27.魔物襲来
ハルファ王、スタイザ、そしてアレン達は、アバディン城のバルコニーに向かう階段を駆け上がった。
「アレン、言っとくがな、俺は協力なんかしないぜ。例え王が、土下座したってな!」
「ライカル、俺は知っているよ」
「はぁ?何をだ、」
「君が、正義感のかたまりだってことをね」
「けっ、何言ってやがる。俺をバカにしてんのか」
アレンが立ち止まるを見て、ライカルも足を止めた。
「もしアバディンの兵士が魔物に蹂躙されるのを目の当りにしたら、君は誰が止めても魔物を許さないだろう」
「えっ、」
「どうだ、違うか?」
「・・・」
「君はそういう男だ。俺は君のことを、心から信用してる」
アレンは、ライカルの背中を叩いた。
「俺達の客なんだろ?」
「うっ、うっせ、」
「アレン!何してんのよ!早く来て」
「さあ、行こう!」
二人は、階段を駈けた。
ガチャ、ギィー
大きなガラス戸を開けると、そこはアバディン城下と北に広がる森を見渡せた。
「あれか、」
明るく晴れた空の中、遥か前方に羽を広げたような黒い点が見える。
「伝令兵はおるか!」
「はっ、」
王が声を出すと、すぐ一人の兵士が出て来た。
「各兵士長に伝えよ。命令するまで、決して空の魔物に手を出すなとな」
「ははっ」
黒い点は、バルコニーの気配に気付いたのか、城に向かって飛んできた。
「アレン様、王が言うように我々が目的なのでしょうか」
「おそらくな」
黒い点が大きくなるにつれ、その姿がはっきりしてきた。
「なんだ、あれは・・・豚か?」
「衛兵!」
スタイザは、後ろを振り返りながら怒鳴った。
「ははっ」
「王をすぐ退避させろ!城の地下室で、安全が確認されるまで閉じこもるのだ」
「かしこまりました!」
「スタイザ、お前は」
「王よ、わたしは騎士長です。ここで、逃げるわけにはいきません」
「しかし、」
「さっ、早く!衛兵、王をお連れするのだ!」
魔物は、すぐそこまで来た。
豚の顔に突き出た腹。ペールオレンジの丸としたボディに、巨大な漆黒のこうもりの羽。額から、2本の尖った角が生えている。
目に白い部分はなく、全て真っ黒だ。
アレン達と対峙するように、魔物はバルコニーに降り立った。
「貴様らが天上神に選ばれた者か」
「てめえが魔族か、ブタ野郎」
「俺はリゲル。ベルカント様部隊の総隊長だ」
アレン達は、感じていた。
この魔物から感じられる覇気は、人間の達人などでは到底及ばない圧倒的なものだ。そして、魔族でありながら人の言葉を話すという知的レベル。
間違いなく強者だ。
「4人か。クソ神に選ばれたのは、そこの4人だな」
「くらいやがれ!」
バチバチバチ、ドーン!
ライカルは、いきなり雷の魔法を放った。
無抵抗のリゲルは、雷撃をまともに受け全身から煙が上がったが、外見からして全くダメージを受けていない。
バチバチバチ、ドーン!
グハァ、
なんと、リゲルと同じようにライカルに雷撃が放たれた!
「ライカル!」
白い煙を上げながら全身の激痛に、思わずひざをつくライカル。
(こっ、こいつ・・・魔法が使えるのか・・・いや、違うな・・・)
サリヤは、ライカルに素早く治癒魔法をあてた。
「スタイザさん、あなたも王のところへ避難してください」
「しかし、」
「この魔物は、ハルファ王の言う通り俺達が狙いのようです」
「アバディンの治安を守る者として、わたしも参加させてください!」
「あなたは、アバディンに必要な方です!ハルファ王のお傍にいてください、お願いします」
「アレン様、」
「俺達なら大丈夫ですよ、必ず勝ちますから」
「・・・わかりました。ご武運を」
スタイザは一礼をして、階下へ続く階段に向け走った。
「アレン様、やつは魔法を使うようですね」
「違うわ、リフィール。あいつから魔力の流れを感じない。あれは、受けた魔法をそのまま術者に返す、何か特別な技よ」
「なんですと、」
「どうだ、自分の放った魔法の味わ」
「くそっ、妙なマネしやがって、」
「まさかと思うが、今のが全力じゃないだろうな」
「ほざけ、そんなわけねえだろ」
「だろうな。期待外れもいいとこだぞ」
「そうかい。じゃ、お望み通り次は全力でいくぜ!」
「待て、ライカル!」
「アレン、止めんな!」
「あいつの策だ!魔法を撃つと、そのまま跳ね返ってくるぞ!」
「わかってるんだよ!そんなことは!」
「じゃ、なぜ魔法を」
「簡単なことさ。一撃で殺っちまえばいいだけだ」
ライカルが杖を持つ左腕上げようとしたときに、アレンはそれを押さえた。
「待て!もし跳ね返ったら、お前が死ぬんだ」
「手を放せ、アレン!」
アレンは、リフィールを見た。
リフィールは、暴れるライカルを羽交い締めにして後ろに下がらせた。
「茶番は終わりか?」
「リゲルとやら、お前がここに来た目的は何だ」
前に出たアレンに、リゲルは後ろへ退いた。
「お前が神の剣を持つ者だな」
「そうだ」
リゲルは何も言わず、黒い瞳でアレンをじっと見つめている。
「どうした、お前が来た目的は何だと聞いてるんだ、答えろ」
「・・・」
「おい、なぜ黙る」
(ベルカント様、一次解析完了しました)
(よし、思念で結果を送れ)
(ははっ)
「俺が来た目的は、貴様らの実力調査だ」
「なんだと、」
「人間を超えた能力を持つ者が3人いるが、ベルカント様の敵ではないな」
(3人・・・アレン様、ライカル、そしてこの俺・・・そうか、やはり治癒能力があるとはいえ、神器の無いステラ様は数に入らないということか・・・)
「フッ、そうか・・・この俺は、数に入ってないか」
「よくわかってるじゃないか」
(なっ、なに!除かれたのはステラ様じゃないのか・・・)
アレンは、ゆっくりと背中の剣を抜いた。
伸びゆく白銀の刀身に、リゲルの鼓動が高まった。
(あれが退魔の剣か・・・確かに、ベルカント様が警戒されるのもうなづけるが・・・)
「ゆくぞ!」
剣を構えたアレンは、リゲルに向かって飛び込んだ。
その動きに反応したリゲルは、右手の手のひらを広げた。
ガキーン!
リゲルは、アレンの剣を受け止めた。
(遅い、その上軽い・・・天上神の武器を使っても、この程度か。所詮は人間、たかがしれている)
アレンは一旦後ろへ下がり、間合いを取った。
「その剣、どこから出てきた。何も持ってなかったはずだぞ」
「魔族は、地上界に通じている魔世界から、いつでも武器をとりだせるのさ」
「それは便利だな」
「!」
背後から、リフィールの短剣がリゲルの首元へせまる!
スパッ、
手ごたえはあった。
しかし、持っている短剣を見ても体液らしきものがついていない。
リゲルが首に手を当てると、深く斬られたはずの箇所が元通りつながった。
「俺の背後を取るとは、貴様、本当に人間か?」
「バケモノめ、」
「今度は、こちらから攻撃させてもらおう」
リゲルは、両足を広げ姿勢を低くした。
ドッ、ドドドドッ、
リゲルの闘気の高まりと共に、城が揺れだした!




