19.爆裂魔法
ライカルは、アレンの腹に刺さっているナイフを見た。
「なんだこいつ。もしかして、死にかけか?」
「イテハン、」
「・・・あっ、はい」
「引き上げるぞ」
「えっ?」
ルカオスは、グウェルが乗ってきた馬の手綱を持つと、ヒラリと跨った。
「ルッ、ルカオス様!クラスノダールを始末せずに戻ると王に処刑されるのでは」
「状況が変わった」
馬のいななきを聞いたクラスノダールは、我に返り思わず声を上げた。
「待て、ルカオス!逃げるのか!」
「クラス、ここは一旦お開きだ。お前も早く逃げた方がいいぞ」
「なに?」
「これが、お前との最後の言葉になるかもな。さらばだ」
ルカオスは腹を足で蹴り、馬を走らせた。
イテハンは、走り出した馬に素早く飛び乗った。
「ルカオス様、本当に逃げるんですか?」
「あいつはヤバすぎる」
「あいつって、突然森から現れた奴ですか?ルカオス様は、あのガキをご存じで?」
「いや、知らん」
「えっ、・・・じゃ、どうしてお逃げになるのですか」
「あのガキは知らんが、奴の持っている杖は知っている」
「杖?」
「あの杖は、神器だ」
「神器!神が人間に与えたという、あれですか」
「我が城の宝物庫に、レガテノウスの奴らに盗まれた聖剣があったろ」
「あっ、はい。どうせ使えないからといって放置してたやつですね」
「あれも含めて、この大陸に神器は4つしかない。そのうち2つがここに揃ったのだ。まるで、聖剣に引き寄せられるようにな」
「それで、神の杖を持つガキが突然現れたのか・・・」
「神器を持つ者は、神の従者と呼ばれるのを知っているか」
「じゃ、あの死にかけのガキも神の従者ですか」
「いや聖剣だけは違う。聖剣以外の神器は一子相伝だが、聖剣は剣が持つ者を選ぶ。選ばれた者は、いわば神の使徒だ」
「神の使徒!あのガキがね・・・あっ、でも我ら騎士団、神の使徒を殺そうとしましたけど・・・大丈夫なんですか?」
「フッ、今の時代、神に祈ったところで何も変わらんさ」
「まあ、そうですけど・・・」
「神の使徒と3人の従者、この組み合わせが揃うのも時間の問題だろ」
「揃ったらどうなるのですか?」
「さあ、どうなるか」
「もしかして、大きな戦の前触れですかね」
「わからんが、魔族の侵攻と無関係ではないだろう」
「神魔大戦か・・・しかし、あの魔法使いのガキ、グウェルとかいう槍使いを躊躇なく黒い塊にしましたね。神の従者のくせに、とんでもないガキだ」
「イテハン、」
「はっ、」
「ウワサでは5000の部隊を一瞬で壊滅させた魔導の使い手がいるらしい」
「げぇっ、それって・・・まさか、」
「間違いない、あのガキだ」
「あわわ、はっ、早く逃げましょう!」
ルカオスとイテハンは、馬上で風を切りながらカルス城へと向かった。
残ったわずかな騎士達も、馬の後を追いかけた。
戦っていたレガテノウスのメンバーは、武器を納めクラスノダールの元へ集まった。
「その耳、お前もしかして聖女か」
そう言われたステラは、ライカルを視線に捕えながら立ち上がった。
「生意気な子ね。あなた、年いくつ?」
「16だ」
「なんだ、年下じゃない。口の利き方がなってないわよ」
「アホか。エルフと人間をいっしょにすんじゃねえ!」
「きっと、あなたもこいつに呼ばれて来たんだろうけど。見ての通り、もうじき死ぬわ」
「助けないのか?聖女だろ」
「まさか・・・こいつはママの敵よ。助けるわけないじゃない」
「こいつが、お前の母親を殺ったのか?」
「違うわ。こいつのお兄さんよ」
「兄貴が?」
「こいつの兄さんは、魔王なの」
「なに!」
「こいつはハイル国の魔王の弟、アレン・ヴァン・ハイル」
「・・・いい事を教えてくれたな」
「えっ?」
ライカルは、素早く一歩後ろへ下がった。
「死ねぇー!」
バチバチバチ!
なんと、ライカルはアレン目掛けて雷撃を放った!
「わっはっは、この俺様がとどめを刺したぜ!故郷の村の敵だ。ざまあ見ろ」
「そうかしら、」
ライカルが見ると、アレンには何の変化もなく、相変わらず肩で息をしている。
「おっ、おい!ウソだろ・・・まともに雷撃をくらったはずだ」
ステラは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「って、てめえ!何かしやがったな!」
「さあね、」
(・・・考えられるとしたら、マジックシールドだ
マジックシールドは、おおよそ2通り
ひとつは、魔法の反射、
これは魔法の効力を保ったまま弾くので、弾かれた方向にある物体に魔法が作用する
もうひとつは、魔力の吸収
魔力量が吸収量を上回ると、その差分は魔法として対象に作用する
このエルフ女のマジックシールド・・・
おそらく、そのどちらでもない・・・)
「どしたの?魂抜けちゃった?」
「はっ!もっ、もしかして、」
「あっ、生きてた」
「魔法の無効化か!」
「当たりよ」
(こっ、こいつ・・・アンチマジックエリアと同じことをやったってのか・・・)
「残念だったわね」
「・・・なんで聖女が、アンチマジックを・・・」
「あなた、」
ステラは、見下すような笑みを浮かべた。
「あたしをナメてるでしょ」
(この女・・・俺がバックステップして無詠唱で放った雷撃魔法に、無詠唱で瞬時にアンチマジックを張りやがった・・・
とんでもない反射神経だ
もしかして、天才か・・・
しかも、アンチマジックエリアは魔導が扱う技だ
聖女の技じゃない
こいつ、一体何者だ・・・)
「お前は、そいつを生かしたいのか殺したいのか、どっちなんだ」
「殺したいに決まってるじゃない」
「じゃ、なんでジャマをする」
「あたしが殺すのよ、あなたじゃなくて」
「なんだと!」
「よけいな手出ししないで!」
ライカルは、ステラの目を見た。その訴えかけるような真っすぐな瞳を。
「そうか、わかったぜ」
ライカルはクルリと向きを変え、森に向かって走り出した。
そして、森に入る手前で止まる。
「ここにいるお前ら全員、吹き飛ばす!」
「なんですって!」
ライカルは杖を持った左手を、高々と青い空に向けて掲げた!
そして、集中する。
ドッ、ドドドッ、
地面から、何か突き上げるような音が聞こえた。
「えっ、なに?」
「大地よ、大地の精霊よ!この俺に味方しろ!お前達に眠る大いなるチカラを、今解き放つ時だ!」
グラ、グラ、グラ、グラ、グラ!
突然、地面が大きく揺れだした!
後ろにある小屋も激しく揺れて、今にも倒壊しそうだ。
「ちょ、ちょっと!これ地震?あなた!一体何やってんのよ!」
あまりの揺れにステラやクラスノダール、オデーサ、そしてレガテノウスのメンバーは立っていられない!
地面に手をついて、しゃがみ込んだ。
「わっはっは、俺の爆裂魔法で木っ端みじんにしてやるぜ!」
「懲りないバカね!あたしには、マジックシールドがあるのよ!」
「お前のアンチマジックは、せいぜい自分を守るくらいで、広域には展開できない。そうだろ」
(さっきの一度だけで気付くなんて・・・ただのバトルジャンキーじゃないようね・・・)
「もうひとつ教えてやろう。お前のシールドは上もしくは横からの魔法に対して有効だが、下からの攻撃は防げない。俺の爆裂魔法は地面、つまり下からなんだよ」
「うるさい!今すぐその魔法やめなさい!」
「ハッタリかましやがって。残念だったな、クックックッ」
「やっ、やめて!」
「もう遅いわ!お前ら全員死にやがれ!エクスプ」
その時!ライカルの首筋に、直線的な刃物の冷気が伝わった!
「うっ、」
「魔法を撃てば、お前の首が飛ぶぞ」
「やっぱり、来やがったか」
「わたしはリフィール。戦斧アッシュ・ノワールを持つ者だ」




