06.絶対絶命
ハイル軍が東へ向けて出撃した日、武装した王が馬に跨る姿が窓から見えた。
(えっ、父さんが武装?・・・戦争なのか・・・)
アレンは、思わず窓ガラスに近づいた。
カーテン越しに見える王は、慌ただしく馬上から指示を出している。
(本当に戦争するのか?・・・だとしたら、相手は一体・・・)
状況を確認しようと、部屋の扉を開けた。
「うわぁ、ハッ、ハーシュ。どうして、ここに」
「申し訳ありませんが、今からアレン様を自室にて軟禁させていただきます」
「軟禁?なぜだ」
「今ハイルには非常事態が起こっておりますゆえ、御身の安全を保障すべく行動を制限させていただきます」
「非常事態とは何が起こった?」
「それはお答えできません」
「王が武装して、出陣するのが窓から見えたぞ。何か関係あるのか?」
「申し上げれることはありません。ご容赦ください」
「ハーシュ、もし戦争というのなら、この僕も動員してくれ」
「自室にお戻りいただけますか」
「・・・」
アレンは粘り強く理由を聞いたが、非常事態という一点張りでハーシュはそれ以外答えなかった。
(軟禁は、きっと父さんの指示だろうな・・・しかし、ハイルに何が起こっているんだ・・・)
状況をつかめないまま、アレンは退屈をもてあました。
戦争なのか、だとしたら何が原因なのか。いや、戦争などではなく単に盗賊狩りかも。だが、盗賊の討伐に王が出陣するのか?・・・それは絶対に無い。
アレンは唇を噛んだ。
(あの時の、臨時会議にさえ参加してたらな・・・)
出陣する王の後ろ姿を見て、何日過ぎただろうか。
我慢できなくなり、アレンは部屋から抜け出した。
いつも部屋の前に立っている兵士も、今日は何故かいない。
廊下を歩くと、階下で騎士達の慌ただしい声が聞こえた。
(これは・・・籠城の準備?)
「自室にお戻りください」
「うわぁ!」
急に後ろから肩をつかまれた。
槍を持つ兵士が、怖い顔でアレンをにらんでいる。
「あー、すまない。ちょっと気になったもんだから・・・」
「今すぐお戻りいただけないのなら、警備兵を呼びますが、」
「わっ、わかった、戻るよ。ところで、あれは何の準備だ?」
「お答えできません」
「どこかと戦争になったのか?」
「お答えできません」
「・・・」
アレンは、お役目ご苦労と告げると、Uターンして自室に戻った。
部屋に戻り、ベッドに寝転んだアレンは腕枕で考えた。
(初めから王の出陣となると、大きな戦争と見るべきだけど・・・なんで、いきなり籠城の準備なんだろ・・・)
最近では、ガラス越しからも兵士の声が聞こえるようになった。
城の庭でも何か準備をしているようだ。
(ハイルが、戦争を仕掛けるはずないんだけどなー、・・・)
訳がわからないアレンだったが、いつでも参戦できるように剣と皮の鎧をテーブルの上に置いた。
部屋から出るなと言われて、7日目の朝。
城の庭を駆ける馬の蹄の音で目が覚めた。
あわててベッドから飛び起き、部屋のカーテンを引いて庭を見ると、兵士がまだ走っている馬から飛び降りて城の中に入っていった。
(伝令の早馬か・・・あの様子・・・戦況は思わしくないのか・・・)
早馬が気になったが、司令部でもある玉座の間は、当然警備で固められている。
今頃、アクターはどうしているのか。
王と共に出陣したのだろうか。
(いや、それはない。窓からは父さんの姿しかなかった・・・)
居ても立ってもいられなくなり、アレンはまた部屋を抜け出した。
早馬が来たせいなのか、辺りには兵士が見当たらない。
玉座の間を避けて階段を降り、1階の会議室を過ぎたあたりで、武器部屋の中から話し声が聞こえた。
思わず身をかがめるアレン。
「しかし、どんな金塊だったんだろうな?」
「一度見てみたかったぜ」
「眩しくて目が開けらんねえってか!」
「おい!声がでかいぞ!」
「わりい。でもよ、一度でも見たら絶対ほしくなるよな!」
「間違いねえ。俺だったら持てるだけ削って、そのまま逃げるよ」
「ティルーヤの奴ら、よく暴動を起こさなかったな。感心するぜ、まったく」
会話が止むと当時に、部屋の扉が開く音がした。アレンは、素早く会議室の中に隠れた。話していた連中は、どうやら城の外へと消えたようだ。
アレンはそのまま自室に戻り、ベッドに身体を投げ出した。
(ティルーヤ?金塊?・・・何の話しだ・・・ティルーヤ村で金塊が発見されたとでもいうのか?)
アレンは飛び起きた!
(そうか、鉱山だ!鉱山で、金の鉱脈が発見されたんだ・・・その金が元で戦争が勃発した・・・間違いない!)
そして、初戦から王が出陣している。
つまり、相手は野盗とかそんな小さな存在じゃない。
(あの緊急会議は、ティルーヤで金が発見された対策会議だ・・・そして、次の日にもう父さんは出馬している・・・)
つまり戦争になることが確実視され、ハイルの作戦は短期決戦だということ。
(発見からこの速さで攻めてこれるのは、キルケしかない!)
アレンは、テーブルに置いた剣と鎧を取った。
部屋のドアノブに手が伸びたところで、止まった。
玉座の間には行けない。
「キルケ相手じゃ、ハイルは大ピンチじゃないか!」
アレンは、剣を床に叩きつけた!
「どうして部屋に閉じ込めるんだよ!」
ふたたびベッドに身を投げ、枕で自分の顔を抑え込んだ。
(あー、くそっ!このモヤモヤした気持ちを、どうすりゃいいんだ!)
そして、昼を過ぎ夕方に差し掛かろうとする頃、また馬の蹄の音が聞こえた。
(また、早馬か!)
窓に近づきカーテンを開けると、馬から飛び降りる兵士の姿が見えた。転がって起き上がる姿は、最初の兵士よりも慌てている。
(ここにいても何も伝わってこない・・・)
アレンは目を閉じながら、部屋の中をウロウロした。
(城の外に出れば、何かつかめるかも・・・)
アレンは部屋の扉を開け、散歩するフリをして城の庭に出た。
城の庭では武器の手入れをする騎士達が、外に出たアレンをチラリと見たが、皆さっきの早馬に気をとられている様子で、誰もアレンを制止しようとしなかった。
(まだ早馬の情報が伝わっていないか・・・)
その時!
アレンは、急に立ち止まり胸を押さえた。
ドックン、ドックン
(うぅ、・・・なっ、なんだ・・・この締めつけられるような・・・胸の痛みは・・・)
言いようのない不安感がアレンを襲った。
脈を打つ音が耳に響いた。自分の中で、緊張が急激に高まっている。
ヒュー、ドカッ!
アレンの目の前を一本の矢が凄い早さで過ぎ、すぐ横にある木に突き刺さった!
「あれー、外しちまったよ。なんだか知らねえが急に止まりやがって・・・やっぱ、この距離じゃ無理だわ」
「へっ、言い訳こいてんじゃねえよ。だからもっと練習しろって、あれ程言ったのによ」
「すまねえ、へへへ」
「笑ってごまかすんじゃねえ!」
「よく見てろ。俺は、相手がどうでようと外さねえぜ」
そう言って、男はアレンに向けてギリギリと矢を引いた。
「死ね!ハイルのゴミめ!」
ピュー!
凄い速さで、矢が真っすぐアレンめがけて飛んできた!
アレンは飛んできた矢に気づいたが、足がすくんで動けない!
「アレン様!」
ブシュ!
「ぐはぁっ!」
なんと、矢はアレンの前に飛び出した兵士の背中に突き刺さった。
兵士はそのまま倒れこむように、アレンにもたれかかった。
矢じりの先端が胸を貫いて、血が噴き出している。
「アッ、アレン・・・さま・・・お逃げ、ください・・・」
兵士は力をなくし、そのままドサっと地面に落ちた。
アレンは、矢が飛んできた方向を見た。
「あっ、あの旗は・・・」
「もっ、申し上げます!」
鎧を身に着けていない兵士が、アクターが座る玉座の間に駆け込んできた!
「何事か!」
立ったまま玉座の間に入った兵士に、ハーシュは一喝した。
「マッ、マランドです!」
「なにっ!」
「マランド国が、攻めてきました!」
「なんだと!」
アクターは玉座を飛び出した。
廊下を駆け抜け、庭が見える大きな窓のカーテンを一気に引いた!
「こっ、これは・・・」
そこには、マランドの先行部隊が持つ国旗が、ハイルの城をぐるりと取り囲んでいた。遅れてやってきたハーシュは、その光景に愕然となった。
「ばっ、ばかな・・・なぜ、マランドがここに・・・」
「ハーシュ!なぜマランドがここにいる!」
「わっ、わかりません。今回の戦いで我々は全兵力をキルケに向けております・・・マランドが攻めてくるなど・・・全く想定しておりません」
「まさか・・・その作戦が、マランドに筒抜けだったと言うのか」
「しっ、しかし、マランドからここへは、どう急いでも7日はかかるはず。今ここにマランドがいるということは、7日前に出陣したとしか考えられません」
「7日前・・・我が軍がキルケに向け出発した日じゃないか。我が軍が出陣したと同時に、マランドもハイルに向けて出陣したというのか!」
「・・・はっ!・・・まっ、まさか・・・」
この瞬間、アクターとハーシュは気付いた。
そう、金鉱脈からの一連の動きは、全てマランドが仕組んだ罠だったのだ。
まだ、ハイルの城から少し離れたところに、マランド国2万の兵隊がいた。
その先頭には、馬に跨った将軍クートがいる。
「さあて、挨拶も済んだ頃合いだな。面倒くさいが、あの小汚い城でも落とすか」
クートは、正面を向いたまま右腕を高く上げた。
それと同時に、マランド軍の兵士は一糸乱れぬ統率で全体が静まりかえった。
パタパタと風にはためくマランド国旗の音だけが聞こえた。
「殺戮ショーの始まりだ!」
うおおおおおーー!
上げられた右腕を降ろした瞬間、嵐のような怒声とともに、手に武器を持ったマランド兵が一斉にハイルの城目掛けて駈けだした!
遠くから聞こえた地鳴りのような声に驚いたのか、城の近くの民家から母親と幼い子供が家から出てきた。
「ダメだああー!出るな!逃げろーー!」
バシュ!
アレンが見る前で、その母親と幼い子供の首が血しぶきを上げなら中に舞い上がった。
「やめろおおぉーー!」
アレンはとっさに腰の剣を抜こうとしたが、剣は部屋に置いたままだ。
マランドの先行兵は、城門を抜け城の中になだれ込んできた!
「わっはは、死ね!ハイルのゴミども!」
大柄なマランド兵が、アレン目掛けて斧を振り下ろした!
バシュー!
「ぐああー!」
またもアレンの前に飛びだしたハイルの兵士が、真っ二つに斬られた。血まみれの肉塊が、芝生の庭にドサっと落ちる。
大柄なマランド兵は、アレンをにらんだ。
「ほー、兵士に守られるとは、貴様王族だな」
大柄なマランド兵は後ろを向いた。
「おーい、お前ら!ここに王族がいるぞ!」
「なに!王族!」
「ヒャーハ、俺に斬らせろ!手柄をたてて特進だぜ!」
あっという間にマランド兵が集まってきた。
しかし、同じ数だけハイル兵士も素早く集まり、アレンの前に壁を作った!
「我々が時間を稼ぎます!」
「アレン様、お逃げください!」
「逃がすか!手柄は俺のもんだあー!」
ガキーン!
マランド兵が振り下ろした剣を、ハイルの兵士は受け止めた!
「はっ、早く!逃げて下さい!」




