28.疑念
「待て!」
「なんだ?死ぬのが怖くなったか、聖剣を持つ者よ」
「お前は、この国を破壊するために来たわけではない」
「だから、なんだ」
「場所を変えさせてくれ」
「なにっ?」
「この城は壊したくない」
「なんだそれは。俺に何の得がある」
「お前達は人間を滅ぼし、この地上を支配するつもりだろ」
「まあ、そうだが」
「だったら、城は支配した場所の拠点の守りとして必要になるはずだ。それを壊すのは、不合理だぞ」
「何を言うかと思えば、守りだと。全く意味がわからんな。魔族が支配した後、誰が俺達を攻撃するのだ」
「肝心な事を忘れてるぞ」
「なんだと、」
「天界だ。天界は人間には手を出せないが、魔族となれば話しは別だ。天から降りて、お前ら魔族を必ず攻撃する」
「それは、お前の希望だろ」
「天上神は、我ら人間を作った。その人間が全て滅ぼされたとなると、黙っているはずがない。違うか?」
まあ、確かにこの人間の言う事にも一理ある
それに天界とは、いずれ決着を付ける必要があるからな・・・
リゲルの闘気は小さくなり、城の振動も止まった。
「いいだろう。場所を変えてやる」
(もしかして、アレン様は時間を稼ぐ作戦か・・・)
「あそこにしよう」
リゲルが指さしたのは、北の森で一部平地になっている所だ。
茶色の地面が、円形になっているのが見える。
「まずお前らが移動しろ。俺はここに残り、お前らの移動を見届けてから向かう」
「俺達が逃げ出すとでも思っているのか」
「人間など信用していない。何を企んでいるか、わからんからな」
「いいだろう。だが、この城は絶対に壊すなよ」
「ある程度時間が経っても貴様らが現れないときは、容赦なく破壊する」
アレンはくるりと背を向け、剣を背中に収めた。
「移動しよう」
真剣な顔をしたライカルは、何も言わずアレンの後に続いた。
4人は北の森へ向かうべく、城の中庭を歩いた。
後ろを振り返ると、リゲルが城から見ている。
「アレン様、これは時間稼ぎですか?」
「いや、単純に城を壊されるのが嫌なだけだよ」
「そうですか・・・対峙してわかりましたが、あの魔物かなり厄介です。弱点がどこにあるのか、検討がつきません」
「ライカルの魔法には頼れないし、俺とリフィールで倒すしかないだろう」
「御意。お任せください」
「ステラ、」
「なに?」
「君の回復魔法は、どのくらいの距離まで届くんだ?」
ステラは、首を横に振った。
「あたしは戦場の前線で治療したことがないのよ。回復魔法がどのくらいの範囲まで届くのか、わからないわ」
「そうか、わかった。じゃ、ステラとライカルは距離を取って、後方で俺達を見ていてくれ。ライカルは、間違っても魔法を撃つなよ」
ライカルは答えず、真剣な顔で前方を見ている。
ステラは、何も言わないライカルを不思議に思った。
「ライカル、どうしたの?」
「何がだよ」
「いつもだったら、『アレン、俺をなめんじゃねえ!』、みたいな事を言うと思うんだけど。もしかして、元気ない?」
「あのブタの魔物に歯が立たないからって、落ち込むなよ」
「リフィール、てめえは黙ってろ」
リフィールは、両手を広げた。
その後も無言だったライカルは、急に立ち止まった。
「リフィール、ちょっと話しがある」
「ん、なんだ?さっきは黙れと言ったくせに」
「アレンとステラは、先に行ってくれ」
「なによ。内緒の話しなんかやめてよね」
「いいから行けよ」
「なんですって、」
アレンは、ステラの手を握った。
「行こう」
「ちょ、ちょっと・・・いきなり、びっくりするじゃない・・・」
アレンはステラに微笑み、二人は手を繋いだまま歩き出した。
ライカルは、アレンの背中が見えなくなるのを確認した。
「で、なんだ。内緒の話しというのは」
「とぼけんな、リフィール。お前も気付いてるんだろ」
「・・・アレン様のことか」
「ああ、そうさ」
リフィールは、小さくため息をつく。
「きっと、気のせい」
「そんなわけあるか!紛れもねえ事実じゃねえか!」
ライカルは、リフィールに詰め寄った。
「見ただろ。アレンは神器の聖剣で攻撃した。それで、あの程度だ」
「・・・」
「あの戦闘力、平均的な騎士よりちょっとマシなくらいだ。とてもじゃないが、神に選ばれた人間じゃない」
「何が言いたい、」
「ハッキリ言うぜ。アレンは、神に選ばれた者じゃねえ。あいつは普通の一般人だ」
「聖剣を抜けるのは、神に選ばれた者だけだ。忘れたのか」
ライカルは、手元にあった草をプチっと抜いた。
「思うんだけど、聖剣は壊れちまったんじゃねえのか」
「おい、なんて事言うんだ!神への冒涜だぞ!」
「事実を言ったまでさ」
「壊れてなんかない。現に俺達は、聖剣に呼ばれて集まったじゃないか」
「攻撃するところだよ」
「えっ?」
「攻撃する機能というか性能というか、その部分が壊れちまったんじゃねえのかって言ってんだよ」
「そんなこと、あり得るのか」
「じゃ説明しろよ!なんでアレンは神器の聖剣を使ってんのに、あんなにヘボなんだ!あいつが俺達の中で、一番強いはずじゃねえのか!」
「そっ、それは・・・」
ライカルは、口にくわえた葉っぱをペッと吐き出した。
「あれじゃ勝てねえぜ、あのブタ野郎に」
「・・・だが、もう避けては通れないぞ」
「そうだな、」
ライカルは、大きくため息をついた。
「あのブタ野郎の親分みてえな奴もいるみたいだし・・・神の使徒っても、魔族から見りゃ大したことなかったのかもよ」
「もう行こう。これ以上遅れると、ブタが暴れるぞ」
「リフィール、」
「なんだ、」
「ここで終わりかもな、俺ら」




