリベルに話しかけるとリベルは右手でグッドサインを掲げ彫刻は一旦そのまま置いておいた。リベルを拾いその池に戻ると池の中央辺りから気泡がぷくぷくと浮かんできているのが分かった。二人もそれに気づきそこを凝視した。静寂を破ったのは俺たちではなくその気泡の主だった。


なんと気泡の主は超大型のワニだったのだ。体全体を池の表面に浮ばせこちらを睨んできた。沼地の魔物がいない原因がコイツだと俺たちは瞬時に理解した。俺とジュナが魔法を打とうとするとリベルが止めた。


「アイテムを試させて。」


俺は今じゃないだろと怒りたかったが、その隙にワニが攻撃してくるかも知れないと思いリベルに任せんことにした。でも失敗した時のことを考えて俺は凍らせるために氷魔法のイメージをしておいた。リベルが氷魔法をワニの真上に出現させるとワニが水飛沫を立ててどこに逃げたのか分からなくするようにして逃げた。その賢さに動揺してリベルの氷魔法は消滅した。ワニはそれが見えていたのか大きな口を開けながら池から飛び出してきた。俺は用意しておいた氷魔法をワニの口に向かって打った。内部からの攻撃にワニは生き絶えた。リベルは一瞬死にかけたことに動揺しているのか手足がブルブルと震えていた。頼りにしていた魔法が使えなくなり死ぬかも知れなくなったのだそうなっても仕方ないだろう。俺はリベルの背中を摩り声をかけた。


「いきなり実戦は流石に愚策だったな。でも初日でこれからいつか追い抜かされるかもな。」


俺は反省点と評価点をそれぞれ出し、飴と鞭のように言った。リベルは小さく頷いた。俺はそのワニの死骸をシュルラーに持っていき換金してもらうために二人に持ってもらった。


久しぶりのシュルラーに感動を覚えつつもこのワニをどうしようか悩んだ。上空から運ぶのは目立ちすぎるしでもそれ以外の方法はない。俺がどうしようか悩んでいたらジュナが俺たちを引っ張り堂々と冒険者ギルドの前に降り立った。周りの人は畏怖の声や感嘆の声を上げていた。


「受付のおっちゃん久しぶり!」


ジュナが冒険者ギルドの扉を開け放ちながら言うと、ギルド内は物々しい雰囲気が漂っていた。その場にいる冒険者は全員武具を着込んでおり中にはルイバディの面々もいた。俺たちの顔を見ると俺たちのことを知っている人たちの顔がパーっと明るくなるのが分かった。そしてルイバディの皆さんが俺たちの元に来てティスタが話始めた。


「今から俺たちは沼地のマガルマチを討伐しに行くんだ。そいつはあまりにも凶暴で賢くて犠牲は覚悟の上だったんだが、三人がいたら…」


話しながら俺たちの後ろが騒がしい事に気がつき後ろを見るとそこには俺たちが討伐してきたワニがいたのだ。ティスタは再び俺たちのことを見つめ大声で言った。


「ありがとう!君たちのおかげだ!」


そう言うティスタを不審そうにアイリーさんたちは見つめていた。俺たちは説明しないといけないと思いワニの死骸をギルドの中央に置き話した。


「えっと俺たちが沼地に新しいアイテムの試運転をしに行ったら魔物が一匹もいなくて、それを不思議に思って原因を探していたらコイツを見つけてそれで討伐しました。」


「「「うおーーー!!!」」」


俺が話し終えると一瞬の静寂の後その場にいる皆が感嘆の声を上げた。アイリーさんとドールさんには肩をバシバシと叩かれ本当に凄いと褒められた。後から話を聞いてみるとこのワニがマガルマチであり、魔物がいなくなった原因だった。今まで討伐に行った冒険者が十人以上も犠牲になったことから討伐隊を組んだのだ。そんなところに俺たちがマガルマチの死骸を持ってやってきたのだからこんな扱いされるのは当然だ。


その日の晩はギルド内で宴が催された。俺たちは面識のない冒険者からも感謝され舞い上がった。ワイバーン討伐と同じぐらい感謝されることからこの世界では魔物討伐は褒められることなんだと再認識した。

次回もお楽しみに


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