16.ナイフ
「どうだ、外れそうか?」
「ちっ、この鍵は今までのやつとは違うな」
オデーサは、少女の牢屋に掛けられた鍵の開錠に手間取っていた。
「しかも、ご丁寧に2個もつけやがって。クソがっ」
少女の指が、ある部分を指した。
「そうか!オデーサ、これだ」
「んっ?」
クラスノダールが見ているのは、牢屋扉の開閉部の金具だった。
「あっ、なるほど!鍵を開けるより、こいつを壊した方が話しが早いってわけか!」
オデーサは腰の短剣を取り、柄の部分で蝶つがいを叩いた。
錆びまくっていたそれは、3回目の打撃で外れて石の床に落ちた。
ついに、少女の牢屋の扉は開けられた。
屈みながらゆっくりと牢屋を出る少女を、クラスノダールとオデーサは跪いて出迎えた。
「聖女様、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「・・・ステラよ」
「ステラ様、どうか我らと共にごいっしょ下さい」
「あなた達は何者?」
「我らはレガテノウス。カルス皇国の反乱軍です」
「そう。いいわ、行きましょう」
「ありがとうございます」
(カルスの反乱軍か・・・どうせ、ケガ人の手当にあたしを使うんでしょうけど・・・)
オデーサは新しい松明に火をつけ、クラスノダールに渡した。
「では、参りましょう」
ステラを加えた4人は、緊急避難通路と思われる道を戻った。
(でも、あいつの言ってた白いドラゴンって一体何なの・・・あたしと誰かを間違えてる?)
最後尾を歩いているステラは、アレンの背中にある剣を見る。
(あの剣・・・あたしを呼んでいるのは、あの剣か・・・こいつが聖剣を抜いた?・・・ちょっと、信じられないけど・・・ま、関係ないか)
「ねえ、」
クラスノダールは、歩くを止めた。
「ステラ様、どうかされましたか?」
「さっきのナイフ、貸してくれない?髪がジャマで、前が見えないから」
「かしこまりました」
クラスノダールが目で合図すると、オデーサは短剣をステラに渡した。
「どうぞ、」
「ありがと」
「切り終わるまで、お待ちしています」
「気にしないで、歩きながら切れるから」
「そうですか。それでは、行きます」
クラスノダール一行は、また歩き出した。
そして見えてきた石の階段を登り、4人は山小屋に到着。
まだ陽は高く、小屋の中は明るい。
「あなた、名前は?」
声をかけられたアレンは、後ろを振り向いた。
「アレンです」
「王族でしょ?フルネームで言ってよ」
「アレン・ヴァン・ハイルですが、」
「そう、」
ステラの口角が、少し上がった気がした。
「何かあります?」
「背中の剣、とても美しいわね。ちょっと見せてもらっても?」
「構わないですよ」
アレンは胸の前のバックルを外し、聖剣オセアオンを背中から降ろしてステラに渡した。
ステラは両手で受け取る。
「綺麗な装飾ね、」
「オセアオン・ブロンシュという剣らしいですよ」
「へぇー、そうなんだ・・・」
「でも、なぜか僕にしか使えな」
ガシャーン!
ステラは掛け声と共に、聖剣を小屋の窓へ思いっきり投げつけた!
聖剣はガラスを突き破って、外へ落ちた。
「なっ、何をするんですか!」
そして、ステラは両目を閉じる。
「ぐわぁー、」
途端にクラスノダールとオデーサは、激しい頭痛に襲われ頭をかかえて苦しみだした!
立てなくなって、小屋の床で転げまわっている。
「これは一体・・・きっ、君か?・・・何をしたんだ!」
ステラは、アレンに向けて持っていたナイフを突き出した!
「おっ、おい!」
不気味な笑顔を浮かべている。
「どういうことだ!」
「お前が神に選ばれたなんてこと、あたしには関係ない。お前はママを殺した魔王の弟よ」
ステラは、ジリジリとアレンに近づいた。
「あたしを誰と勘違いしてるか知らないけど、あたしはお前を殺す」
ステラの殺気に、思わず後ずさりするアレン。
「やっ、やめてくれ。僕は君と争いたくない」
「あら、そう。でも、これはママの敵討ちなの」
「君は僕に必要な人なんだ!頼む、止めてくれ」
「そうやって命乞いしたクラーツの人々を皆殺にしたのよね、」
アレンの背中が、小屋の扉にあたった。
「かけがえのない人だった・・・あたしの大切なママに・・・」
扉に背中を当てているアレンに、ステラは距離をつめる。
「死んで、詫びなさい!」
ステラは、ナイフを振り下ろした!
間一髪でナイフを避けたが、後ろに下がった勢いで扉が開き、アレンは小屋の外へ転げ落ちた。
ナイフを突き出しながら、アレンを追いかけるステラ。
「転がりながら出てきたな」
「あれは、神の剣のガキと聖女ですね。クラスは小屋の中ですか、」
「見ろよ。あのガキ、剣を持ってないぞ」
「ああ、ほんとですね。小屋の中で休憩でもしてたんですかねー、」
「さっきガラスが割れる音がしたろ。それに聖女の手にナイフだ。あいつら、なにか揉めてんじゃねえのか?」
「お取込み中のご様子ですか」
「よし、神の剣を持ってない今がチャンスだ。イテハン、弓隊にあのガキを狙わせろ。必ず殺せ」
「ここからだと、聖女にも当たってしまいますが?」
「構うこたねえよ。ルディオス様も、あのエルフの女を殺すつもりだったんだ。流れ矢が当たってしまったって、報告すればいいだけの事だ」
「はっ、かしこまりました」
イテハンと呼ばれた男は、チラリと後ろを見て右手を上げた。そして、アレンを指さす。
ギリギリギリ、
微かに聞こえた音に、アレンは後ろの森を見た。
ドックン、ドックン
「うっ」
急な動悸に、思わず胸を押さえる。
(この胸の痛みは・・・あの時と同じ・・・)
「どうしたの、体の具合でも悪い?それとも、命乞いのお芝居かしら」
イテハンの腕が振り下ろされた!
ガサッ、ガサッ、ガサッ!
森の茂みから、弓を持った兵士が一斉に現れた!
「危ない!」
アレンはステラに飛びつき、抱きかかえながら地面に転がった!
ヒューン、ドカッ、ドカッ、ドカッ、ドカッ、ドカッ、
無数の矢が小屋に突き刺さった!
何本かは開いていた扉をすり抜けて、小屋の中に入った!
ステラの集中が途切れたことで、クラスノダールとオデーサの頭痛が消えた。
「クラス、立てるか!」
「ああ、たぶんな」
「外から矢が飛んできたぞ!」
「床に伏せてなきゃ、当たってたな」
二人は足元をフラつかせて、小屋の外に出た。
「やっと出てきたか、クラス元騎士長殿。待ちくたびれたぜ」
「お前か、ルカオス、」




