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justicia  作者: 清水京太郎
第一部
4/29

04.緊急会議

アクターは、会議室の扉を乱暴に開けた。

ハイル王国の幹部は、一斉に扉の前で仁王立ちするアクターを見た。

 

 「戻ったか、早く席につけ」

 

 「父さん!どうしてアレンを会議に参加させないんだ!」

 

 「公の場では、王と呼べと何度言えばわかる」

 

 「アレンも立派な王子だ!俺と何が違うって言うんだ!もういい加減にしろよ!」

 

王はガラっという音を立てて、椅子から立ち上がった。

 

 「そこまで言うのなら、わたしもハッキリと言おう。このハイル王国の王子はお前だけだ。アレンは王子でない」

 

 「王子じゃないって。何言ってんだ、双子なんだろ?」

 

 「誰が王子かは、この王が決めることだ。お前が口をはさむ事ではない。そして我が国の王子は、お前だけだ」

 

 「二人とも父さんの子じゃないのか!」

 

 「跡継ぎが二人いるとどうなると思う?お前もわかっているだろう、必ず争いになる。それは歴史が証明してることだ」

 

 「俺とアレンは違うんだよ!争いなんて、俺たちの仲じゃあり得ないんだ!」

 

 「夢を語り合っている内は、誰でも仲が良いものだ。王は大きな富と権力を持つ。それが二人の目の前にぶらさがり現実となった時でも、お前達は今と同じ事が言えるのか?」

 

 「そっ、それは、・・・」

 

そうなってみないとわからない、という言葉をアクターは飲み込んだ。

富と権力。古の昔から、男を惑わす麻薬。ハイル王国のそれがどれ程のものなのか、今の自分では想像も出来ない。

しかし、「わからない」という答えで、王を含めたここにいる面々が納得するはずもない。

この場の空気が、それを語った。

 

 「わかったら、座れ」

 

アクターは大きくため息をついて、前の席に座った。

案内してきた大臣は、会議室の扉を閉めた。

 

 「さて、王子も来たところで、話しを続けよう」

 

王は、座りなおした。

 

 「アクター、ティルーヤで金鉱脈が発見されたことが議案だ」

 

 「えっ、金鉱脈?」

 

 「そうだ。それも、かなり純度の高いものらしい」

 

 「鉱山で銅を掘っていた村人が、偶然発見したようです」

 

 「なんだ、とても良い知らせじゃないか。これで、ようやくこの国も富める国家になるよ」

 

しかし、周りの幹部達の表情は暗い。


 「どうした皆、うれしくないのか?」

 

 「アクター、この知らせは我が国にとって悲報なのだ」

 

 「悲報?」

 

大きなテーブルをはさんで、アクターの正面にいる財務担当大臣が声を出した。

 

 「王子。金鉱脈が発見された、という知らせがこの城にきたのは今日の夕刻ですが、実際に鉱脈が発見されたのは昨日のようです」

 

 「1日ズレがあるってことか?」

 

 「ええ。ティルーヤからこの城までは馬で飛ばして1時間程の距離。それが、発見から1日も経過しているということは、村の連中が金鉱脈の存在を、意図的に隠したと推測されます」

 

 「なぜ村人がそんなことを、」

 

 「それはわかりません。ただ、金鉱脈発見などという、前代未聞の出来事を隠し続けれるはずもない。処罰を恐れた一部の村人が、今日になって城に駆け込んだ、という事でしょう」

 

 「なるほど・・・で、とう、いや、王が言う『悲報』というのは?」

 

王子の問いに、王は答えた。

 

 「金鉱脈が発見されても、村人自身が富むことはない。かえって採掘の労働が増えるだけだ。自分達には一銭のトクにもならない」

 

 「まあ・・・それは、確かにそうだけど、」

 

 「かといって、村で独占したいがため、王立軍と戦っても勝てるはずがない」

 

 「そんなクーデターのような考えを村人が持ちますか?」

 

 「先程言ったではないか。実際に富や権力が目の前にぶらさがった時、人はどのような振る舞いをするのかと」

 

 「それは、そうですが・・・」

 

 「ここまで考えたとき、目の前の金鉱脈を確実に自分の富に変える方法は、お前はどんなものがあると思う?」

 

王の問いに、少し考えたアクターは、

 

 「監視の目をくぐって、わからないように盗むか・・・あるいは・・・いっそ、金鉱脈の存在を誰かに売る、とか?」

 

王は、ゆっくり頷いた。

 

 「私の予想はこうだ。おろらく村長だと思うが、適当な事を言って村人の口を封じた。そして、金鉱脈の情報を第三者に売るために村を出たと思う。口封じは、おそらく村を出るための時間稼ぎであろう」

 

 「王子。もし今この話が他国に漏れると、金鉱山を奪う目的で我が国に戦争をしかけてくるというのは、ほぼ間違いありません。金はどの国も喉から手が出る程ほしいものですから」

 

会議場は、重い雰囲気に包まれた。

誰も発言しない中、幹部達は口々にしゃべり始めた。


 「せっ、戦争と言っても、我が国は小国だ・・・軍隊も少ない」

 

 「攻められたら、ひとたまりもありませんな」

 

 「どこが攻めてくるのでしょうか。西のファサーは山脈があるので容易に攻められない。とすると、南のマランドか、東のキルケか」

 

 「それは、どの国に情報が漏れたかで決まります」

 

 「どの国がきても、ハイルが勝てるはずないな」

 

 「おい!そのような弱気でどうする!」

 

 「応援を頼める国はないのか!」

 

 「はっ、こんな弱小国家のために、どの国が来てくれるというのだ」

 

 「なんだと!貴様、弱小国家とは何だ!」

 

 「弱小だから、弱小って言ったんだよ!」

 

 「このハイル王国を愚弄する気か!」

 

近衛騎士団長は立ち上がり、腰の剣に手をかけた!

 

 「皆の者、静まれ」

 

王の一声で、会議場は静かになった。


 「第三者に情報を売るとしたら、盗賊などではなく、資金もあり鉱山という大きな資源を活用できる者になるだろう」

 

 「王よ。それは、やはり国ですか。国家なら情報に対する対価も、大きく交渉できそうですからね」

 

 「うむ。向かう先は、おそらく東のキルケであろう。南のマランドは、どう考えても遠過ぎる。逃げる時間との勝負となれば、キルケに向かうはずだ」

 

 「まあ、そうなりましょうな」

 

 「キルケは、更に東の大国マルディンとの国境で、今も小競り合いが続いているはずだ」

 

 「つまり、我が国と戦争になっても全軍では来ない、ということですね」

 

その時、会議室の扉の向こうから声がした。

 

 「アドナン様の使いで急ぎ参りました。王にお目通りを願います」

 

 「入れ」

 

早馬で駈けてきた使いの者は、会議室の扉を開けて跪いた。

 

 「どのような内容だ?」

 

 「はっ。ティルーヤ村の村長が、今日の夜明けに馬で村を出る姿が、何人かの村人に目撃されております」

 

 「なに!」

 

 「なんと・・・」

 

 「村長はどこへ向かったのかわかっているのか?」

 

 「はっ。向かう先を尋ねた村人に、『キルケに行く』と告げたそうです」

 

会議場に、どよめきが走った。

 

 「王の読みが当たったぞ!」

 

 「さすがは、我が王」

 

 「わかった。よく知らせてくれた」

 

 「いかが致しますか?追いかけて捕えますか?」

 

 「いや、もう手遅れであろう。報告ご苦労であった。アドナンには、引き続き警戒を続けるよう伝えてくれ」

 

 「ははっ。では、これにて失礼致します」

 

使いの者は、扉を閉めた。

 

 「わたしの予想が、現実のものとなってしまったか」

 

 「王よ。これでキルケが攻めてくることが、確実となりましたな」

 

 「うむ・・・」

 

 「キルケが攻めてくるのか・・・」

 

 「せっ、戦争だ」

 

 「我らは、どうしたらいいのだ!」

 

 「あー、もうハイルはもうおしまいだ」

 

会議場は、戦争という言葉の暗雲に支配されてしまった。

 

 「フェルガナ、」

 

 「はっ、ははっ、」

 

 「キルケの戦力は、どのくらいだ」

 

王は、軍師フェルガナに尋ねた。

 

 「おおよそ、2万です」

 

 「キルケは、我がハイルを小国としてなめている。おそらく、その3割程度を我が国に差し向けるのではないか、」

 

 「であれば、6000~7000といったところでしょうか」

 

 「わが軍の兵力は?」

 

 「王立軍として3000、農民兵が2000の合わせて5000です」

 

 「5000か・・・」

 

王は考え込んだ。

それ以降、城の幹部は誰も語らなくなり会議場は無音になった。

ロウソクの炎が揺らめく中、ただ時間だけが過ぎていった。

次に耳にする王の言葉が、最終決定だ。

会議場の緊張は、過ぎてゆく時間とともに高まった。

 

やがて王は、勢いよく立ち上がった。

 

 「全軍を東に向けよ。そして、キルケ軍を迎え撃つ!」

 

 「たっ、戦うのですか!」

 

 「こうなった以上、もはや逃げることはできない。我がハイルの威信と名誉を賭けて、侵略者に立ち向かうのだ!」

 

 「しっ、しかし、我が王!キルケは戦上手と聞き及んでおります。いっ、言いにくい事ですが、いっそ戦わず降伏した方が・・・」

 

 「降伏しても、我が国の民は虐殺されるであろう。キルケとはそういう国だ」

 

 「そっ、それは・・・」

 

 「それでもこの王に、降伏を選べというのか?」

 

 「・・・」

 

テーブルに両手をつき、王は前傾姿勢になって幹部を見渡した。

王の表情は険しいが、覚悟を決めた顔だ。

 

 「皆の者、我らは負けるかも知れぬ。だが、死を恐れるな!伝統あるハイルの民として最後まで戦ったという名誉は、後世まで語り継がれるであろう」

 

 「・・・」

 

 「戦おう!名誉を選ぼうではないか!誇りあるハイルの民として、最後まで戦うのだ!」

 

幹部は、互いの顔を見合わせた。

ハイル王国は他国との大規模な戦争は長い間無く、

訓練は日々行っているが、実践経験の無い人々が、ほとんどだった。

王の言葉はわかるが、賛同できる者はこの中にはいないだろう・・・

誰しも、そう思ったとき、

ガラっと椅子が床をこする音がした。


 「王よ、私は戦います。誇りあるハイルの民として」


末席に座っていた若い騎士が立ち上がった。

そして、シャーという金属音を残して腰の剣を抜き、高々と空中に掲げた。

幹部達は、驚きの目でその若者を見た。

静かだが、なぜか心に突き刺さるその声と天井に向けられた剣は、迷っている幹部の気持ちを揺さぶった。

 

 「ワッハッハ、若い奴に先を越されたな・・・この老体に鞭打って、ワシも戦いますぞ。ワシの死骸はハイルの土となりましょう。そこからまた、きっと新しい芽が出るでしょうな。楽しみですぞ、ワッハッハ」

 

 

 「・・・そうだ、俺達も戦おう!」

 

 「よし、ハイルの名誉と誇りを賭けて、俺も戦う!」

 

 「やってやる!皆、戦おうではないか!」

 

皆が一斉に立ち上がり、剣やこぶしを高く掲げた。

うおぉーーーという幹部の雄たけびが、夜のハイル城に響いた。


 

 「皆の者、よく決断してくれた。感謝する」

 

 「王よ、我らハイルの意地をみせましょう!」

 

 「出陣は明日の午後とする。皆準備に取り掛かってくれ」

 

 「ははーっ!」

 

ハイル王国の幹部達は、急ぎ持ち場へ散った。



静寂となった会議場には、王とアクターの二人だけ残った。

 

 「父さん、」

 

 「アクター、お前は今年で16歳。初陣を飾れる年だ」

 

 「もちろん分かってる。最前線で戦うよ」

 

 「お前は、城に残れ」

 

 「えっ?」

 

 「ハイル全軍を向かわせるこの戦いだが、我が軍の勝利は厳しいであろう」

 

 「なら尚のこと、俺はいく」

 

 「ダメだ。籠城となったとき、お前が残った軍の指揮をとるのだ」

 

 「籠城?」

 

 「東の最前線には、この私が向かう」

 

 「ちょっと待ってよ。勝利は厳しいって、さっき言ったよね、それじゃ、まるで」

 

 「別にあきらめた訳ではない。この戦いで我が軍に勝ち目があるとすれば、それは短期決戦だ。ゆえに、最初から士気を最大限に高め一気に叩く必要がある。わかるな」

 

 「・・・父さん、」

 

王はアクターを抱きしめた。

 

 「・・・アクター、後のことはお前に任せる・・・この城と、そして母さんを頼んだぞ」

 

そう言い残して、王は会議場を後にした。


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