20.蝶
リフィールは、身に着けていた服を引きちぎり、ライカルの腕と足を縛った。
そして、芋虫のように地面に転がす。
「おっさん!何しやがる」
「お前は危険だ。ゆえに、まずは自由を奪った」
「まずは、って何だよ」
「これから、お前が殺そうとした我が主の元へ行き、お前の処遇をお伺いする」
「なんだと!」
「もし我が主がお前を殺せと言うのなら、『喜んで』と答えよう」
「そうかい。なら、早く行った方がいいぜ」
「なぜだ、」
「死にかけてんぜ、主殿」
「なんだと!」
シュッ!
木の葉を舞散らせて、リフィールの姿は消えた。
「きっ、消えやがった・・・」
次の瞬間、リフィールはアレンの前に砂埃を上げて出現した。
「我が主!これは一体!」
「うわぁ!あなた、なに!どこから来たのよ!」
リフィールは、アレンを突き刺しているナイフを見た。
そして顔を上げ、鋭い視線をステラに向ける。
「あなたは聖女ですね」
「そっ、そうだけど・・・」
「どうして、我らの主を回復させないのですか」
「・・・あっ、あなたも呼ばれて来たのね」
「どうしてですか、」
「そっ、それは・・・こいつが・・・ママの敵だから・・・」
「おい、エルフ女!なんだ、その反応は!俺の時と全然ちげーんだけど、」
「うるさい!このバトルジャンキー!」
「いくらそのおっさんがイケメンだからって、露骨なんだよ、てめーは」
「だまれ!魔法オタク」
「お前・・・腕と足を縛ったはずだが、」
ライカルは、不敵に笑った。
「あれくらいで、この俺様をどうにか出来ると思ってんの?」
「そうか。今度主に魔法を撃つ素振りを見せたら、即斬るぞ」
「わあってるよ。さすがの俺様も、神器を持つ者には逆らわないぜ」
「ウソじゃないだろうな」
「んなことより、大丈夫か、こいつ」
リフィールは、アレンの手首を握った。
「おっさん、医者か?」
「脈が微弱で不整だ。もう、長くない」
「マジか!」
「今、笑ったか?笑ったな」
リフィールは、背中の斧に手をかけた。
「笑ってないって!真顔だよ、真顔」
「聖女よ、もう一刻の猶予もありません。今すぐ我らの主を救ってください」
リフィールは、真剣な眼差しでステラを見つめた。
「いっ、・・・イヤよ」
「だから、なんで顔赤くしてんだよ」
その時、荒い呼吸のアレンが口を開いた。
「みっ、みんな・・・」
「おっ、しゃべりやがった」
「はあはあ・・・みっ、皆は・・・僕を・・・殺したいんだろ・・・」
「ああ、そうさ。てめーの兄貴は、俺の故郷をズタボロにしやがったからな。弟のおめーも同罪だ」
「・・・」
「はあはあ・・・だったら・・・殺すがいいさ・・・」
「おい、聞いたかおっさん。主様のお墨付きをもらったぜ。これで俺がこいつを殺しても、文句はねえよな」
「気のせいだ」
「何が気のせいだ!ふざけんな。遠慮なく、いかしてもらうぜ!エルフ女、次はジャマすんじゃねえぞ」
ライカルは、杖を持つ手を上げた。
「・・・だっ、だけど・・・こっ、これだけは・・・言わせてくれ・・・」
「なんだよ、」
「もっ、もし・・・僕の・・・あっ、兄が・・・本当に魔王だとしたら・・・はあはあ・・・たっ、倒せるのは・・・聖剣が使える僕だけだ・・・」
「うっ、」
「その通りです、我が主!」
「・・・」
「そっ、その僕を・・・殺してもいいのか・・・・・・」
「・・・」
「おい、わかったらその手を降ろせ」
「ちっ、くそったれめ」
ライカルは、手を降ろした。
がはぁ、
アレンは、大量に吐血した。
ステラの足元に、アレンが吐き出した赤い血だまりができた。
リフィールは、目を閉じてアレンの脈を読み取った。
「もうダメだ。あと10数えたら死ぬ」
「おっ、おい!いきなりかよ!」
「10」
「ちょっと待て!勝手にカウントダウンすんな!」
「9」
「エルフ女!こいつマジで死ぬぞ!」
「はぁー?さっきまで殺そうとしてたくせに、急に何言ってんのよ!」
「8」
「こいつがいなけりゃ、魔王倒せないって話しなんだよ!」
「そんなこと、やってみないとわかんないじゃない!」
「7」
「6」
「もし、マジで聖剣が必要だったら、どうすんだ」
「そっ、それは・・・」
ステラの手が震えだした。
助けるのか!このまま殺すのか!苦悩の表情で、ステラはギュっと目を閉じた。
「5」
「こいつ死んでもいいんだな!魔王倒せなくなるぞ!」
その時、真っ白な蝶がどこからかヒラヒラと舞い降りて、アレンを刺しているナイフの柄に止まった。
(・・・白いアゲハ蝶・・・まさか、神の化身なの・・・)
白い蝶は、ナイフの柄の上で羽を閉じたり開いたりしている。
(・・・ママ・・・あたしは、どうすればいいの・・・ママ、教えて!)
「4」
「おっ、おい!エルフ女!」
「3」
「何とか言えよ!」
「2」
「おいって!」
「1」
「あー、もうダメだ!間に合わねえ!」
ステラの震えが止まった!と同時に、緑色の光がアレンを包み込んだ!
「0」
目を閉じていた蒼白のアレンは、再び太陽の光を見た。
ナイフに止まっていた白い蝶は、いつの間にか姿が見えなくなった。
「・・・僕は、助かったのか」
ステラは、アレンを突き刺していたナイフを抜いた。
抜くと同時に開いた傷は完全に閉じ、なにも無かったような皮膚になっている。
アレンは、起き上がった。
(これが聖女のチカラか・・・やっぱスゲーぜ)
「君が助けてくれたんだね」
「ねえ・・・これだけは約束してよ」
うつむいたステラの頬に、一筋の涙が流れた。
「必ず魔王を倒して」
アレンは、自身の足で立ち上がった。
「ああ、約束する。そのために、神は僕を選んだ。兄を止められるのは、僕だけだ」




