11.魔王の兄
「・・・我が兄は、やはり魔王ですか」
「おそらく、ですじゃ」
「おそらく?」
アルカルは、木の椅子に座った。
「誰も魔王の姿を見た者がいないのですじゃ」
「誰も見ていない?では、なぜ魔王だとおっしゃるのですか?」
「クラス、すまんがわしにもお茶を一杯くれんか」
「あっ!気付きませんでした、申し訳ございません」
クラスノダールは、あわてて湯を取りにいった。
開けた扉から、冷たい空気が入ってくる。
虫の声しか聞こえない、真夜中。
「なぜお前さんの兄上が魔王と呼ばれているか、」
「なぜですか」
「それは魔人自身が、『人間の王に召喚された』と言ったからですじゃ」
「まっ、魔人!」
アレンは、思わず叫んだ。
「やはり、心当たりがおありのようじゃの」
(・・・あの本は魔族が召喚されるものだったはず・・・まさか、上位の魔人が召喚されたというのか・・・)
「それはそうと、お前さん、いつ、どうやってハイル王国からここまで来たんじゃ。前からいたようには見えんが、」
「・・・ここに来たのは、今日です」
「今日?それまでは、どこに?その姿でうろつけば、カルスの兵士に捕えられたはずじゃが、」
「兄の転送魔法で、3年後のここに飛ばされました」
「ほー、なるほど。時空を超える闇魔法ですかな、興味深い」
「空間移動もそうですが、兄が持っていた本は、魔族を召喚するものでした。それがまさか、魔人を召喚するなんて・・・」
「あり得ない話しではありませんぞ。闇魔法は術者によって、時に本には書かれていない結果がでるそうですじゃ」
「そうなんですか・・・(だから時間をも超えたのか)」
「しかし、他国の侵略に対抗するものとはいえ、取り返しのつかん事をしましたの」
「・・・兄がしなければ、私がやってました」
「ほぅ、」
「あれは、きっとマランドの謀略だ。奴らは、ハイルを騙して戦争を仕掛けたに違ない!」
アレンは眉間にシワを寄せ、にぎりこぶしに力を込めた。
「国家間の争いとは、ある意味騙しあいですじゃ。こう言ってはなんですが、少々甘かったのでは、ないですかな」
・・・そう、そうだ。
兄と理想を語り合っているだけで国を守れるなど、おとぎ話にもならない。
現実とは非情なのだ。
目の前で、ハイルの民や兵士が殺されたのも、
兄が自分を犠牲にして、魔王と呼ばれてしまったことも、
全て現実・・・
その現実と向き合う覚悟が、自分にあったのだろうか・・・
クラスノダールが戻った。
さっそくお茶を入れ、アルカルの前に出した。
白い湯気が立ち上がるカップを、アルカルは持ち上げゆっくりと飲んだ。
「アルカル様。わたしは、兄の元へ行かねばなりません」
アルカルが受け皿に置いたカップは、カチャッという音を立てた。
「兄を救えるのは、自分だけです」
「救う?魔王をですかな?」
「私が知る兄は人間です!決して、魔王などでは・・・」
じゃまな椅子をテーブルに押し込み、クラスノダールがアレンの前に立った。
「それは、クラーツやグラソフの惨状を見てから言うべきだな」
「クラーツやグラソフ?」
「南大陸の北の端、ちょうど北大陸との境目にある国だ。その目で、しっかりと見てほしい。二つの国がどうなったのかをな」
「お前さんの兄は3人の魔人を召喚しましたですじゃ。そのうちの一人が、クラーツ国を壊滅させた。グラソフ国も、おそらくもうダメじゃろう」
「・・・そんな・・・兄は他国を滅ぼすようなことは決してしません!」
「お前さんがどう言おうが、」
アルカルは、また鋭い眼差しでアレンを見た。
「ここでは、お前さんの兄は敵じゃよ」
とても信じられなかった。
あの兄が、そんな事をするはずがない。
だが、アルカルやクラスノダールが嘘を言ってるとは思えなかった。
「だとしても、きっと・・・きっと何か事情があるはずです・・・僕は、直接会ってそれを確かめたい」
「事情?どんな事情だよ。アレン、お前の兄が召喚した魔人が南大陸の国を滅ぼした。これは、紛れもない事実だ」
「だったら、尚のこと僕は兄に会う!」
アルカルに一礼すると、アレンは扉に向かった歩いた。
「おい、まさかこんな真夜中に出発するつもりじゃないだろうな。しかも、丸腰じゃないか」
「わずかな時間も無駄に出来ないんだ」
「待たれよ、」
アルカルの声に、アレンは振り向いた。
「北大陸へ行くことは、現状不可能ですじゃ」
「えっ?」




