第75話 常設依頼
サブマスとギルマスが戻ってきて、ギルド宛に カルタの注文が届くようになり、カルタ好景気に沸いているサマニア村。
臨時でギルドの依頼にも常設依頼として
〈カルタ板作り 45枚2セット/100ラリ 1ポイント〉
〈カルタ絵付け 45枚2セット/200ラリ 1ポイント〉
などというのが出ている始末。
時間制限はないけれど、セットで持ってきてねというモノであり、授業でやっているのはポイントにもお金にもならないのは訓練の一環だからだ。
ただ、学び舎ではない自宅でやったものをギルドに持ち込めば、それはポイントとお金になる。
ぶっちゃけ薬草採取の方がポイントもお金も稼げるんだけど、カルタ人気が高まって、他の村でも作られるようになれば ここまでのカルタ好景気は終わるだろう。
という事で、村が稼げるときに稼げるだけ稼ごう!と思って常設依頼を受けることにした。
「ええんか?ポイントは中々溜まらんようになるが……」
「うん、いいの。だってもう80ポイント越えてるし、このままじゃ銅ランクになって学び舎卒業しちゃうでしょ?」
「……もうそんなに貯まっておったか。じゃあ しばらくは木魔法の練習を兼ねてカルタの板作りにするか」
そう、カイフク草とマリキ草を他の子供たちが採集することが増えたので、私はそれ以外の薬草を採集するようになり、本数が少なめでも ポイントを稼げるようになったから、週に4回、5ポイントずつ稼いでいたのだ。
お陰で 現在85ポイントも溜まっており、あと15ポイントで銅ランクになってしまうのだ。
体術は習っているし、アスレチックのお陰で筋力と体力も随分ついたけど、まだ武器での戦いは練習していないのだ。
まだまだ学び舎を卒業するわけにはいかないのだ。
という事で、採集のかわりに 自宅裏の森で毎日伐採魔法を使って 枝を切り、蔦魔法で枝を下ろし、【エアカッター】で角材を作り、研磨までして板を作るという作業を行う。
ロン君たちの為に マリキ草とナミダ草、カイフク草とハライタ草を混ぜていたけど、彼らは村長の森に行くようになったから、こちらの不要な草類は処分する。
何時か何かの役に立つかもしれないから数本ずつは マジックバッグに保管しておいたけどね。
伐採魔法を使うのには 樹の幹に手を当てて、自分の魔力を薄ーく伸ばして樹の中を見るんだけど、初めてやった時に レントゲン写真で中の骨を見ている気分になったんだよね。
「お父さん、この魔法を使う時に樹の中身が見えるでしょう? これって人でも出来たら身体の悪いところとか見えてお医者さんが便利だね」
レントゲンでは 骨とか、洋服のボタンとか金具とかで見えないなんてこともあったけど、この魔法は中身が見えるから より正確だと思うんだよね。
そう思って聞いてみたら ポカンとしたお父さんが固まってる。
「考えたこともなかったが、多分無理じゃないか?
人が他人の魔力を流されるのは 反発があるじゃろう、樹木も急激に魔力を多量に流すと見えなくなる。魔力過多と同じような症状じゃろうが、そこから腐ることもあるからなぁ……」
腐るのは怖いね……
「ん? 魔力過多になるような流し方は危険ってことだよね?
回復魔法って 他人の魔力を流しているけど大丈夫じゃない?だったら薄くしたら駄目なのかな?」
「……確かにそうじゃな。サブマスに聞いてみるか」
簡単に試すこともできないし。という事でサブマス案件になりました。
気になることをそのままにしておけない性格でごめんなさい!
週末にサブマスに聞いてみたところ、サブマスもやってみたことはないという事で、まずは魔獣でそれが出来るか試してみますという答えが返ってきた。
「まずは討伐した魔獣で試してみて、成功したら生きている魔獣で試してみます。
それで成功するようなら人での実験がしたいですが……。ギルマスなら丈夫ですから何とかなりそうですね」
どうやって確認するのかを聞いてみたら、あまり安心できない感じの答えが返ってきたけど、無茶はしないと信じたい。
「まあ、魔法に関しては 多少の無茶をする人じゃが、多分大丈夫じゃろ……。多分」
いやいや、お父さん、そこは言い切ってもらいたいです。
だけど、他人に流すのが危険でも、自分で自分に流すのはどうだろうかと考えてしまった私。
懲りないなぁと思いながらも、気になったら確認してみたいじゃない?
流石にお父さんに相談したら心配するのは分かってるから、寝る前の魔力操作をしながら試してみる。
今は二人とも色んな方法で魔力操作の訓練をしている。
葉っぱを使う日もあれば、土人形を使う時もあるし、結界鎧ではなく 身体強化を全身にかけられるかを試したりもする。
今日は身体強化をすると言って横になった。
まずはお腹の下にある魔力の塊というか 魔力が出てくるところに集中する。
温かい お湯のようなものが揺蕩っている。
それをググっと持ち上げて、心臓のほうへ。血液と同じように全身に流れるように魔力の流れを感じる。
体温とは違った温かさが 全身を駆け巡るのを感じながら それを『診たい』と思う。
樹の中は目で見えている訳ではない。
実際に樹の皮が捲れている訳でもなく、頭の中にイメージが伝達される感じなのだ。
なので、自分の身体を見下ろす必要はなく、横たわった状態でも自分の身体を上からのぞいているように感じる。幽体離脱しているみたいだね。
そうしてゆっくり見ていれば、だんだん透けて見えてくる自分の身体。
おお、人体の不思議展とか 人体模型の本とかを見た記憶があるから平気だけど、中々スリラーだね。
眠っているヴァイオレットが今の自分であることはわかるけど こうして眺めていると本当に人形のように整っている。現世の両親、可愛く産んでくれてありがとうございます!
そのヴァイオレットを象る表皮がなくなり、筋層がなくなり、臓器がよく見える。
この状態だと模型図と変わらないね。プロの医療関係者ではなかっただろうから、全ての臓器が正しいかは不明だけど、見たことのある絵と全く違うとも思えないから一緒だと思う。
臓器ではなく 魔力の流れだけに意識を集中すれば、なんとなくお腹の下あたりと思っていた場所、大腸とか小腸とかその辺り全体を覆うように ぼんやりと光輝いていている袋のような塊がある。その袋から発せられる光が全身をヒュンヒュン走り回っているのも見える。
思ったよりハイスピードで魔力は動いていたようだ。いや、血液と同じくらいの速さで。と想像したから血流がそれだけ速いという事か。
しばらく眺めて 納得した私。これを医者が安全に確実に出来るようになれば 悪いところはちゃんと見つけることが出来そうだね。それを取り除けるかは不明だけど。
そんな風に考えた後に、また思いついてしまった。
(これで 自分自身の鑑定って出来ないのかな?)
だって、水晶やギルドカードでは属性と魔力量は分かるんだよね?
ギルドで薬草の鑑定もしてるよね?ってことは、全身が見えているこの状態で私の、所謂ステータス的なのも見えるんじゃね?って。
じっと上から自分を見つめる。
だけど勿論スケスケになる以外は分からない。生の筋肉を見たからといって その筋肉量もパワーもわかりゃしない。
ムム~、鑑定ってどうやってやってるんだろうか。
段々考えるのが億劫になってきているから 魔力を使い過ぎているのだろうことがわかる。
はじめての魔法を使っているから仕方がないね。
鑑定はまた後日試してみることにしよう。ああ、ねむい。
お読みいただきありがとうございます。
”いいね” や ☆ タップを頂けるのも非常に励みになっております♪