表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
justicia  作者: 清水京太郎
第一部
15/29

15.灰色の聖女

 「ここを通れば、地下牢に行けるはずだ」

 

 「こんな小屋の床が、抜け道になっているとはね」

 

 「城にいる者でも、王と側近しか知らない秘密の道だよ」

 

 「もしかして、緊急避難通路ですか?」

 

 「まあ、そんなとこだろう」

 

アレン達はレガテノウスの拠点から人目を避け、遠回りしながらカルス城外近辺に来ていた。

そこは森になっており、一軒の小屋があった。

扉は鍵が掛けられていたが、オデーサが器用に開錠。

中には資材のような石や材木が置いてあり、テーブル下の木の床が隠し通路の入り口になっていた。

扉を開けると、砂埃が舞った。

3人が下を覗くと、石の階段が見える。


 「オデーサ、火を頼む」

 

 「クラス、お前は感じているか?」

 

 「ああ、感じてるよ」

 

 「城の外とはいえ、兵士の数が少な過ぎる。ここに来るまでに、3人のカルス兵しかでくわしてないぞ。まるで、ここから地下牢に入って下さいと言われてるようだな」

 

 「罠だと言いたいのか、」

 

 「イヤな予感がしないか?」

 

 「作戦会議で大胆な意見を言ってた割には、やけに繊細じゃないか」

 

 「アレン、君はどう思う?」

 

オデーサから意見を求められたアレンは、少し考えた。


 「進みましょう。このまま帰ってしまうことが、逆に敵の狙いのような気がしてきました」

 

 「決まりだな、」

 

両手を広げたクラスノダールは、オデーサに向けてウインクした。

オデーサはため息をつきながらも、クラスノダールが持つ松明に火を付けた。


 「じゃ、入るぞ」

 

3人は、入口から続く階段を降りて行った。

階段の先は、細かい砂利の狭い道が続く。

掘った周りの壁土から水がしみだしているせいか、あちこちに水たまりがあった。


 「なんだ、この悪い通路は。こりゃ、マジで緊急用だな」

 

 「とりあえず作ったって感じだ。おそらく使うことは考えてないと思う」

 

 「なるほど、」

 

ピチャ、ピチャという音を響かせて、松明の明かりを頼りに進んでいく。

赤茶色の鉄格子が見えた。

ここも鍵が掛かっている。


 「この先が、地下牢か?」

 

 「そうだ」

 

オデーサが開錠すると、クラスノダールは鉄格子を開けた。

キーという錆びた音がする。

鉄格子の先は、足元が石畳に変わった。

そして空気が、すえた臭いと腐った悪臭が混ざった耐え難い臭いに変わる。


 「なっ、なんだ、このひでぇ臭いは・・・」

 

通路の左右に鉄格子の部屋があるが、生きた人間がいる気配はない。

黒い塊のような物体と、その周りをうごめく虫とねずみが見える。


 「クラス、本当にここにいるのか?」

 

その時、クラスノダールは腕を伸ばし2人の動きを止めた。


 「あそこだ」

 

クラスノダールは、一番奥にある暗い鉄格子を一点にみつめた。

腕で鼻を押さえているオデーサは松明を受け取り、クラスノダールの目線の先にある鉄格子にゆっくり近づいた。


松明をかざすと、老婆のような真っ白い長い髪の少女が、壁にもたれながら膝をかかえて座っていた。

後から来たクラスノダールは、錆びて腐食している鉄格子に顔を近づけた。


 「あなたが、クラーツの聖女様ですね」

 

 「・・・」

 

アレンは、少女を見て驚いた。白髪の毛の間から、とがった耳の先端が見えたからだ。

そう、彼女は特徴的な耳をもつエルフだった。

やせて細い身体に着ている服はシミだらけの灰色で、ところどころ焦げたように黒くなっている。靴は履いておらず、裸足だった。

膝をそろえた足に顔をうずめたまま、彼女はクラスノダールの問いに答えなかった。


 「あっ、あの・・・あなたが聖女の娘ですか・・・僕は、北大陸のハイルという」

 

 「死んだのね」

 

 「えっ?」

 

 「あたしのママ、やっぱり死んだのね」

 

クラスノダールが、鉄格子の前で跪いた。

それを見たオデーサは、松明を持ちながら慌てて跪く。


 「聖女様、クラーツ国は魔人軍によって滅ぼされました」

 

 「・・・ずっと前に、ローシェルの声が頭の中で聞こえたわ」

 

 「癒しの神ローシェルは何と?」

 

 「このあたしが、聖女に選ばれたって」

 

少女はふらつきながら立ち上がり、顔を上げた。

頬まで伸びた前髪が、彼女の両目を隠していた。

アレンは、鉄格子を掴んだ。


 「君が聖女なら、白いドラゴン呼ぶことができるんだろ?」

 

 「・・・」

 

 「僕は北大陸へ行かないとダメなんだ。君の呼ぶドラゴンに、僕を乗せてくれないか」

 

少女は、ゆっくりと鉄格子に近づいた。


 「何の話し?」

 

 「えっ、」

 

 「白いドラゴンって、なに?」

 

 「きっ、君は呼べないのか?・・・白いドラゴンを」

 

 「ドラゴンなんて知らない。なんで、あたしがドラゴンを呼ぶの?」

 

 「そっ、そんな、・・・嘘だろ?」

 

 「知らないって、言ってるの。聞こえてない?」

 

彼女の言葉を聞いたアレンは、鉄格子を持つ両手からチカラが抜けた。

ズルズルと落ちていき、汚れた石の床に両手をついた。


 「・・・僕は・・・行かなきゃいけないんだ・・・兄の待つハイルに・・・」

 

 「ハイル・・・ハイルって、魔王がいる北大陸のハイル王国のこと?」

 

アレンの両手は、床に落ちている泥をグッと握った。


 「・・・僕の兄は人間だ・・・魔王なんかじゃない・・・」

 

 「兄って、・・・あなた、魔王の弟なの?」

 

 ガシャーン!

 

 「魔王なんかじゃないって言ってるだろ!」

 

アレンは鉄格子を思いきり掴み、少女をにらんだ。


 「聖女様、アレンは魔王の弟ではありますが、この聖剣を抜いた神に選ばれし者でもあります」


 (聖剣を抜いた・・・)


 「どうか聖女様のご寛大なお心で、アレンのことを許してはいただけないでしょうか」


クラスノダールは、少女に頭を下げた。


 「・・・神に選ばれたのなら、仕方ないわね」


クラスノダールは、安心したように顔を上げた。


 「今、思い出したわ、」

 

少女は、両手で前髪を分けた。

現れたその鋭い視線で、アレンの顔をにらみ返した。

 

 「白いドラゴンの呼び方」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ