17.森の罠
「どうしてここにいるんだ、って顔だな」
「お前はルディオスの護衛で、アバディンに行ったんじゃなかったのか!」
「貴様はオデーサ、だったか。下町の貧乏盗賊が、我らカルス皇国騎士団に口をきくんじゃない、黙ってろ」
「なんだと、この野郎!」
オデーサがルカオスに向かって走り出そうとするのを、クラスノダールは腕をつかんで止めた。
「ルカオス。お前は俺達が、ルディオスじゃなく聖女様を奪還する、と読んでたのか」
「クラス、お前も相当ボケてきたな。お前のような臆病で卑怯な奴がルディオス様の命を狙うなど、最初っからあり得ぬ事だ」
「そうか、フフフッ」
「何がおかしい」
ルカオスが合図すると、まだ森に隠れていた多数の騎士が現れた。
「ここには俺の配下で100名程連れてきた。ま、貴様ら相手にいささか多過ぎだが、我が国の捕虜を脱獄させた重罪人を今から処刑することにしよう」
「俺達が犯罪者になるまで、草にまみれながら待ってたのか」
「これで白昼堂々、罪人を処分できるってわけだ」
騎士達は、腰の剣を抜いた。
「さてクラス、最後に何か言いたい事はあるか?」
「お前は、俺が臆病者だからルディオスを狙わないと言ったな?」
「それがどうした、」
「違うね」
「なに、」
「お前は俺達がアレンと3人だけで、聖女様を奪還しにここに来ることを知っていたのさ」
「なんだと、」
クラスノダールは、指笛をピーっと吹いた。
ガサガサっと葉っぱを散らしながら、武装したレガテノウスのメンバーが現れた。騎士の周りを、グルリと取り囲んでいる。
「こっ、こいつら、いつの間に、」
「どうしたルカオス。お前のそんなあわてた顔、初めてみたぞ」
「どういうことだ・・・お前達3人だけじゃなかったのか、」
「答え合わせをしよう。レガテノウスのサクリルは、俺達を裏切りお前達に寝返った。そうだろ?」
「ちっ・・・」
「なっ、なんだって!クラス、それは本当か!」
「オデーサ、サクリルが俺達が会議している小屋に飛び込んできて、ルディオスがアバディンに行く話を持ってきただろう?」
「あっ、ああ。南大陸の代表が集まって会議するって、」
「あれはウソだ」
「ウソ?」
「大陸代表の会議なんて、最初からありゃしない。あれは、俺達を誘い出すための罠なんだよ」
「なんだって・・・」
「お前には教えてないが、カルスの情報を集めてるレガのメンバーは、実はもう一人いる」
「おい、それは初耳だぞ」
「俺直轄のメンバーで、レガの中でも俺とアルカル様以外誰も知らないことなのさ」
「そんな奴がいたのか、」
「そいつからの情報では、南大陸の会議なんてものは無くて、ルディオスは城から一歩も出てないって話しだ」
「マジかよ」
「あまりに話しが食い違い過ぎるので、俺は出発するまでの間サクリルの身辺を調査した。その結果、奴の裏切りが判明したって訳だ」
「クラス、お前はそれを知ってても、聖女様奪還を決行したってのか」
「ああ、そうだ。俺達は何も知らないと、カルスは油断してるからな。きっとそこに、勝機はあると思った」
ルカオスは、ヤレヤレという表情で両手を広げた。
「話しは終わったか?黙って聞いてりゃ、好き勝手の言い放題。お前ら野盗が何人こようと、俺達精鋭部隊に勝てるわけないだろう」
「どうかな、数では俺達レガテノウスが圧倒的に有利だが」
「戦力を数だけで決めてしまうバカな元騎士長に何を言ってもムダだな。いいだろう、戦えばわかることだ。あっ、それとひとつ忠告してやろう」
「何だ、」
「後ろの聖剣のガキ、死にそうなんだが大丈夫か」
ルカオスに言われて、驚いたクラスノダールは後ろを見た。
アレンの背中から、ナイフの先端が突き出ている。服の背中は、血を吸収して赤く染まっていた。
「アレン!」
クラスノダールが、地面に伏せていたアレンを抱き起す。
唇が渇いて白くなっていた。
その腹には、オデーサがステラに渡したナイフが刺さっている。
「アレン!大丈夫か」
「そっ、そんな大きな声ださないでください・・・ぼっ、僕は大丈夫です・・・」
「まっ、待て。血がでるから、しゃべるな」
クラスノダールは、ひきつった顔をしたステラを見た。
「ステラ様、アレンを回復させてください!」
「・・・イヤよ」
「ステラ様!」
「こいつはママの敵よ!このまま死んで当然だわ」
「ステラ様、お聞きください。アレンをステラ様に会わせるように私に命じたのは、アルカル様なのですよ」
「アルカルって、カルス神官長の、」
クラスノダールは、頷いた。
カルスの神官長アルカルといえば、聖職者の中でも大陸に名を馳せた大物だ。
代々神々に仕えるエルフ族の中で、その名を知らない者はいなかった。
「アルカル様は言いました。大陸に災い起きる時、神に選ばれし勇者も集うと。アレンは、大陸の救世主となるべく神に選ばれたのです」
「だからって、ママの敵を助けろって言うの?あたしのママへの想いはどうなるのよ!」
「ステラ様!」
クラスノダールは、大声でステラを一喝した。
「ここでアレンを失うことは、大陸の未来を失うことです」
「・・・大陸の未来・・・なによ、それ!ママがいない未来なんて、あたしには無いのと同じよ!」
その時、後ろの森を注意深く見ていたルカオスは、厳しい表情でイテハンに命じた。
「イテハン、」
「はっ」
「弓を貸せ」
「ははっ」
イテハンは背中の弓と矢を、ルカオスに渡した。
ルカオスは晴れた空に向けて矢を放ち、そして叫んだ!
「騎士達よ!神の剣のガキは死にかけてる、今がチャンスだ!あの罪人どもを殲滅するのだ!全員、突撃ー!」
「おおおぉーっ!」
静寂を破るルカオスの掛け声で、騎士団が一斉に小屋めがけて走り込んできた!
「お前らー、止めろ!アレンと聖女様に指一本触れさすんじゃねぇーぞ!」
「うおおぉー!」
オデーサの掛け声で、レガテノウスのメンバーは騎士団の背後から斬りつけた!
ガキーン!、ガキ、ガキ、ガキーン!
ヒューン、ヒューン!
あちこちで剣と剣が火花を散らし、そこら中に弓が飛ぶ乱戦になった!
森は雑草や石ころ、枯れ枝など足場が悪く、重い鎧をつけた騎士の動きは鈍い。
身軽で数で優っているレガテノウスは、2人で一人を狙うという作戦も相まって優位になった。
「ルカオス様、我らの兵士が劣勢です!」
「そのようだな、」
「一旦引きますか、」
「バカめ、そんなことをしたらルディオス様に処刑されるぞ」
「で、では、どうすれば・・・」
「フフッ、イテハン。お前には聞こえないのか?」
「えっ?」
ダダッ、ダダッ、ダダッ、ダダッ、
遠くから、力強い馬の蹄の音が聞こえてきた。
それは、凄い速さ近づいてくる。
「あっ、あの姿は、」
ヒヒーン、
黒く大きな馬は、ルカオスの前で雄たけびをあげながら二本足立ちになった。
「参上しましたぞ、騎士長」
「グウェル殿、まさか本当にお呼びすることになるとは。このルカオス、面目ありません」
「ずっと空を見上げて、首が痛くなりましたわい」
馬に乗っていた白髪の大きな男は、馬から降りた。
手には、見たことがない巨大な槍を持っている。
「この老いぼれが、またカルスのために働けるとは嬉しい限り。どれ、雑魚どもを蹴散らすとするかの」
ズガーン!
グウェルは、凄い音を出して槍を地面に突き立てた!
その音に、戦っていた騎士とレガテノウスは思わず手が止まった。
「さあ、死にたい奴はかかってこい」




