103話 若人講師その2
昨日は騎士たちの訓練を行ったから今日は魔法師団だ。昨日通り朝メイドに起こされウェリルと朝食を済ませた。魔法師団にはまだ俺たちの紹介はしていないからウェリルも魔法師団の訓練場に同行した。魔法師団の訓練場に着くと皆こちらを見ていた。昨日の騎士団とは違い来るのが分かっていたような反応を示した。おそらく昨日のうちに騎士団から広まったのだろう。だがウェリルはそんなこと気にせず昨日の騎士団たちに言ったように説明し始めた。
「本日より特別講師としてリベル、リフォン、ジュナの三名を雇った。契約期間は決まっていない。私を含め、君たちの態度次第では明日にでもこの契約は解消されるかも知れない。そのことを念頭に置いおくように。」
「「「はっ!」」」
昨日と全く同じ反応に俺たちはメガフォーン家の練度の高さを実感した。
「それでは私はこれで。」
ウェリルは役目を終えて屋敷の中に戻って行った。俺たちはウェリルとバトンタッチして俺が魔法使いたちに指示を出した。
「俺とリベルとジュナそれぞれに教わるか全員まとめて教わるかだとどちらが良いですか?多数決で決めたいと思います。考えるのに時間が必要だ思いますので少し時間をおきます。」
俺がそう言うと魔法使いたちは話し合い始めた。少人数で効率を求める者や平等を求める者など様々だ。しばらくすると話し合いが終わった。俺は魔法使いたちに挙手を求めた。すると全会一致で後者だった。魔法は魔法使いの数だけあるから一人に教わるより複数人に教わる方が良いと判断したのだろう。
「それじゃあ順番に教えるから皆さんの準備ができたら教えてください。こちらも準備しますので。」
「「「はっ!」」」
魔法使いたちは各々ローブを着始めたりアイテムを身につけたりした。俺たちはその間に誰がどの番で教えるのか話し合った。
「どの順番でやる?俺はどこでも良いかな。」
「僕もどこでも良いよ。」
「じゃあ俺が一番で良いですか?」
「「良いよ。」」
俺たちばハモリながら言うとジュナがクスッと笑い言った。
「本当に仲良しですね。それより俺が一番で良かったです。」
「なんでだ?」
俺が聞くとジュナはこう言った。
「一番歴が浅い俺が最初じゃないとガッカリされちゃうからですよ。」
「「あー…」」
俺とリベルはなんとも言えない相槌を打つとモーディが話しかけてきた。
「準備終わりました。」
「分かりました。まずはジュナが教えます。経験は浅いですが、俺が一から教えたので期待は裏切りませんよ。」
俺の言葉にジュナは余計なプレッシャーかけないでくださいと言わんばかりに睨んできたが気にせず話し続けた。
「ジュナの使える魔法は火と水で、リベルは火と雷、俺はジュナと同じ火と水ですが、アイテムで風と氷も使えます。なので風と氷も教えます。何か質問はありますか?」
誰の手も挙がらないのを確認したモーディが手を挙げた。俺が指名するとモーディが言った。
「リフォンさんがジュナさんに一から教えたと仰っていましたが、いつお教えになったのですか?」
俺が具体的な日数は分からないことから大体の日付を言った。
「去年の年末だ。だから…三ヶ月ぐらい前か?」
俺がそう言うと魔法使いたちの顔が真っ青になった。俺は何か変なことでも言ったかと焦ったが、モーディの言葉で魔法使いたちの反応に納得できた。
「さ、三ヶ月ですか…私は一応二十年ほど魔法を使っているのですが、才能には敵いませんね…」
そう言うモーディの目には薄っすら涙が見えたような気がする。俺は励まそうにも逆に傷口を抉るかも知れないと思い、何も言えなかった。
「そ、それじゃあジュナに変わりますね。」
ジュナになんてタイミングで変わるんですかと小声で言われたが俺は気にせずジュナにバトンタッチした。
「えー…紹介に預かりましたジュナです。えーとまず俺が使える火と水魔法を使ってみますので、イメージの方法、込めた感情などを当ててみてください。」
「えっ!?」
「俺できる気しないんだけど…」
「いきなりムズいな…」
ジュナは自分の指示がそんなに難しいこととは思っていなかったのか少し動揺していた。その様子に見かねてリベルが言った。
「はい!やる前から否定するのではなく、とりあえずやってください。」
リベルの言葉を聞いて魔法使いたちは黙り込んだ。リベルがジュナの背を押してやれと言ってるようだった。
「それでは分かりやすいようにゆっくりやります。」
そう言うと魔法使いたちはリベルの手のひらを凝視し始めた。俺も良い機会だし試しにやってみることにした。
ジュナの手のひらに小さな火の玉ができ始めた。俺は自分だったらどうイメージするかを思い浮かべながら予想した。ジュナの火魔法は小さなままだった。そしてそのままその火魔法を学園にあったようなカカシに向かって打った。その火魔法は爆発したりは特になく普通の火魔法だった。その威力の弱さから特に感情も込めていないことが分かった。でも魔法使いたちは深読みしてかかなり悩んでいた。
「それじゃあモーディさんから聞いて良いですか?」
「はい。見ている限りかなりスタンダードな火魔法だと感じたので、イメージはそのまま火の玉のイメージで、感情は読み取れなかったので感情は込めていなかったと思います。」
「正解です。最初だから簡単にしましたが簡単過ぎましたか?」
誰もがこれ以上の難易度を求めていないのか首を横に振った。その様子にリベルはため息をついた。俺だって自ら難しくするようなことはしたくないから、それぐらいは許してあげてほしいなと思った。
「それでは難易度はあまり変えず少しだけ発展させようと思います。」
そんな訓練を行っていると昼食の時間になった。皆昼食を取り、キリがいいからと次はリベルの番になった。
「それではやっていきたいと思います。僕の訓練はジュナほど優しくありません。一人づつ僕の前に立ち僕が打つ魔法を相殺するか避けるか、防いでください。威力は高くしません。スピードだけです。それではモーディさんお願いします。」
「わ、分かりました。」
モーディがリベルの五メートルほど前に立つとリベルが手のひらをモーディに向けた。
「行きますよ。」
「はい!」
その刹那リベルがモーディに向かって火魔法を打った。モーディは何とか同じ場所に火魔法を放ち難を逃れた。
「次行きます。」
「えっ!?」
そう言うとリベルは手のひらに雷魔法を出現させた。久しぶりに雷魔法を見た俺は心拍数が上がった。でもそんなこと気にしている場合じゃないことを思い出し、モーディを見たするとモーディは火魔法で全身を覆っておりリベルの雷魔法を防いだ。
「これで終わりです。火魔法と雷魔法の対処法を学んでもらいます。僕たちも完璧に分かっているわけではないので、当たっても少し痛いぐらいの低火力にしますので皆さんそれぞれの対処法を見出してください。」
リベルのスパルタ訓練はジュナに行ったスパルタ特訓と同じレベルでハードだった。その訓練にモーディですら息を上げていた。最後は俺が訓練する番になったが、流石にこの様子の魔法使いたちに訓練をするのはかわいそうだと思い俺は妙案を思いついた。とりあえず魔法使いたちの息が整うまで待った。
「皆さん聞いてください。俺は今から自分が使える四種の魔法を融合させようと思います。この融合魔法を見ることを訓練とします。俺もやったことがないのでどんな反応が起こるのかは分かりません。ですので最小限の魔法で融合させます。それでも危険は十分にありますので、各々得意魔法を盾にして見てください。」
全員が火あるいは水、風魔法を盾にしたのを確認して俺は火、水、風、氷魔法を極微量ずつ出現させそれらを融合させた。融合させる瞬間には火と水が反応して爆発したり、氷が風に切り刻まれ粉々になったりしていた。俺はそれでも融合させようとした結果、極微量の魔法で起こったとは思えないほどの爆発が起こった。その轟音はメガフォーン家全体に響いた。爆発によって生じた煙が晴れてきて融合魔法を確認しようとしたが、そこには何もなかった。まるで元からそんな物なかったと言われても不思議ではないほど綺麗さっぱり消えていたのだ。その様子に疑問に思う者もいれば、驚愕する者、素晴らしいと讃える者までいた。
「何事だ!?」
ウェリルが飛んできた。先ほど爆発と轟音が原因なのは言うまでもない。事の原因である俺が事細かく説明した。一連の説明を聞いたウェリルは静かに言った。
「今後このような事を行う際は私に一言かけてくれ。」
「はい。以後気をつけます。」
ウェリルはそれだけ言って屋敷に戻った。日も暮れてきていたので今日の訓練は終わりにした。今日の夕食にはウェリルもいたが、俺の融合魔法のせいで領民に色々話して疲れたと愚痴を聞かされることになった。離れに戻った後もリベルとジュナに融合魔法のことを聞かれたりして精神的に疲れた一日になった。
次回もお楽しみに