18.現れた少年
「グウェル様・・・グウェル様なのですか!」
クラスノダールが、ふらつきながら前に出てきた。
「誰だ、お前は」
「わたしです、クラスノダールです!」
「なにっ、クラスか、」
「はい!」
「いやー、そうか、そうか。時が経ちすぎて全くわからんかったわい」
グウェルもクラスノダールへ歩み寄った。そして、肩を叩いた。
「大きくなったなー、クラス。見違えたぞ」
「グウェル様と最後に会ったのは、わたしがまだ10歳の頃でしたから」
「あれからもう20年、いやそれ以上か、」
「わたしが騎士長になったときグウェル様をお探したのですが、見つかりませんでした」
「そうか。お前も騎士長に」
「はい、」
「わしは旅に出ておったからの。カルスを探しても見つからんのも当然だ」
「しかし、こんなところで先々代の騎士長にお会いできるとは、長年の夢が叶いましたよ」
グウェルは、クラスノダールの後ろにいるアレンとステラをチラリと見た。
その表情は、一気に曇った。
「クラス・・・反乱軍とは、もしかしてお前のことか」
「ルディオスの圧政に苦しむ人達を連れて、今はカルスの山奥で暮らしております」
「・・・そうか。ならば、わしとお前は敵同士ということになるな」
「グウェル様。今、民は苦しんでおります。我々は民衆をルディオスから解放したいのです。我らレガテノウスに、是非ともご参加いただけませんか」
クラスノダールは、グウェルの腕をつかみ懇願した。
「答えは、ノーだ」
「グウェル様!」
ルカオスは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「クラスよ。このカルス皇国に何人の人が住んでいるか、お前は知っとるのか」
「えっ?」
「雑に数えても、5万は下らんぞ」
「はい、・・・おそらく、それくらいは」
「では、その中でお前に同調した者は何人いた?」
「・・・正確には、把握しておりませんが、」
「仮に1割だとしても5000人だ。お前の反乱軍は何人いる?」
「家族も含めると1500程です」
「それはカルス全体の3%だ。そして、残りは97%。これが何を意味するか、わかるか?」
「たっ、確かに少数派です。ですが、それは皆ルディオスを恐れて何も言わないだけです。圧政に苦しみ、明日の生活もままならない人々に、我々が声をかければきっと立ち上がるはずです!」
「それで、お前達は立ち上がったのだろ?」
「そうです、その通りです!」
「では、後の人々はなぜ立ち上がらない?」
「気持ちはありますが、踏み出せてないだけです」
「それはつまり、立ち上がっていないのと同じ事だ。現状は厳しいが、逃げ出してもいない。人の本質を見極めるには、言動より行動。お前に教えたはずだが」
「それは・・・」
「お前達のウワサは、このカルス中に広まっている。合流しようと思えば出来るはず。それをしないという事は、今のままで良いという事だ」
「それは、違います!でしたら、このわたしがカルス全土を回って、民を説得します」
「そんなことをしても、誰も耳を貸さんだろ」
「どうしてですか!グウェル様もルディオスの圧政にお気付きなっているはず。苦しむ民の味方である、我らレガテノウスこそ正義なのです!」
「城の宝物庫から剣を盗み、捕虜を勝手に脱獄させる、それのどこが正義なのだ」
「うっ、」
「お前達のやってることは野盗と何ら変わりない。ルディオス様の政治に不満があるのなら、しかるべき道筋で意見具申すれば良い事ではないか」
「そんな事をすれば、処刑されるだけです」
「一度仕えた王が、どのように変り果てようとも、最後まで仕えるのが騎士道だ。お前は、そんな事も忘れたのか」
「そっ、それは・・・」
「わしは妻と子供を病で亡くし、毎夜酒場で暴れておった。ある日、通りがかった馬車の御者を酔った勢いで斬ってしまった。その馬車には、王が乗っていた。取り押さえられ、その場で首を斬られる寸前、皇太子であったルディオス様が馬車から降りてきて、わしにこう言われたのだ。『そんなにチカラを持て余しているなら、我が騎士団に入れ』とな」
「そのようなことが、グウェル様に」
「わしは、ルディオス様に命を救われた。その時わしは、この方に生涯を捧げると誓ったのだ」
「・・・」
「その誓い、今も忘れるものではないぞ!」
グウェルは反転し、森に向かって突進した!
「お前らー!5,6人で取り囲め!」
オデーサの叫ぶ声に、レガテノウスのメンバーは素早く反応した。
「へっ、そのデカい槍じゃ、この森の中で動かせないだろ」
「どうかな、試してみるか」
「ほざけ、ジジイが!」
取り囲んだ一人が剣を振り上げ、グウェルに斬りかかった。
グウェルが槍を回すと、木に当たり回転が途中で止まった。
「ハーハッハ、やはりな!そのデカいのじゃ無理だぜ!死にやがれ!」
レガテノウスのメンバーが、剣を振り下ろしたとき、
「ふん!」
なんと、グウェルの持っていた槍が縮んだ!
「なに!」
ブシュー!
縮んだ槍で、グウェルは斬り込んできた男の胸を突き刺した!
グウェルは槍を元の長さに戻すと、後ろにいた男の腹に槍の持ち手がめり込んだ!
男は後方に吹き飛ぶ。
そのまま斜め横に回転させ、左手にいた男の脇腹に命中。男は横に飛ばされ木に激突、地面に倒れた。
一瞬の出来事だった。
「なっ、なんて奴だ・・・」
オデーサは、グウェルのあまりの強さに言葉を失った。
取り囲んだ残りの2人は、グウェルの恐ろしさに怖気づき逃げ出した。
「所詮は野盗。この程度かの」
そう言ったグウェルの目の前の木から、草を踏む足音がした。
「まだいたのか、」
音がした方に槍を突き出した、その時!
バチバチバチ、ドーン
「ぐはぁ、」
白昼の森に、閃光が走った!
思わず膝をついたグウェルの鎧は黒く焦げ、身体からいくつもの白い煙が上がった。
「・・・だっ、誰だ、」
「俺様の雷撃を食らってまだ生きてるとは、しぶといジジイじゃねえか」
身体中に突き刺すような痛みをこらえるグウェルの視界に入った者は、まだ若い少年だった。
「きっ、貴様・・・何者だ・・・王族か」
「はっ?、何言ってんの。んなわけねーだろ」
深い青緑の杖を持つ少年は、四つん這いで顔を上げるグウェルの前に立った。
「俺はライカル。闘杖サージュ・グロークを持つ者だ」
「サッ、サージュ・グローク・・・まっ、まさか・・・神の・・・杖」
「この俺様に刃を向けたこと、あの世で後悔するんだな」
ゴオォーーー!
「があぁー」
渦を巻く赤い炎に、グウェルは飲み込まれた。
ドサッ、
「はい、一丁上がりと」
黒い炭の塊になったグウェルを踏みつけ、ライカルは呆然とするクラスノダールの横を通り、小屋の前まで歩いてきた。
突然過ぎた予想外の出来事に、そこにいる誰も動けない。
そして、荒い息で腹を押さえているアレンを見降ろした。
「てめーか、俺様を呼んだのは」




