03.ファル
「ところで、兄さ」
ピーー、
「まて!」
「えっ?どうしたの?」
「今、ファルの声が聞こえなかったか?」
「ファル?まさか。今日は鎖に繋げたんじゃなかったっけ?」
「そうなんだが・・・でも、確かに聞こえた」
二人は会話を止め、聞き耳を立てた。
ピーー、
今度はアレンにも聞こえた。
「ファルだ!間違いない」
二人は丘の上から空を見渡した。
「兄さん、あそこ!」
アレンが指差す方向に、黒い点が見えた。
アクターは指を口に入れ、指笛を吹いた。ピューーっという高い音が、ハイルの夕空にコダマした。
「よし、気づいた!こっちに来るぞ」
「皮のグローブは!」
「持ってるわけないだろ!馬の荷袋の中だ」
「じゃ、これで代用だ!」
黒い点は凄い速さで近づき、すぐ鳥だとわかる大きさになった。
アクターは腰の剣を抜き、アレンが握っている枝を切り落とした。
「早く!もうすぐそこだよ!」
「よし、ちょうどいい太さだ」
アクターが葉や小枝を落とした木の棒を掲げるやいなや、バサバサという激しい音と共に黒い影が二人の視界を遮った。
顔にかかる風圧で、アレンは思わず顔をそむけた。足元の葉や小枝が渦を巻いて宙に舞う。
「ふう、なんとか間に合ったな」
ファルの鋭く尖った爪が、木の棒に食い込んでいる。大きな翼の持ち主が、アクターの左腕にズシリと重くのしかかった。
アレンは、ファルの黄色い足を見た。
いつも鎖をつないでいるリングが無い。
「兄さん、これは誰かが鎖を外したとしか」
アクターがファルの羽の中を見ると、痛めたところから血が滲んでいた。
「アレン、」
「えっ?」
「これは、きっと合図だ」
「合図?」
「城へ戻るぞ」
「もしかして、急を知らせるためにわざと鎖を」
「俺はそう思う」
「そうか、わかった」
「よし、急ごう!」
アレンとアクターは、馬を繋いでいる所まで走った。
アクターが走り出すと、ファルはバサバサと大きな羽を広げた。
「こら、ファル!お前は飛ぶんじゃない!いいか、おとなしくしてろ」
アクターに怒られたファルは、羽を閉じグルルという声を出しておとなしくなった。ファルが乗った木の棒をアレンに渡すと、アクターは皮の手袋を左腕に装着した。
「片手で乗れる?」
「俺をなめてんのか?全速で戻るぞ!」
「オーケー。じゃ、行こう!」
アクターとアレンは門から庭を駆け抜け、城の入り口手前で馬を降りた。
すっかり陽も落ちて、辺りは深い青色に染まっている。
アクターが城の大きな扉を押し開けると、大臣が待ち構えていた。
「ああ、アクター王子!お待ち申し上げておりました!お戻りのところ申し訳ありませんが、緊急の幹部会議が開かれております。急ぎご参加いただきたく」
「やはり、そうか。わかった。アレン行くぞ」
大臣は、アレンの前に立ちはだかった。
「王がお呼びなのは、アクター王子だけでございます」
「何を言ってる。アレンも王子だ。会議に参加する資格はあるぞ」
「王がお呼びなのは、アクター王子だけです」
「このアクターの言うことが、聞けないと言うのか?」
「申し訳ございませんが、これは王のご命令でございます」
「・・・そうか。じゃ、ちからずくでも通るぜ」
アクターは剣に手をかけた。
「兄さん、」
アレンは剣にかけたアクターの手に自分の手を被せた。
「行ってきてよ、会議」
「アレン、お前何を言ってる」
「ファルは兄さんの部屋へ僕が連れていくから」
「しかし、お前、」
「いいんだって」
アレンはアクターの腕から皮のグローブを外し、そのままファルを受け取った。
「さ、早く。王にしかられるよ」
「本当にいいのか?」
「いいんだよ、これで」
「・・・わかった」
「こちらです」
大臣の案内で、アクターは廊下の奥へと消えて行った。
アクターの後ろ姿を最後まで見ていたアレンは、一人アクターの部屋へと続く階段を上がった。




