25.アバディン城
門番の一人が、腰につけていた角笛を吹いた。
途端に周辺から、十数名の兵士が集まった。
「この者達を捕えよ!」
スタイザの一声で、兵士はアレン達を押さえに飛びかかってきた。
「やんのか、コラ!」
「ダメだ、ライカル!抵抗するな」
「なんだと、アレン!」
「おとなしく捕まるんだ」
「バカなこと言ってんじゃねえ!なんで捕まえられなきゃいけねえんだよ!」
ドス!
グハァ、
リフィールは、ライカルの下腹にパンチをお見舞いした。
「我ら主の言う事が聞こえなかったのか」
「リッ、リフィール・・・てめぇ・・・」
ライカルは、腹を押さえてうずくまった。
4人は後ろ手に縄をかけられた。
「さあ、立て!」
「くっ、くそ、」
「馬車の中を調べろ。武器を隠しているはずだ」
「スタイザ様。馬車から剣と杖、それに斧を発見しました」
「他にないか、よく調べろ」
「もうありません」
「ふむ、そうか。では、見つけた武器は押収だ」
「はっ」
「あっ、あの・・・わたしは、」
「お前は、この馬車の御者か」
「あっ、はい」
「もう隠している武器は、無いだろうな」
「ええ、無いと思います」
「今のアバディンには、騎士団兵と王の側近しか残っていない。早々に立ち去るがいい」
「はい、わかりました」
御者は馬車に乗り、連行されるアレン達の後ろ姿をチラリと見て、入ってきた城壁へ消えた。
通りの向こうから屋根の無い荷車が、運ばれて来た。
「お前達は、これに乗ってもらおう」
馬にムチが入れられ、誰もいない城下の街をアバディン城へ向け動き出した。
石畳の町に、リズム感のあるヒヅメの音が響く。
「アレン!なんでおとなしく捕まったんだ!理由を今すぐ説明しろ。でないと、この国ごと吹っ飛ばすぞ!」
「城に連行されるということは、この国の王に会えるかもしれないだろ」
「王に会いたきゃ、ちゃんと名乗ればいいじゃねえか!俺達は神器の使い手だぞ!」
「捕虜を強奪して皇国の騎士団と騒ぎを起こした上に、反乱軍にかくまってもらったんだ。俺達が国家間でどういう扱いになっているか、想像できるか?」
「それはアレン、お前がやったことじゃねえか」
「俺達は仲間じゃないのか?」
リフィールは、バカめというあきれ顔でライカルを見ている。
「もしかして・・・俺ら、手配されてるのか?」
「その可能性は大きいんじゃないか」
「・・・マジかよ」
「その状態で、また乱闘になればどうなると思う」
それ以降、ライカルは口をきかなかった。
荷車は城門をくぐり、アバディン城へ入っていった。
縄をかけられたまま4人はスタイザの先導で城の中を歩き、とある部屋の前で止まった。スタイザは、後ろにいる衛兵に目線で合図した。
衛兵は軽く会釈をして、4人の縄をナイフで切った。さらに押収した武器全てを、リフィールに手渡した。
「おい、これはどういう事だ」
ライカルは、スタイザに詰め寄った。
「では、扉を開けます」
観音開きに開けられた扉のすぐ前に、白髭をたくわえた初老の男が立っている。
「ようこそアバディンへ、神の使徒御一行様」
初老の男とスタイザは、アレン達に深く頭を下げた。
アレンは一歩前に出る。
「あなたが、この国の王ですね」
「はい、名をハルファと申します。そちらにいるのは、孫のスタイザです」
「おい、てめえ!無視しやがって!これはどういう、痛てぇ!」
サリヤは、思いっきりライカルの足を踏んだ。
「さ、こちらへどうぞ」
そこは、王専用の応接室だった。
アレン達は、手招きされたソファに腰を落とした。朱色の本革で、高級であることは座り心地でわかった。そして、すぐに湯気の立つカップと茶菓子が、目の前の花瓶があるガラステーブルに運ばれてきた。
「神の使徒の皆様、国の体裁のためとはいえ、大変失礼を致しました。心からお詫び申し上げます。どこにルディオス皇帝の手の者が潜んでいるか、わからないものですから」
「縄をかけたご無礼、どうかお許しください」
「いえ、気にしないで下さい。やはり手配書が回っていましたか」
「はい。魔族に破壊されたクラーツ、グラソフを除く国へ送達されているようです」
「ちっ、手回しのいいこったな」
ライカルは、サリヤに踏まれた足をさすっていた。
「自己紹介がまだでしたね。こちらは神器闘杖サージュ・グロークを持つライカル、そして神器戦斧アッシュ・ノワールを持つリフィール」
ライカルは横を向いたままだが、リフィールはハルファ王に礼をした。
「その隣は、これからクラーツへ探しに行きますが、神器聖杖クレセント・カルマンの主であるステラです」
「ハルファ王様、よろしくお願いします」
「おお、聖女様。もったいないお言葉、ありがとうございます」
「そして、わたしは、」
「聖剣オセアオン・ブロンシュを持つ者、でございますな」
「はい、名をアレン、アレン・ヴァン・ハイルと申します」
「えっ、いっ、今なんと・・・」
「アレン・ヴァン・ハイルです」
「ハイル!まっ、まさか、北大陸の・・・」
「北大陸で魔王を名乗る者は、わたしの双子の兄です」
「なっ、なんですと!」
そう叫んだハルファ王は、凄い形相でソファから立ち上がった。
「では、アッ、アレン様は・・・実の兄を・・・討伐に向かわれるのですか・・・」
ワナワナと震えたハルファ王は、全身のチカラが抜けたように座り込んだ。
「おお神よ、あなたはなんと酷い選択をされたのか・・・」
「違いますよ、ハルファ王」
「えっ、」
「わたしは、兄を討伐に行くのではありません」
「では、一体・・・」
「兄を救いに行くのです」
「救う?」
「はい。兄は今でもわたしの心の中で、早く助けに来てくれと、いつも訴えています」
アレンは、にこやかに微笑んでいた。
「・・・しかし、それは・・・」
「兄を魔王から救えるのは、このわたしだけです」
後の言葉をいいかけたハルファ王は、声に出さず口を閉じた。
その時、
バァーン!
応接室の扉が、乱暴に開けられた!
「申し上げます!我が城に向かって一匹の魔物が接近しております!」




