第9話 ギルドと学び舎
「それにしても、アスヒモス領地もロッサ村も、この辺りでは聞いたことが無いんじゃが……。
それはギルドで確認してみるしかないな。
じゃが、髪色は気になるなら変えた方が良いかもしれんな。
この村にはそれほど余所者は来んが、ギルドがあるから冒険者は来る。
この季節は少ないが、風の季節にしか獲れん魚が川に出るから、その時期は他所からも多くの冒険者や商人が来る。その時に悪いモンが混ざっていないとは言えん。
色変えは魔道具じゃったら魔力さえあれば良いが、うちの村には置いてないな。
魔法でも出来るかもしれんが、どの属性か分からんな。
ふむ、どうするかの。」
あのゲス領主の街は この近くではないということか。
そしたらすぐに如何こうすることはないかもしれないね。しかもあのゲス領主は茶髪の私たち親子しか知らない筈だから、髪色で探しに来るのは 別口だと思う。
「お父さん、魔法は何が得意なのかは どうやって調べるの?」
「あぁ、それはな。おぉ、それも調べるのに学び舎に行こうか。
あそこだったら地図もあるから、その領地も調べることが出来るじゃろ。」
おぉ、そのギルドは中々色んな事が出来る場所なんだね。
あれかな、役所的な立ち位置になるのかな?
◆◇◆◇◆◇
昼食をしっかり食べてから ギルドにお出かけだ。
またお父さんに縦抱っこされた状態で外に出る。
午前中にはいなかった子供達が 道で走っているのも見える。
「まって~」
「遅いぞ~、早く来いよ~!」
獣人の子供たちが追いかけっこをしているけど、兄弟だろうか。追いかけている弟は甚兵衛スタイルのあの服を着ており、兄は普通の洋服を着ている。
「もうっ!早いにゃ~~~~~」
えぇっ!?
中々追いつけない弟くんが 突然黒い猫に変身してしまった。
そのまま兄を追いかけて行ったものの、残されたこの甚兵衛と靴はどうするのか。
何事もなく通り過ぎようとする お父さんに聞けば「子供たちの服や靴には名前が書いてあるからな。本人か両親が見つけたら持って帰るから 気にしなくていい。」だそうです。
よく見れば 其処此処で 大人たちが服を拾い、買い物籠にひょいッと入れている。
子供達が午後の決まった時間以降にしか外に出ないのも、これが理由だと聞いて納得。
種族が違えばルールも違うんだね。
大きな木の広場を越え、お父さんの家とは一番遠い 反対側の門の近くに 大きな建物があった。
「ここが冒険者ギルドじゃ。
大きな街なんかじゃと、商業ギルドや傭兵ギルドなんてのもあるんじゃが、ここでは冒険者ギルドしかないから、ギルドで通っておるんじゃ。」
おぉ、これが冒険者ギルド!
酒飲みに絡まれたり、新人が雑魚の先輩キャラに絡まれるアレですね?
ちなみに縦抱っこをされている私は、絡まれた場合 お父さんが反撃すると思うんですが、やっぱり独り立ちしてからのイベントでしょうか?
ドキドキしながら入ると、思っていたよりずっと明るい場所だった。
正面にはカウンターが並んでいて、お姉さんだけでなく、お兄さんも受付担当をしている。
中央に階段があり、右と左に受付があるのは混雑防止なのか、受付内容が違うのだろうか。
右側にはテーブルと椅子が何セットか置いてあり、座ってお喋りしている人たちもいれば、何か書いている人もいる。
ラノベによくある酒を飲んでクダを巻いているという人はいない。というか酒場は併設されていない。
左の壁には依頼表だろう。ポスターの様に沢山の紙が貼りつけられており、雑然とした感じ。ピッチリ整理して貼られていれば役所っぽいけど、こういうなんかいい加減な感じが冒険者ギルドっぽくてワクワクする。
「ヴィオ 楽しそうじゃの。」
「うんっ、とっても楽しい!ワクワクするね。
お父さん、ここはお食事屋さんが無いんだね。
それに、カウンターは階段で分かれてるでしょう?あれはなんで?
混雑するから? それとも種類が違う?
気になることがいっぱいだよ!」
お父さんが 落ちないように支えてくれているのをいいことに、身体を伸ばしてアチコチ見回す。嬉しそうなお父さんも 止めることなくしっかり支えてくれている。
「わははは、珍しいものを見たな。今日 噂になっていた女児がその子か。」
階段を下りて来たのは、金髪を靡かせたガチムチイケメン。
シャツの胸元もピッチピチで、開襟部分からは フワッサと金髪の胸毛がこんにちわしている。イケメンの胸毛はヨキ!
胸筋だけでシャツを破けたりしますか?
七つの傷があったりしませんか?
「おぉ、ギルマス久しぶりじゃな。娘のヴィオじゃ。
用意が整ったら 学び舎に通わせようと思ってな。今日は見学を兼ねて来たんじゃ。」
胸筋と胸毛に想いを馳せていたら 会話が進んでた。
ギルマスとな?
確かに強そうだ。何の獣人さんなんだろうね。
「おぉ、そうか。
ヴィオ、アルクの元気を取り戻してくれたのはヴィオなんだな。
新しい学び舎の仲間よ、我らは歓迎するぞ。」
ワシワシと撫でるその手は、大雑把に見えて とても優しい。
ザックスと名乗ってくれたギルマスはライオンの獣人さんらしい。
ガチムチフワッサも納得です。
「ギルマス、ヴィオの魔力を測りたいのと、ちと町の名前を調べたいんじゃが、地図を見せてもらってもいいか?」
「おぉ、じゃあついでに冒険者登録もしておけ。登録しておけば手伝いの薬草拾いやらでもポイントは稼げるし、住民登録になるからな。
アルクが知らない町って事は、この国ではないって事か?
まぁ、他の国は大して情報はないが、資料室のミミーに声をかけてくれ。」
片手をフリフリしながらギルマスさんは階段を上って行った。
挨拶の為に来てくれたんだろうか。いい人すぎる。