10.神の剣
クラスノダールは、アレンの前で跪いた。
「その剣は、神が選んだ者しか使えない剣だ」
南の集落を鎮火させたレガテノウスのメンバーは、家の修復やらで武装を解除した。あの謎の光で、しばらくオルト団は襲って来ないだろうという判断だ。
アレンは、レガテノウスの医療メンバーに治療を受けた後、クラスノダールと共にバラック小屋にいた。
旗が飾ってあった壁は破壊されたような穴が開いていて、そこから夜空にきらめく星が見えた。
「腕は大丈夫か?」
「ああ、血も止まったし、おかげで助かったよ」
「そうか。しばらくすれば、動かすことは出来そうだな」
小屋の中は、ロウソクの数が少なく薄暗い。
クラスノダールが入れた紅茶の甘酸っぱい香りが、小屋に広がった。
「あまり物資が無くてな。家族を守ってくれた恩人に、気の利いたおもてなしも出来ない。許してほしい」
「気にしないでくれ」
「そう言ってくれると助かる」
「言っておくが、僕は何もしていないぞ。雷撃でオルト団の一人を焦がしただけだ。後は、あの光で勝手に奴らが退散しただけさ」
「君が俺達の家族を救ったことに変わりはない。その剣でな」
テーブルの上には、アレンが手にした剣が置かれていた。
「この剣は一体何なんだ。誰かが僕に投げてくれたと思うけど・・・あ、言っておくが盗んだとかじゃないぞ」
「そんなことは言ってないよ。それに、誰かが剣を投げたんじゃない」
「じゃ、どうしてあそこに落ちてたんだ?」
「剣が勝手に飛んでいったのさ」
「はっ?」
クラスノダールは、破壊された壁を指さした。
「えっ・・・まさか・・・冗談、だよな?」
「君の波動に剣が反応した。君は、剣に選ばれたんだ。そして、剣が君を助けた」
「それ、本気で言ってるのか?」
「もちろんだ」
「・・・」
「じゃ、本題に入ろうか」
クラスノダールは、不敵な笑みを浮かべた。
心の整理が追いついていないアレンだが、今は彼の言葉を聞くしかない。
「君が手にしたその剣、それはこの大陸にある神器のひとつだ」
「神器?」
「どうやら、この話しは北側では伝わってないらしいな」
「初めて聞くよ。神器とは一体何だ?」
「神が、我々人間に与えた武器だ」
「神が人に武器を?」
「神器はこの世界に4つある。ひとつは、聖剣オセアオン・ブロンシュ。もうひとつは、闘杖サージュ・グローク。更にもうひとつは、戦斧アッシュ・ノワール。最後のひとつは、聖杖クレセント・カルマンだ」
「じゃ、この剣は、」
「聖剣オセアオン・ブロンシュだ。そして、オセアオン・ブロンシュは4つの神器の中でも、ロードと呼ばれている」
「ロード・・・王ってことか?」
クラスノダールは、頷いた。
「これはカルス皇国の宝物殿にある古代書に書かれていることで、知っている者は少ないはず」
「えっ、じゃ、あなたはカルス側の人間だったのか?」
「カルス皇国聖騎士団のトップだった」
「騎士長か・・・」
「ここで言うのもなんだが、カルスは圧政だった。特に今のルディオスになってからは、更に酷くなってしまったんだよ」
「それで反乱軍を組織したのか」
「というより、ルディオスに不満を持った者が自然と集まったのさ。俺が騎士団の一番上だったので、皆俺を頼ってきた、ってとこだろう」
「なるほど、」
アレンは出されたお茶を飲み干し、カップをテーブルに置いた。
「痛て、」
「まだ痛むのか」
「痛み止めは塗ってもらっているけど、動かすと痛みが走る」
「矢が貫通して、腕に穴が開いているからな。出血もそこそこあったんじゃないのか?今日はもう寝たらどうだ」
「気になることが多過ぎて、とてもじゃないが寝れないよ」
「まあ、そうだな」
クラスノダールは立ち上がり、お茶のおかわりをアレンのカップに注いだ。
お茶の注がれる音を聞いたアレンは、兄とよくお茶を飲みながら語り合った日々を思い出した。
ーアレン、ハイルは何も無い国だ。だからこそ、いろんなことが出来るんだよ。楽しいだろ?ー
これが兄の口癖だった。
「前向きだな、」
「えっ、俺がか?」
「あっ、いや、なんでもない。ひとり言だ」
今日という日は終わろうとしているが、ほんの少し前までハイルにいた自分が、今はすごく遠い存在のように感じた。
ここは見知らぬ異国の土地、カルス皇国・・・
アレンは、ため息をついた。
「どうした、やっぱり疲れたんじゃないのか?」
「それより、オルト団の奴らが言ってた『呪いの剣」っていうのは、この剣のことだよな」
「ああ、そうだ」
「聖剣なのに、なぜ呪いの剣なんだ?」
「その剣を抜こうとした者は、これまで3人いたが、全員その翌日に死んだからさ」
「えっ、死んだ?」
「まあ、はっきり言って偶然なのかもしれない。だが、その剣はさっきも言った通り神器だ。普通の剣じゃない、特別なんだ」
「あの光もそうなのか?」
「その神の剣は、別名『光の剣』とも呼ばれている」
(なるほど・・・だから皆逃げたのか・・・)
アレンは、テーブルに置かれた聖剣オセアオン・ブロンシュを持ち上げた。
「確かに剣帯の装飾は国宝級だが、いたって普通の剣に見えるけど・・・」
「それは、間違いなく使う者を選ぶ神の剣だよ」
「本当にそうか?」
「だから、俺の妻は君の前にひれ伏したのさ」
アレンは立ち上がり、オセアオン・ブロンシュをクラスノダールの前に突き出した。
「抜いてみてよ」
「おっ、おいおい、冗談はよせよ。俺に死ねと言うのか?」
「これは神の剣だろ?呪いなんて、あるわけないじゃないか」
「呪いじゃなくて、神の怒りかもしれないだろ?」
「怒り・・・まあ、確かにそうかもだけど・・・」
「頼むから、剣を置いてくれ」
アレンは少し不満げに剣をテーブルに置き、椅子に座った。
「僕が神に選ばれる理由なんてどこにも無いのに・・・やっぱり、誰でも抜けるんじゃないのか?」
「オルト団が逃げまわる姿を見たんだろ?それは、まるで悪魔でも現れたって感じじゃないか」
(言われてみれば、確かにそんな顔してたっけ・・・)
「誰も抜けなかったし、怖くて抜けなかった。そんな伝説の剣を、君がいとも簡単に抜いたんだ。そりゃ、逃げるさ」
アレンは、テーブルの剣を抜いてみた。
ロックが解除されるカシャンという音がした。
音を聞いたクラスノダールはビクッっとなり、思わず椅子から立ち上がって逃げ出しそうな体制になった。
「もしかしたら、僕は呪いで死ぬかもね」
「けっ、剣を抜いたんだ・・・死ぬはずがないよ・・・きっと」
アレンは、ゆっくりと剣を引き上げた。
シャーという金属音と共に、白銀の美しい鏡の刀身にアレンの顔が映った。
アレンは途中で止め、また剣を鞘に戻した。
「かっ、かなり長い年月が過ぎていると思うが、見たろ今の刀身・・・傷ひとつ無い、鏡のような刀身を」
「ついさっき作られたような美しさだな」
「とてもじゃないが、これは人間が作れる代物じゃない。わかるだろ?」
「・・・そうだな」
「きっ、君はその剣を使うことができる・・・光らせることも・・・もういい加減、認めたらどうだ?」
「・・・」
その時、バラック小屋の扉がギィーという音を出した。
「神の剣を抜いた者が現れたそうじゃな、」
「あっ、アルカル様」
アルカルと呼ばれた老人は、開けたバラック小屋の扉を閉めた。
「そなたが、その剣を」
「あっ、はい」
「アルカルと申します。元カルス皇国の神官長ですじゃ」
アレンは、思わず椅子から立ち上がり頭を下げた。
「これは大変失礼しました。わたしは、北大陸ハイル王国のアレン・ヴァン・ハイルと申します」
「ほう、ハイル国の王太子殿ですかな?」
「いえ、わたしには王位継承権はありません。王太子は兄のアクター・ヴァン・ハイルです」
アルカルは、急に鋭い視線をアレンに向けた。
「ほー・・・つまり、魔王の弟君ですか」




