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justicia  作者: 清水京太郎
第一部
3/29

03.ファル

 「ところで、兄さ」

 

 ピーー、

 

 「まて!」

 

 「えっ?どうしたの?」

 

 「今、ファルの声が聞こえなかったか?」

 

 「ファル?まさか。今日は鎖に繋げたんじゃなかったっけ?」

 

 「そうなんだが・・・でも、確かに聞こえた」

 

二人は会話を止め、聞き耳を立てた。

 

 ピーー、

 

今度はアレンにも聞こえた。

 

 「ファルだ!間違いない」

 

二人は丘の上から空を見渡した。

 

 「兄さん、あそこ!」

 

アレンが指差す方向に、黒い点が見えた。

アクターは指を口に入れ、指笛を吹いた。ピューーっという高い音が、ハイルの夕空にコダマした。

 

 「よし、気づいた!こっちに来るぞ」

 

 「皮のグローブは!」

 

 「持ってるわけないだろ!馬の荷袋の中だ」

 

 「じゃ、これで代用だ!」

 

黒い点は凄い速さで近づき、すぐ鳥だとわかる大きさになった。

アクターは腰の剣を抜き、アレンが握っている枝を切り落とした。

 

 「早く!もうすぐそこだよ!」

 

 「よし、ちょうどいい太さだ」

 

アクターが葉や小枝を落とした木の棒を掲げるやいなや、バサバサという激しい音と共に黒い影が二人の視界を遮った。

顔にかかる風圧で、アレンは思わず顔をそむけた。足元の葉や小枝が渦を巻いて宙に舞う。


 「ふう、なんとか間に合ったな」

 

ファルの鋭く尖った爪が、木の棒に食い込んでいる。大きな翼の持ち主が、アクターの左腕にズシリと重くのしかかった。

アレンは、ファルの黄色い足を見た。

いつも鎖をつないでいるリングが無い。

 

 「兄さん、これは誰かが鎖を外したとしか」

 

アクターがファルの羽の中を見ると、痛めたところから血が滲んでいた。

 

 「アレン、」

 

 「えっ?」

 

 「これは、きっと合図だ」

 

 「合図?」

 

 「城へ戻るぞ」

 

 「もしかして、急を知らせるためにわざと鎖を」


 「俺はそう思う」

 

 「そうか、わかった」

 

 「よし、急ごう!」

 

アレンとアクターは、馬を繋いでいる所まで走った。

アクターが走り出すと、ファルはバサバサと大きな羽を広げた。

 

 「こら、ファル!お前は飛ぶんじゃない!いいか、おとなしくしてろ」

 

アクターに怒られたファルは、羽を閉じグルルという声を出しておとなしくなった。ファルが乗った木の棒をアレンに渡すと、アクターは皮の手袋を左腕に装着した。

 

 「片手で乗れる?」

 

 「俺をなめてんのか?全速で戻るぞ!」

 

 「オーケー。じゃ、行こう!」

 

 


 

アクターとアレンは門から庭を駆け抜け、城の入り口手前で馬を降りた。

すっかり陽も落ちて、辺りは深い青色に染まっている。

アクターが城の大きな扉を押し開けると、大臣が待ち構えていた。

 

 「ああ、アクター王子!お待ち申し上げておりました!お戻りのところ申し訳ありませんが、緊急の幹部会議が開かれております。急ぎご参加いただきたく」

 

 「やはり、そうか。わかった。アレン行くぞ」

 

大臣は、アレンの前に立ちはだかった。

 

 「王がお呼びなのは、アクター王子だけでございます」

 

 「何を言ってる。アレンも王子だ。会議に参加する資格はあるぞ」

 

 「王がお呼びなのは、アクター王子だけです」

 

 「このアクターの言うことが、聞けないと言うのか?」

 

 「申し訳ございませんが、これは王のご命令でございます」

 

 「・・・そうか。じゃ、ちからずくでも通るぜ」

 

アクターは剣に手をかけた。

 

 「兄さん、」

 

アレンは剣にかけたアクターの手に自分の手を被せた。

 

 「行ってきてよ、会議」

 

 「アレン、お前何を言ってる」

 

 「ファルは兄さんの部屋へ僕が連れていくから」

 

 「しかし、お前、」

 

 「いいんだって」

 

アレンはアクターの腕から皮のグローブを外し、そのままファルを受け取った。

 

 「さ、早く。王にしかられるよ」

 

 「本当にいいのか?」

 

 「いいんだよ、これで」

 

 「・・・わかった」

 

 「こちらです」

 

大臣の案内で、アクターは廊下の奥へと消えて行った。

アクターの後ろ姿を最後まで見ていたアレンは、一人アクターの部屋へと続く階段を上がった。

 

 

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