07.最後の兄弟
押し寄せるマランド兵の大群を目にしたアレンは、反転し城へ向け走った。
扉を開け、廊下を風のように駆け抜けた。
突き当りの図書室の扉を開け、そして内側から鍵を掛けた。
肩で息をするアレンの顔は、返り血で赤く染まっている。
部屋の壁際にある大きな2つの本棚を、左右に広げるように動かすと、隠し階段が現れた。
窓から差し込む夕日の光で、宙に舞うホコリと地下奥へと続く石の階段が見える。
「あの腰抜け野郎、逃げやがった!」
「こっちだ!城の中に入ったぞ!」
「逃がすなー!追えー!」
獲物を探すマランド兵の声に、荒い息のアレンは後ろを振り向いた。
アレンは手近にあった本を取り、隠し階段に入った。
そして、左右に開けた本棚を閉じた。本棚は重く、ゆっくりとしか動かない。
ガチン、
閉じた途端、光を失った階段は真っ暗になった。
アレンが目を閉じ集中すると、本を持つ手から炎がでて本が燃えた。
階段に放り投げ、その明かりを頼りに降りた。
降りていくうち本は燃え尽き、明かりは届かなくなった。
再び闇夜になった階段を、壁に手をつきながら慎重に降りた。
ジャリ、ジャリと砂を踏む音が響く。
(もう、扉があるはずだ)
左腕を前に出すと、木の感触があった。
手探りで扉の取っ手を探し当てると、手前に引いた。
ギィー
扉を開けた中は、ロウソクの炎で照らされていた。
「やはり来たな、アレン」
「にっ、兄さん!」
「どうしてここにいるんだ、って顔だな」
「なぜ、ここに・・・」
「閉めた方がいいぞ、扉」
言われたアレンは、後ろ手で開けた木の扉を閉めた。
「その赤い顔を拭けよ」
アクターは、アレンに向けてハンカチを投げた。
「ここを知ってたんだ」
「お前が夜な夜なこっそり部屋を抜け出していること、俺が知らないとでも思ったのか?」
「バレてたのか」
「双子の兄弟で、隠し事は無しにしようぜ」
アレンは、アクターの左手に一冊の本が握られているのに気がついた。
「そっ、その本は!」
「お前がここでしようと思ったことを、今から俺がやってみせよう、ってことさ」
「兄さん、わかっているのか!その本はとても危険な本だ」
アクターは、近くにある椅子に座った。
「ところで、この隠し部屋の存在だが、ハイルの歴史書で調べてもどこにも記述はなかったぞ」
「・・・まあ、そうだろうね」
「いつの時代かわからないが、闇魔法の研究に誰かが作ったものじゃないかと思う。図書室の地下奥に秘密の部屋・・・おそらく、作ったのは王じゃないかな」
「ハイルの王が?」
「一般には禁呪とされる闇魔法。その威力は絶大だが代償も伴う。そんな危険な研究をしていたんだ、当然それは秘密で、城内だったらここみたいな隠し部屋が必要だろうな」
「だから誰も知らなかった」
「そういうこと」
「僕も驚いたよ。最初にこの部屋を知ったときはね」
「お前はどうやってこの部屋にたどりついた?」
「本棚の下の方から本を取ろうとしたとき、一瞬だけど空気を感じたんだ」
「空気?どんな空気だ?」
「冷たく、凍るような空気」
「なるほど・・・それで、あの動かせる本棚に気がつき、隠された地下室への入り口を見つけたって訳か」
「最初は階段がどこに続いているか不安だったけど、見つけてしまった以上調べないわけにはいかない、って思ってさ。でも。ここにある本が全て闇魔法の本だったんで、誰にも言えなかったんだよ」
「まあ、そうだな」
アクターは、椅子から立ち上がった。
「アレン、お前は剣も魔法も俺にはかなわないと言ってたが、全てにおいて、お前は俺よりも優秀だ。隠しても、俺にはわかってるぞ」
「・・・兄さん、」
「だから、俺はお前に追いつきたかった。お前が読んでいるであろう、ここにある本も全部読んだ。そして会得したよ、闇魔法をね。でもまさか、こんな事態で使うことになろうとは、夢にも思ってなかったけどな」
「じゃ、その本の危険性もわかってるんだよね」
「ああ、もちろんだ。この本は、闇魔法の中でも最高ランクの魔族召喚魔法だ」
「兄さん!その本を僕に渡して!」
アレンは、アクターに向けて手を伸ばした。
その時、上の方からガシャーンという何かを破壊する音が聞こえた。
「あとはここだけだ!お前ら、探せ!絶対いるはずだ!」
頭上を、ドタドタと動き回る足音が。
「アレン、もう時間がきたようだ」
「兄さん!その闇魔法を使えば、兄さん自身に」
「わかってる、わかってるさ。だが、マランドの大群を全滅させるには、もうこれしかない・・・それは、お前も同じ考えだ。だから、ここに来たんだろ?」
「・・・」
「アレン、こいつを使えば、俺達が理想を描いたハイルは無くなるだろう」
「その本を僕に渡して!そして、兄さんがハイルを再興するんだよ!兄さんなら出来る!」
「思えば、お前と見たハイルの丘からの景色・・・あれが、最後になったな」
「兄さん、頼む!やめてくれ!」
アクターは顔を上げ、アレンを見た。
「アレン、足元をよく見ろ」
アレンの足元には紫色の魔法陣が描かれていて、アレンはその中心に立っていた。
「こっ、この魔法陣は!いつの間に、」
「ここでお別れだ」
「ちょっと、待って!兄さん、お願いだ、やめてくれ!」
「アレン・・・これから先、俺達の運命がどうなるのか。それは、神のみが知っているだろう。だがアレン、これだけは忘れないでくれ。俺達はこの世でたった二人だけの、兄弟だったことをな」
「兄さん!頼む!やめてくれ!」
「さらばだ、アレン!」
アクターが目を閉じた瞬間、アレンの足元の魔法陣が光りを放った。
途端にアレンは身動き出来なくなった!
「お願いだ!兄さああーーん!」
次の瞬間、光っていた魔法陣が消えると同時に、アレンの姿も消えた。
(アレン・・・ハイルの希望の光は俺じゃない、お前なんだよ・・・
そしてアレン、お前はいつの日か必ずこの兄を助けにきてくれ。
いいか約束だぞ、
必ずだ・・・)




