第71話 先生との別れ
ドゥーア先生が来て4週間、相変わらず木と土の日の学び舎終わりで採集をし、火と水の日には 資料室で1時間程の勉強をしてから 帰宅、お昼寝をしてから 森のアスレチックでの訓練をする、という生活をしている。
超合金スーツ……ではなくて、結界鎧を作れるようになったあの日から、寝るとき以外は 首から下の鎧をまとう癖をつけている。
やっぱりはじめに作る時よりも、纏う時の魔力消費は少なくなっていて、纏っている間の消費に関してはよく分からない。
ステータスバーでもあれば 1時間にどれくらい減るとかが見えるから良いんだけどね。
新しい魔法を使う時は 従来あるものだとしても 自分の中の魔力が沢山動いているのが分かる。
あの土魔法を初めて使って倒れたのと同じ感じ。
2回目は 使い方が分かっている分、1回目よりもグンと魔力が減ることはないし、3回目以降は減ってる?って思うくらいに分からない。
ギルマス曰くの 【ファイアバレット】のような魔力を沢山込めれば弾数が増える魔法なら別だと思うんだけど、私が使う魔法は そういうのじゃないからかな?
ドゥーア先生が来た翌週末、サブマスがカルタと 子供用採集ハサミを商業ギルドに登録しに行ってくれた。保護者としてお父さんが登録に行くとなると 私が一人でお留守番することになるので、ギルドの代表と村の代表としてサブマスとハロルド村長の二人で行ったのだ。
プレーサマ辺境伯の領都までは遠いけど、サマニア村からギルドの馬車で1日くらいのところにある メリテントという大きな街があって、そこには商業ギルドもあるから 登録はそこでやったらしい。
どうやらその街には大きな教会もあって、この村だけじゃなくて 周辺の村の子供達も、村に教会がない子供たちはメリテントに集まって洗礼式を受けるんだって。
水晶ピカーのイベント会場って事だね。
教会には近づきたくないけど、大きな街には興味がある。冒険者ランクが上がったら是非行ってみたいものだ。
商標登録に関してはアルクお父さんのサインがあることですんなり登録が出来たらしい。商業ギルドで遊び方の説明もしてきたらしく、ギルドの偉い人が食いついていたらしいので、売れるでしょうとニコニコ報告されたよ。
商標登録された商品が販売されたら、売り上げの1~10%が登録者に支払われるらしいんだけど、その割合は登録者が希望できるというので1%にしてもらったよ。
サブマス達曰く 冒険者ギルドでは確実に1セットずつ売れるから、割合を多くしていると 登録者が金持ちになると睨んで調べに来る人が出てもおかしくないと言われたからね。
ギルドに登録した時点で、20セットのカルタも持って行ったらしく、プレーサマ辺境伯領地に出現する魔獣のカルタは即完売したらしい。
同じものを作られる可能性はあるけれど、権利をギルドから買わずに作れば罰則があるみたいだし、カルタを購入してくれた商会から、月に1度行商の人がカルタを買いに来てくれるらしいので、村では現在カルタ好景気となっている。
魔術の授業では 相変わらず板作りをしているし、魔獣の絵は大人たちが書くようになったけれど、カルタの文字は 私たちの文字の授業の教材として 何度も書くようになり、生徒たちの字も大分上達した。
ハチ君とレン君は、絵札の1文字だけを担当していたんだけど、来週からは読み札にも挑戦することになったくらいだ。
風の日のレン君、ハチ君たちとの採集は、兄弟だけでも大丈夫となり、5人で村長の家のすぐ裏の 小さめの森に行っているらしい。
タキさんか リリウムさんか ランダさんが保護者役として参加しているらしいので、レン君は毎週楽しみにしているみたいだ。
ドゥーア先生が来て2週間目の週末は、村の子供達が参加しての第二回収穫体験だったんだけど、2回目だからか 付き添いの大人たちの準備も完璧で、前回楽しかったという子供達も 今日までに家の周りの草むしりなどで練習をしてきたらしく、非常に良い感じで採集が出来たようだ。
どうやら大人たちも 薬草採取について勉強し直したらしく、採り方、保存の仕方、纏め方など、お陰でギルド職員の皆さんが「随分楽になった~。面倒だけど教えて良かった~」と言っていた。
ただ、やっぱり子供の人数が多くて、時々目が届かない場所があり いつの間にか子供が別のエリアに行っているなんてこともあったようだ。
「2週に1度の開催は変えませんが、参加年齢を偶数、奇数で分けることにしました。
次は2歳、4歳、6歳以上ですね。
6歳以上は学び舎にも来てますから、年齢制限はしませんが、5歳以下は思った以上に行動範囲が広かったですからね。その次は3歳、5歳……はヴィオさんたちの年齢か。うん、でも1歳は来ませんし、5歳でレンやハチが来てたのは兄がいたからですからね。そうしておきましょう。」
まあ、少しずつ調整して 良い感じで開催できるようになればいいよね。
やっぱり無しにしよう!ってならないなら、子供達も楽しめるだろうし、いいんじゃないでしょうか。
◆◇◆◇◆◇
「ああ ヴィオ嬢、私はもうすぐ王都に帰らなければなりません。こんなにも面白……いえ、教え甲斐のある生徒がいるのに、あんなつまらない場所に戻らなければいけないなんて辛すぎます」
「いや、先生 そろそろ帰って頂かないと、流石に領主の騎士団に連行されるのは嫌でしょう?」
ギルマスに宥められながらも「帰りたくない」をこの1週間繰り返しているドゥーア先生。
そういえばこの先生ってば、今も現役で魔導学園の先生をしているらしい。
特別講師っていうから、今は時々臨時で教鞭を取ってるのかと思ってたのに、現役バリバリだったんだって。
夏休みじゃないけど、長期連休はあるらしくて、ここに来た当初はそれだったらしい。
2週間の夏休みに、今まで全く使わなかった有給的な休暇を1週間前倒しにしてぶんどってココに来たらしい。
だけど、すでに夏休みが終わって2週間。
先週から ギルド宛に『いつ帰ってくるのですか』という内容のお手紙が毎日届いているらしくて、ギルマスが早く帰るように伝えているのだ。
ドゥーア先生は魔法の事になるとちょっと変態だけど、この国では一流の魔法使いなのだ。魔法の呪文を考えるというのも、普通の魔法使いが簡単にできることではなかったらしい。
というか、考えた呪文が 誰でも行使できるようにすると言うのが凄いらしい。
まあ、そんなすごい人だからこそ、学校がこの村を管轄しているプレーサマ辺境伯に泣きつくのも仕方がない。
辺境伯から これ以上滞在を伸ばすのであれば、騎士団の早馬で 王都までお送りしますという、ある意味連行するぞ。という連絡が来ているらしいのだ。
「ドゥーア先生、先生が帰ってくれないと 水生成魔法はいつまでも発表されないのではないですか?
これから本格的に暑くなってくる季節なんですよね?
国によっては 早く知りたいのではないでしょうか?
また次の長い休みに来て下さい。先生のお勉強はとっても楽しいので」
お父さんとギルマスからお願いされたので、ドゥーア先生におねだりポーズで言ってみた。
魔法が好きなだけで、人の美醜には興味がないだろうと思ったんだけど、小さい子供のおねだりは全種族に効果があるのだろうか。「うっ」と胸を抑えて悩み始めた。
「そうですね。ヴィオ嬢は既に青銅ランクの半分までポイントを貯めたのでしょう?
今年中には銅ランクになっているでしょう。であれば 是非来年のこの時期に王都に来て下さい。
あなたは学園に興味がないと言いましたが、長期休暇で学生がいない学園を案内してあげましょう。そうしたら通いたくなる可能性もありますからね。
今回は一般的によく使う魔法しかお伝えする時間がありませんでしたが、学園に来ていただければ聖属性や闇属性に関しても詳しい資料をお見せしましょう。どうですか?」
おお!学校は全然興味なくなってたけど、建物とかは興味ある。
火、木、土、風、水 時間が足りなくてこの5つを基本として教えてもらってたから、闇と聖はお勉強できなかったんだよね。
後は氷ね!水魔法の上位という氷はまだチャレンジしていないから それも教えてもらいたい!
ということで 通わなくていいんだったら行ってみたい!
お父さんを見つめたら、苦笑しつつも「まあええじゃろう」と許可をくれたよ。
「それではその時には私も……」
「おい、ギルドはどうすんだよ」
「そんなもの、あなた一人でもどうにでもなるでしょう?王都までの距離でヴィオさんに何かあったらどうするのです?」
サブマスが同行しようと言う前にギルマスのストップがかかる。
一番近い大きな街でも馬車で1時間かかる事を思えば、王都なんて一番遠い 海に近いらしいから 相当時間がかかるんだろう。
「火の初めの月は 毎年ギルド会議じゃなかったかの」
お父さんの呟きに、サブマスの目がキラーンと輝く。
「そうですよ!忘れてましたが 来週から 移動じゃないですか。先生丁度良かった。一緒に王都まで行きましょうね。
あなたは いつも通りこの時期に出発して、私は少し先に行くという事で良いではないですか?」
「お父さん、ギルド会議ってなあに?」
「ん~、リズモーニ王国にある冒険者ギルドの代表が集まって 会議をするんじゃが、何をしているのかは儂も知らんな」
お父さんもあまり知らないらしい。まあ、ギルド員だからといっても職員でなければ会議とか知らないよね?
「あ~、わかったわかった。来年はそうすりゃいいさ。
ギルド会議は 各地での魔獣の出現情報の共有とか、消化されてねえ困った依頼の相談とか、今年だったら学び舎で良い勉強になりそうなことの情報とかだな」
「いい勉強?」
「ええ、カルタにトランプはこの会議でも紹介しますよ。あとは子供たちの採集体験ですね。
あのハサミやカルタも会議に持ち込みますからね。また売れますよ~」
おお、それは凄いね。
ギルド会議はリズモーニ王国の各ギルドが集まった後、まとめた内容を 王都のギルド長が、メネクセス王国の冒険者ギルド本部での会議で発表するらしい。
例えば大規模なスタンピードなんかが起きたときには会議なんて待ってられないから ギルド同士を繋ぐ小さな転移陣で赤い封筒に入れた緊急情報で各地に連絡をするらしいけど、そうじゃないものはこうした会議で周知されるんだって。
冒険者ギルド、なんかすごいね。
そんなアレコレはあったものの、辺境伯の騎士団が迎えに来ることがないまま 先生はギルマスとサブマスと一緒に王都に帰って行った。
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