24.新たな旅立ち
「で、あれからもう何日も経つけど、」
「・・・」
「獣一匹出てこないじゃねえか・・・」
「・・・」
「どうなってんだよ!」
「おかしいですねー、」
その道は、ボトルム国領からアバディンへ続く真っすぐな道だ。
周辺は小高い山が続き、野盗が潜むには格好の地形。
レガテノウスの隠れ里を出発したアレン一行は、32回目の夕暮れを迎えていた。
アレン達4人と、地理に詳しいレガテノウスのメンバーを加えた話し合いの結果、
ステラの国クラーツへ最も短期間で到達できる行き方は、ボトルムからアバディンへ向かい、ウベナそしてオラニアを経由する工程と結論づけた。
「ここは主街道なのに、誰一人すれ違っていないのはどうも変だな」
馬車に揺られながら、後方を見つめるリフィールがつぶやいた。
「御者のおっさんよ。この道は野盗がでるって言わなかったっけ?」
「えっ、ええ。わたしの経験では、アバディン国へ行くまでに3度はでくわすハズですが・・・」
「ちっ、」
ライカルは、大きくため息をついた。
「あーあ、魔力が溜まってきちまったぜ。ったく、野盗が出る前に俺が爆発しそうだよ」
ふてくされたライカルは、足を組んで目を閉じた。
「おおっ!」
御者の声に、ライカルは飛び起きた!
「出たか!盗賊か!」
「いえ、村です。アバディンの手前にあるエドフ村が見えてきました」
「なんだよ、村かよ」
二馬が引く馬車の前から、夕焼けのオレンジのシルエットに浮かぶ教会の十字架が見えた。
「やった!じゃ、今日は野宿しなくてもいいのね!」
「そのようだな」
馬車は、村の入り口と思われる手前で止まった。
御者は馬車を降り、馬に水を与えた。
「ん?」
「どしたの、ライカル」
「何か妙だな」
リフィールはアレンの前に立ち、背中の斧に手をかけた。
「アレン様、ちょっと変な感じがします」
見渡す限り民家はあるが、人の気配がまるでない。
「廃村か?」
「違うな」
「どうしてわかる」
「あれを見ろよ」
リフィールが指さした方向をライカルが見ると、小屋にヤギがいた。
口をもごもご動かして、何かを食べている。
ライカルは、馬車に置いた杖を手に取った。
「やっと面白くなってきたじゃねえか」
「お前が期待している事には、おそらくならんぞ」
「なんでだよ、」
アレン達は、村の中へと入っていった。
「これは、あれだわね・・・襲われたんじゃなくて、」
「逃げ出した」
「きっとそうよ」
強い風が、開けっ放しの民家の扉をバタンと閉めた。
アレン達は、何件かの家の中を覗いて見たが誰もいない。テーブルの上には、カビが生えた食べかけの食事が放置されている。
「最近いなくなったようだな」
「様子からして、あわてて出ていった感じでしょうか」
「一体何があったんだ」
「アレン様、どうしましょうか」
「もうじき夜になる。申し訳ないが、今日はどこかの空き家に泊まらせてもらおう」
「かしこまりました。我らと御者が休めるような家を探してまいります」
「頼んだ」
リフィールは軽く一礼すると、サッと消えた。
陽が沈んだばかりの群青の空に、白く一番星が輝いていた。
謎の村人喪失から、一夜が明けた。
原因がつかめないまま、アレン達は出発の用意をした。
表へ出ると、御者は既に馬車をスタンバイさせている。
「皆さん、お揃いですね」
「今日もよろしくお願いします」
「アレン様、目指すアバディンはもう目の前ですよ」
アレン達を乗せて、馬車は動き出した。
「リフィール、結局この村には誰もいなかったわね」
「そうですね、」
「何があったのかなー、」
「アバディンへ行けば、原因をつかめるかもしれませんよ」
レガテノウスを出発してから、ずっと天候には恵まれた。
今日も澄み切った青空が続く彼方に、やがて城壁が見えてきた。
「止まれ」
2人の門番が、持っている槍を交差させ馬車を止めた。
アレン達は、馬車を降りる。
「全員通行証を見せろ」
リフィール、ライカル、そして御者の3人は正規の大陸通行証を持っていたが、アレンとステラのそれは、レガテノウスが偽造したものだ。
「目的はなんだ」
「わたしは親族がアバディンに暮らしているので会いに来ました。後ろの4人は旅人で、途中で馬車に乗せたんですよ」
「旅人?」
質問した門番が、御者の後ろにいるアレン達を見た。
それぞれの武器は、事前に馬車の荷物の下に隠してある。
ステラは、耳を隠すための帽子を手で引っ張り深くかぶった。
「お前ら、本当に旅人か?」
「なんだt」
ステラが、素早くライカルの口を手で押えた。
「4人いっしょってわけじゃないのですよ。街道で偶然出会っただけです」
リフィールは手ぶりを交えて、穏やかに話した。
門番はアレン達の中に割って入り、まるで臭いをかぐように顔を近づけた。
キツイ口臭に、ステラは思わず顔をそむける。
馬車の中も、なめるように確認した。
「ふん、こんなタイミングでアバディンを訪れるとは、運の無い連中だ。ま、いいだろう、通れ」
城壁内にいる門番が、槍を垂直に持ち替えた。
「では、入らせていただきます」
御者は馬車に乗り、馬に鞭を入れた。
アレン達は、そのまま歩いて城壁を通過しようとした。
「待て」
城壁内の門番が、腕を伸ばしアレンを止めた。
「なんでしょうか」
「もう一度通行証を見せろ」
アレン達は、通行証を見せた。
「貴様とこの女の通行証だけ、やけに新しいな」
ライカルは、まずいという表情を浮かべた。
「この通行証、一度も使ったことないんじゃないか?それに、その黒髪。お前、南大陸の人間じゃないな」
外にいた門番は、ただならぬ雰囲気に駆け寄ってきた。
「どうした、何かあったか?」
「この黒髪のガキ、怪しいぞ」
「なに」
二人の門番は、アレンの顔前に槍を突き出した。
「何をもめている」
白い鎧をまとい、透き通った薄いブルーの瞳の銀髪の青年が現れた。
鎧の胸には、アバディンの国章が描かれている。
「これは、スタイザ様」
門番達は槍を納め、スタイザと呼ばれた青年に頭を下げた。
「何事だ」
「はっ、この黒髪の男ですが南大陸の者ではなく、通行証もまっさらで偽造ではないかと思われます」
「なんだと」
スタイザと呼ばれた青年は、アレン達を見るなりニヤリと笑みを浮かべた。
「衛兵を呼べ。この者達を城へ連行する」
「ははっ!」




