21.ビビカル
「うっ、」
アレンは額を手で押さえ、苦しそうな表情で崩れるように倒れた。
「主様!」
地面に吸い寄せられる手前で、リフィールはアレンを受け止める。
「どうしたんだ、回復されたんじゃないのか」
「たぶん貧血よ」
「息してんのか?」
「頭に血が回らなくて、失神状態になってるんだわ。あれだけ出血してるのに、いきなり立ち上がるからよ」
「お前の魔法でも、血は戻らないのか」
「出血量が多過ぎよ。全部は無理」
ステラは、クラスノダールを見た。
「ちょっと、そこの反乱軍の人」
「聖女様、御用でしょうか」
クラスノダールは、ステラの前で跪く。
「担架を用意してくれない?当分、目が覚めないと思うから」
「ははっ、かしこまりました」
クラスノダールは、小屋にある木材で担架を作るように部下に命じた。
「どこか安静にできる場所で、しばらく休ませないと」
「それなら、我らレガテノウスの拠点にお越しください」
「ここから、どのくらいかかるの?」
「街道を使えば、3日程で到着します」
「おい、クラス、街道を行くのか?襲撃されちまうぞ」
「オデーサ、安心しろ。今、我らには4聖人がいらっしゃるんだ。襲ってくるバカはいないさ」
「一人は気を失ってるけどな、」
「わかったわ、あなた達の拠点へ行きましょう。元々、行くつもりだったしね」
「おいっ、エルフ女!勝手に決めんな!」
「他に行くところがあるっていうの?」
「いっ、いや・・・特に無いけど」
「じゃ黙ってなさい。それに、あたしは、エルフ女じゃなくてステラっていう名前があるのよ」
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。わたしは、戦斧アッシュ・ノワールを持つ者、リフィールです」
「よろしくね、リフィールさん」
「俺は、闘杖サージュ・グロークを持つ」
「あなたは、いいわ」
「なんでだよ!最後まで言わせろ!闘杖サージュ・グロークを持つ者!ライカルだ!」
「ああ、うるさ」
ステラは、指で耳の穴をふさいだ。
「あたしは、聖女ステラよ」
「エルフ女、じゃなかった、ステラ。お前、神器の杖はどうした」
「無いわ」
「無いわって、無くしたのか?お前、やらかしたな!」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃ、どこにあんだよ」
「ママが持ってた」
「ママ?」
「ここに連れて来られた時、あたしは聖女じゃなかった」
「お前、あれか!人質ってやつか!」
「なんで楽しそうなの。地下の牢屋がどれだけ酷いとこか、なんなら今から行ってみる?」
「監禁されている時に、聖女である母が亡くなられた。ということでしたか」
「・・・そうよ」
ステラは目を伏せ、横を向いた。
「で、ステラ。お前の国はどこなんだ?」
「クラーツ」
「そか、」
ライカルは空に手を広げ、ううーっと言いながら背伸びをした。
「じゃ、行先はクラーツだ。俺達にとって、神器は命と同じくらい大切な物だからな。クラーツに行って、お前の杖を探すぜ」
「見つかるとは思えないけど、」
「心配すんな!俺様が見つけてやるさ」
「その根拠の無い自信は、どこからくるのかしら」
「ライカルの意見に賛成だが、それは我らの主が元気になってからだ」
「わあってるよ。杖を見つけたら、次は魔王をぶちのめしに行くぜ。北大陸なんだろ、クソ魔王がいるのは」
「北大陸の一番北、ハイル王国という所だ」
「・・・ん、待てよ、北へはどうやって行く?まさか、森を抜けるってんじゃないだろうな」
「あの森は、人を狂わす悪魔の森よ」
「エルフは大丈夫なのか?」
「たぶんダメだと思う。一族の誰も近づいたことないから、わからないけど」
「あの森、俺の火炎魔法でも燃えない変態森だぜ」
「なぜだ、なぜ燃えない?」
ライカルは、両手を広げた。
「さあーね、呪いかなんかじゃねえの?知らねえけど」
「あなたの爆発魔法で、吹っ飛ばせばいいんじゃない?」
「アホか、そんな事したら大陸中に幻惑粉をまき散らしてまうわ」
「海路は、戦時下の今閉じているから使えない・・・」
「おっさん、船動かせたり」
「無理だ」
「だよな」
「あっ、そう言えば、」
ステラは、顔を上げた。
「こいつ、妙な事を言ってたわ」
リフィールはステラの口の前に手のひらを出し、彼女の次の言葉を制した。
そして、クラスノダールへ近寄る。
「我らの主の名前を教えてください」
「アレンです」
リフィールは、ステラへ顔を近づけた。
「こいつではなく、アレン様と呼びましょう」
言い方は丁寧だが、顔は怒っている。
「・・・わかったわ・・・でも様は無理」
「辛いかも知れませんが、彼は間違いなく我々の主なのです」
「そうね・・・ありがと、気遣ってくれて」
ライカルは、小さくため息をつきながら言った。
「で、そのアレン様がステラに何を言ってたんだ?」
「あたしに『白いドラゴンを呼んでほしい』、って」
「白いドラゴン?」
「そのドラゴンに乗って、北大陸へ行くらしいわ」
「なんだそりゃ。ぶっ飛んだ話しだな」
「・・・ああ、それは、もしかしてソーテラのことでしょうか」
「あっ、あれ、ドラゴンに乗るって・・・マジ?」
「ソーテラって?」
「ソーテラは、天上神の従獣です。永遠に死ぬことがない天界の白い竜」
「でも、あたしにはドラゴンを呼ぶって、何の事かさっぱりわからないのよ」
「えっ?お前は、そのドラゴンを呼べないってことか?」
「呼ぶもなにも、あたしは何も知らない」
「もしかして、ステラの母が白いドラゴンの事を伝えてなかった、とか」
「それは無いわ。ママはあたしに、伝えることは全て伝えたと言ってたもん。きっと、アレンがあたしと誰かを間違えてるのよ」
「ふむ、そうですか、」
「まあ、こいつの」
リフィールは素早く反応し、背中の斧に手をかけた。
「アッ、アレン、様の意識が戻れば・・・わかるんじゃないかって、ことだよ・・・」
「そうね」
クラスノダールが、駆け足で近寄ってきた。
「担架の用意ができました」
急造された担架に、気を失ったままのアレンは乗せられた。
ステラが投げ捨てた聖剣も、アレンの横に置かれた。
車輪は無く、四隅をレガテノウスのメンバーが交代で持つことにした。
アレンの顔は、少し赤味はあるがまだ白い。
オデーサを先頭に、担架を囲むようにして反乱軍は森を出発した。
「こいつが聖剣オセアオン・ブロンシュか」
ライカルは、担架から聖剣を持ち上げた。
「たまげたな・・・見事な装飾だよ、これは」
「抜いてみたらどうだ?」
「いいのか?もし抜けたら、俺様がおっさんの主になっちゃうぜ」
「構わんさ。それが神のご意思ならな」
「今の言葉、忘れんなよ」
「但し!」
「なっ、なんだよ、」
「抜こうとして抜けなかった者には、神のタタリがあるらしいぞ」
「タッ、タタリ・・・脅しか・・・?」
「やればわかるさ。さあ、抜いてみろよ。フッフッフ」
リフィールの顔が、急に不気味になった。
ライカルは、思わず聖剣を担架に戻す。
「どうした、怖気づいたのか」
「バッ、バカなこと言うなよ・・・ビビったんじゃねえし・・・」
「じゃ、なんだ」
「おっさんの主なんかに、なりたくねえんだよ、俺様は」
(ビビってるだけじゃない・・・今度からビビカルって呼ぼうかしら)
「ん、ステラ、何見てんだよ」
(ビビカルって、なんかカワイイ!)




