107話 課題
ワイバーン討伐から一週間が過ぎた。俺たちの生活はいつも通りに戻った。魔法使いたちに魔法を教え、騎士たちには魔法の対処法などを教えていた。でもそんな日々に俺は嫌気がさした。ワイバーン討伐で俺の魔力の少なさと技術の低さを痛感した。でも今の生活を続けていても周りの人は成長できるが、自分が成長できない。そんな苦悩に頭を抱えている俺の隣にはいつもリベルがいた。さらに今ではジュナもいる。頼れる二人に俺は悩みを打ち明けた。
「二人とも聞いてくれ。」
「どうしたの?」
「リフォンさんが話し始めるなんて珍しいですね。」
俺は悩みを話し始めた。
「ワイバーン討伐で魔力の少なさと技術の低さを痛感した。このままだといつか死ぬ。だからもっと強くなりたい。守りたいと思える人を守れるぐらい強くなりたい!俺の我儘が二人を振り回すことになることは百も承知だ。どうか俺について来てくれ!」
俺が二人に頭を下げると一瞬の静寂の後二人が言った。
「今更何を言うのかと思ったら…そもそも僕がリフォンを連れ出したんだから何も文句はないよ。」
「俺も文句なしです!それにその方が楽しそうじゃありませんか?それに旅は道連れ世は情けって言うじゃないですか。元よりそのつもりですよ。」
俺は二人の予想外な言葉に驚いたが、それと同時に二人は俺なんかとは違ってこういうやつだったなと実感した。
そこからの毎日は忙しかった。ウェリルに話をつけて講師を休ませてもらい、朝から晩までメガフォーン家の書斎でエクサフォン国内のことを調べたのだ。あらかた調べ終えたら学園長から貰った学園長の魔導書を熟読した。話していたように魔法のメモ程度の情報しかなかった。魔導書の中には断絶壁の前身のような魔法も見受けられたがその内容は、風を壁みたいにドーンだった。これに至ってはメモですらなく俺は落胆した。そんな俺を慰めるようにリベルが言った。
「きっと学園長は天才タイプだから凡人には到底理解できない考えをしてるんだよ。」
いくら努力しても天才には勝てないと思いたくなくて必死に学園長が書いた魔導書を理解しようとした。朝起きてから夜寝るまでずっと魔導書を片手に持っていた。なんとか学園長が書いたメモを必死に自分の物にしようとしたが一割も自分の物にできなかった。そもそもイメージした物が魔法となって現れる性質上、誰かの魔法をコピーするというのが難しいのだ。俺だって自分が作り出した魔法を完璧に魔法使いたちに教えられているわけではない。結局のところは個人ゲーなのだ。
ある程度エクサフォン国内について知った俺たちは次に向かう場所を決める会議を開いた。
「俺は公爵領に行くのが良いと思う。実家だし魔法を学ぶにはうってつけだ。」
「それは反対だね。身近に親しい人が魔法に身が入らなくなるだろうし、頼ってしまうだろうからね。」
「そうかならジュナはどこが良いと思う?」
俺は若干ホームシックを感じていたからペタフォーン家に帰れないのは少し残念だ。
「俺は侯爵領が良いと思います!最初は公爵領が良いと思ってたんですが、そういうことなら次点で侯爵領ですね。」
「僕もジュナに賛成。侯爵領は高火力の魔法を得意としてるから今の僕たちにもピッタリじゃないかな?」
「それじゃあ次の目的地は侯爵領に決定だな。」
次の目的地が決まったところで俺たちは眠りについた。俺は眠る前も学園長の魔導書に書かれていたメモの内容を反芻してイメージしながら眠った。
翌朝俺たちはウェリルに侯爵領に向かう旨を伝えた。いつ行くかまでは決めていないから時が来るまでは世話になると伝えると、それまではゆっくりしてくれて構わないと寛容なウェリルに甘えることにした。でも甘えてばかりじゃ申し訳ないからそれまではかなりハードな訓練を行うことにした。騎士と魔法使いたちは俺たちのハードな訓練にもついてこれるほど強くなった。騎士たちは魔法に対する対処法も魔法使いとの戦い方も身につけ、魔法使いたちは学園の生徒と遜色ないほど強くなった。学園のエリートたちと比べても見劣りしないほど強くなったことを褒めたら何人も涙を流していた。モーディもそのうちの一人だ。
そしてメガフォーン家に雇われてから二ヶ月が経った。俺たちが侯爵領に向かう準備を着々と済ませているウェリルが俺たちを自室に呼んだ。今までこんなことはなかったので何事かと思いながら足を運ぶとウェリルが書類仕事をしながら待っていた。
「来たか。君たちには色々世話になったから何か贈り物をしようと思ったんだが、何が欲しいのか分からないから直接聞こうと思ったんだ。何か欲しい物はあるかな?」
「「良いんですか!?」」
俺は当然のサプライズに驚いて固まってしまった。二人はすぐさま反応してあれもいいなこれも良いなと考え始めた。俺の様子を見かねてウェリルが聞いてきた。
「リフォンは何か欲しいものはないのか?」
俺は今の生活に十分満足しているし、強欲になりすぎるのも良くないと思いこう返事をした。
「俺は別に大丈夫です。ウェリルさんにはもう十分お世話になってますから。」
俺がそう言うとウェリルはあまり良い反応はしなかった。
「君はワイバーンを討伐してくれた英雄だ。それ相応の褒美を与えないと領主として面目が立たないんだ。だから何でも良い。何か欲しい物を決めてくれ。」
俺は渋々納得しつつ何を貰うか考えていると二人は決め終えたようで俺を急かしてくる。俺は特認実習で役に立つであろう魔力回復のアイテムを貰うことにした。
「それじゃあ魔力回復のアイテムをお願いします。」
俺がそう言うとウェリルは本当に謙虚だなと何とも言えない表情で言った。用が済んだので部屋を出ると俺たちを起こしてくれるメイドがいた。
「短い間でしたがお勤めご苦労様でした。皆様の旅路が安全であることを祈っております。」
「「「ありがとうございました。」」」
俺たちは深々と頭を下げるメイドに向かって礼を言った。メイドは俺たちの視界の外に消えるまで頭を下げたままだった。その様子に俺は感嘆の声が漏れた。