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justicia  作者: 清水京太郎
第一部
11/29

11.魔王の兄

 「・・・我が兄は、やはり魔王ですか」

 

 「おそらく、ですじゃ」

 

 「おそらく?」

 

アルカルは、木の椅子に座った。


 「誰も魔王の姿を見た者がいないのですじゃ」


 「誰も見ていない?では、なぜ魔王だとおっしゃるのですか?」

 

 「クラス、すまんがわしにもお茶を一杯くれんか」

 

 「あっ!気付きませんでした、申し訳ございません」

 

クラスノダールは、あわてて湯を取りにいった。

開けた扉から、冷たい空気が入ってくる。

虫の声しか聞こえない、真夜中。


 「なぜお前さんの兄上が魔王と呼ばれているか、」

 

 「なぜですか」

 

 「それは魔人自身が、『人間の王に召喚された』と言ったからですじゃ」

 

 「まっ、魔人!」

 

アレンは、思わず叫んだ。


 「やはり、心当たりがおありのようじゃの」

 

 (・・・あの本は魔族が召喚されるものだったはず・・・まさか、上位の魔人が召喚されたというのか・・・)

 

 「それはそうと、お前さん、いつ、どうやってハイル王国からここまで来たんじゃ。前からいたようには見えんが、」

 

 「・・・ここに来たのは、今日です」

 

 「今日?それまでは、どこに?その姿でうろつけば、カルスの兵士に捕えられたはずじゃが、」

 

 「兄の転送魔法で、3年後のここに飛ばされました」

 

 「ほー、なるほど。時空を超える闇魔法ですかな、興味深い」

 

 「空間移動もそうですが、兄が持っていた本は、魔族を召喚するものでした。それがまさか、魔人を召喚するなんて・・・」

 

 「あり得ない話しではありませんぞ。闇魔法は術者によって、時に本には書かれていない結果がでるそうですじゃ」

 

 「そうなんですか・・・(だから時間をも超えたのか)」

 

 「しかし、他国の侵略に対抗するものとはいえ、取り返しのつかん事をしましたの」

 

 「・・・兄がしなければ、私がやってました」

 

 「ほぅ、」

 

 「あれは、きっとマランドの謀略だ。奴らは、ハイルを騙して戦争を仕掛けたに違ない!」

 

アレンは眉間にシワを寄せ、にぎりこぶしに力を込めた。

 

 「国家間の争いとは、ある意味騙しあいですじゃ。こう言ってはなんですが、少々甘かったのでは、ないですかな」

 

 ・・・そう、そうだ。

 兄と理想を語り合っているだけで国を守れるなど、おとぎ話にもならない。

 現実とは非情なのだ。

 目の前で、ハイルの民や兵士が殺されたのも、

 兄が自分を犠牲にして、魔王と呼ばれてしまったことも、

 全て現実・・・


  その現実と向き合う覚悟が、自分にあったのだろうか・・・

 

クラスノダールが戻った。

さっそくお茶を入れ、アルカルの前に出した。

白い湯気が立ち上がるカップを、アルカルは持ち上げゆっくりと飲んだ。


 「アルカル様。わたしは、兄の元へ行かねばなりません」

 

アルカルが受け皿に置いたカップは、カチャッという音を立てた。

 

 「兄を救えるのは、自分だけです」

 

 「救う?魔王をですかな?」


 「私が知る兄は人間です!決して、魔王などでは・・・」

 

じゃまな椅子をテーブルに押し込み、クラスノダールがアレンの前に立った。


 「それは、クラーツやグラソフの惨状を見てから言うべきだな」


 「クラーツやグラソフ?」


 「南大陸の北の端、ちょうど北大陸との境目にある国だ。その目で、しっかりと見てほしい。二つの国がどうなったのかをな」

 

 「お前さんの兄は3人の魔人を召喚しましたですじゃ。そのうちの一人が、クラーツ国を壊滅させた。グラソフ国も、おそらくもうダメじゃろう」

 

 「・・・そんな・・・兄は他国を滅ぼすようなことは決してしません!」

 

 「お前さんがどう言おうが、」

 

アルカルは、また鋭い眼差しでアレンを見た。


 「ここでは、お前さんの兄は敵じゃよ」

 

とても信じられなかった。

あの兄が、そんな事をするはずがない。

だが、アルカルやクラスノダールが嘘を言ってるとは思えなかった。


 「だとしても、きっと・・・きっと何か事情があるはずです・・・僕は、直接会ってそれを確かめたい」

 

 「事情?どんな事情だよ。アレン、お前の兄が召喚した魔人が南大陸の国を滅ぼした。これは、紛れもない事実だ」

 

 「だったら、尚のこと僕は兄に会う!」


アルカルに一礼すると、アレンは扉に向かった歩いた。


 「おい、まさかこんな真夜中に出発するつもりじゃないだろうな。しかも、丸腰じゃないか」

 

 「わずかな時間も無駄に出来ないんだ」

 

 「待たれよ、」

 

アルカルの声に、アレンは振り向いた。


 「北大陸へ行くことは、現状不可能ですじゃ」

 

 「えっ?」

 

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