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104話 ワイバーン襲来

俺たちが講師としてメガフォーン家に雇われ一月が過ぎた頃、俺たちが騎士団の訓練を行っていた時一人の声が響いた。


「ワイバーンだー!ワイバーンが断絶壁を破って子爵領南西部に侵入!各団戦闘準備!これは訓練ではない!繰り返す。これは訓練ではない!」


初めての出来事に俺たちが動揺しているとディーノが俺たちに向かって言った。


「今から俺たちはワイバーン討伐に向かいます。魔法師団も準備が完了次第討伐に向かいます。この一ヶ月間三人に鍛えられた俺たちに任せてください!」


そう言うとディーノは準備をして走り去ってしまった。俺たちはあまりの動揺に冷静な判断ができない状態でいた。その時聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「皆さん無事でしたか。ここはワイバーンの猛火に晒されます。早く屋内へ!」


そう言って俺たちの事を先導してくれたウェリルの手をリベルは振り払った。ウェリルはリベルが腕を振り払った理由が分からず、俺とジュナだけでも屋内に避難させようとしたが大きな影に覆われその手が止まった。


「あ…あ…」


ウェリルは腰が抜け顎が恐怖によりガクガクと震えていた。前までの俺ならウェリルと同じ反応をしていたであろう。でも今の俺は違う。魔物討伐の場数を踏み魔物にも慣れ、守りたい人死んでほしくない人がいる。リベルとジュナを守るためにも恐れてなんかいられない。そう思うと不思議と恐怖心は消えていた。


俺がワイバーンを直視した刹那ワイバーンの瞳孔が光ったのが見えた。俺は瞬時に最大出力で水魔法をワイバーン向かって打った。ワイバーンの猛火と俺の水魔法がぶつかり合った。ワイバーンの猛火は止まるところを知らず、俺は水魔法で抑えることしかできなかった。その時リベルとジュナが攻撃に移った。二人とも火魔法で攻撃したが、ワイバーンには効果がなかった。火を操る上位の魔物にはそれ以外の魔法でないと意味がないと理解した。リベルとジュナも理解したのかリベルは雷、ジュナは俺の補助に回ってくれた。リベルの雷魔法は効くようでワイバーンも痛がり猛火が止まった。


その時どこからともなく風と雷魔法がワイバーンを襲った。それは魔法師団だった。俺たちがみっちりと鍛えた魔法師団の攻撃はワイバーンにも効いており、ワイバーンは咆哮を上げた。その耳を劈くような咆哮に咄嗟に耳を塞いだ。しばらくの間耳がキーンとなっていた。ようやくそれが治りワイバーンを見ると口にとても大きな火の玉を作っているのが見えた。俺は考える間もなく氷魔法を打った。首を狙ったそれは分厚い鱗を少し傷つけるだけだった。絶望に打ちひしがれる暇すらなかった俺は何とかその火の玉を防ごうと水魔法でワイバーンを囲った。魔法師団も俺の意図に気がついたのか加勢してくれた。ワイバーンがバカだったらそのままその火の玉を打ってくれたであろうが、ワイバーンは火の玉を打つことなく口を閉じた。


ワイバーンが水の包囲膜から抜け出した。ただの水だから苦労なく抜け出された。俺はワイバーンが水に濡れたのを確認して氷魔法で凍らせようとした。でもそれは無駄だった。ワイバーンの体表がすぐに水を蒸発させてしまったのだ。シータからワイバーン討伐の話を聞いておけばと心底後悔した。俺が打つ手なしかと落胆した瞬間リベルとジュナが叫んだ。


「「諦めるな!」」


俺はその言葉に驚いたが、それと同時に鼓舞された。幸い魔力量は減った実感はさほどない。きっと俺がやらなければ誰にもやれないそう思うと、失敗した時の恐怖心と俺にしかできないという優越感というか高揚感が突沸のように俺の心に湧いた。俺が覚悟を決めてワイバーンの方を見た刹那ワイバーンの瞳孔が光った。俺は叫んだ。


「水魔法!」


その声にジュナとどこかにいる魔法使いたちがワイバーンの周りを水魔法で囲った。ワイバーンは火魔法を打てなくなった。すぐに水の包囲膜を抜け出すと思い俺はワイバーンの体長ほど巨大な氷魔法をイメージした。それに俺の思いを全て載せた。ワイバーンに対する恐怖心、生きたいと思う生存本能、皆んなを守りたいと思う庇護欲、俺にしかできない優越感、高揚感それらの思いをありったけ載せた。さらに一つでは足りないと思い二つに増やした。俺の氷魔法は完璧にできたが、飛び回るワイバーンに当てるのは至難の業だ。その時リベルが叫んだ。


「ウェリル!ワイバーンを止めろ!」


その声にウェリルは立ち上がった。さっきまでの弱虫なウェリルとは違い、自分がやらなくちゃいけないと痛感したのか目つきが変わった。その時ウェリルが叫んだ。


「私に続け!魔法師団!」


さっきまでのウェリルとは思えないほどの声量と覇気に俺はやればできるじゃんとニヤけてしまった。ウェリルが叫んだ瞬間ワイバーンの動きが止まった。おそらく風魔法だろう。空間に影響を与えるほどの実力はないが、ワイバーンを数秒止めるほどの実力はあるのだろう。それが魔法師団と合わせてなのかは重要ではない。俺はほんの一瞬止まったワイバーンに俺史上最高速で氷魔法を射出した。


「グオオオ!!!」


俺の氷魔法がワイバーンの腹部を貫通した。貫通したにも関わらず、ワイバーンはまだ滑空していた。俺が立て続けにもう一発打ち込もうとしたが、風魔法が切れてワイバーンが空高く上昇していった。その場にいた者はワイバーンが逃げていくと思った。でもそれは間違いだった。上空で何かが光ったのだ。俺はワイバーンの瞳孔だと瞬時に理解した。最期の悪あがきだと思った俺は残ってる魔力全て使う勢いで水魔法を使った。最初のような光景が広がっていた。でも違ったのはワイバーンは死にかけで俺も魔力が切れかけだったことだ。どちらも満身創痍だったからその攻防は長く続かなかった。俺が魔力切れで倒れると同時にワイバーンの猛火も途絶えた。


ワイバーン討伐に民衆と魔法師団、騎士団が歓喜の声を上げた。リベルとジュナ、ウェリルは魔力切れの俺を心配して寄り添ってくれた。でも俺がそれに気がつくことはなかった。皆が歓喜の声を上げている中ディーノとモーディはワイバーンの行方を追っていた。その時二人が叫んだ。


「「落ちてくるぞ!」」


その声に皆が上空を見上げた。そこには自由落下するワイバーンの死骸があった。それを見て俺の心配をしていた三人と魔法師団が総力を上げてワイバーンの死骸の速度を緩めようと尽力した。ある者は火の温度を下げて水が沸騰しないようにしてワイバーンの死骸が支え、ある者は水魔法でワイバーンの死骸を押し返し、ある者は上空に向かって突風を巻き起こした。皆の全身全霊の努力の結果ワイバーンの死骸がメガフォーン家に落ちてくることはなく子爵領外に運ばれた。


俺が目を覚ましたのは翌日の夕方だった。部屋にはリベルとジュナがいた。


「おはよ。」


俺がいつもと同じように言うと二人はニコッと笑いこう返した。


「「おはよ!」」


俺は二人に抱きつかれた。別に死にそうになったわけでもないし怪我を負ったわけでもない。でも二人は俺のことを心配してくれている。その心地良さというか二人の心配してくれる思いに身を委ねることにした。

次回もお楽しみに


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