第68話 水生成魔法の完成
本日は同時投稿しております
こちらは2/2作目です。
「ヴィオさん、起きてください!出来ましたよ!」
ユサユサされて目を開ければ、サブマスとドゥーア先生のドアップでした。
起き抜けに大人のドアップとか、ちょっと怖いので止めていただきたい。
「待て待て、ヴィオ 腹減っただろ? 買ってきたからまずは食え」
ガチャリと扉が開いたと思えば、ギルマスさんが 色々食事を持って入ってきた。
どうやら屋台でご飯を買ってきてくれたらしい。
「ギルマスさんありがとう。もうお昼のお時間なの?そんなに寝ちゃってた?」
「1時間くらいかの。早い昼寝をしたと思えばええ」
そこまで長く寝ていた訳ではなさそうでちょっと安心した。
お茶はサブマスが淹れてくれて、皆で屋台飯を頂く。
若干二名がソワソワしているからね、ゆっくり食べる感じでもないけど、私が食べるのに時間がかかっちゃうから、大人たちもゆっくりになってしまったようだ。
食べ終わったらサブマスが 黒板に手をバーンと当てて見せてくれた。
〈我が手に集まりし魔力は霧となり〉=『集めた魔力を掌で小粒にする』
〈この場に拡がり〉=『空気中に魔力を噴霧する』
〈魔素より水を集め出し一反の塊となる〉=『自身の魔力が馴染んだ空気中の水分を布状に集める』
〈我が前に集まりし塊は圧し潰し水を作りたまえ〉=『集めた成分を絞り出す』
『魔力水から自分の魔力を抜く』
4つの事象に呪文らしき言葉が書かれているけど、最後の魔力を抜くだけは白紙だ。
「サブマスさん、魔力を抜くのは呪文ないの?」
「ああ、これは 水が出来上がった後に必要な事ですから、生成魔法には加えませんでした。長くなりますしね」
「魔力感知が出来る者であれば、これに関しては呪文がなくとも抜くことが出来るだろうし、魔力を抜くだけの呪文は既にあるから、作る必要がないのだよ」
魔獣のお肉を普通に食べているけど、ランクの高すぎる魔獣の場合、残存魔力が多すぎて 魔力過多になることがあるらしい。
素材としては良いけど、食肉として使う時には ある程度の魔力を抜いてから調理するらしく、冒険者なんかはそのまま野営でBBQをすることもあるから 必須の魔法らしい。
呪文が完成したことで、ギルマスが水生成魔法をやってみることになった。
他の人たちは既に作れるから、実験にならないんだって。
「あ~、じゃあやるぞ?
〈我が手に集まりし魔力は霧となり この場に拡がり 魔素より水を集め出し一反の塊となる 我が前に集まりし塊は圧し潰し水を作りたまえ〉」
樽の上で手をかざしたギルマスが呪文を唱えれば、周囲の魔素が桶の上に集まって固まるのが分かる。これはどんなことが起きているのか分かっているギルマスだからなのか、本当にこの魔法を一切知らない人が唱えてもできるのか、実験してもらいたいところだね。
ボチャボチャボチャ と水の塊が樽に溜まっていく。
ギルマスは溜まった水の上に手をかざして クルクルと空中を撫でるように動かす。
水の中の魔力が竜巻を描くようにギルマスの手に集まって行くのが分かる。ああ、自分の魔力を抜いたんだね。
「ギルマスさんは 魔力を抜くの 無詠唱なんだね」
「ん?おお、そうだな。
これくらいは 長く冒険者してる奴らは完全無詠唱で出来るな」
やっぱり慣れなんだね。
呪文として覚えるなら〈彼のものの中に溢れる魔力よ この手に集まれ【ドロー】〉らしい。
ドローって引き分けとかの意味じゃないの?
まあ、たまたまファイアボールとかが英語で翻訳できるからといって、魔法が全部そうという訳でもないか。昔の勇者様がつけた名前かもしれないしね。
◆◇◆◇◆◇
呪文が出来た後は 水生成魔法を 学び舎の先生たちに使わせる実験をした。
結果としては 見たことがない状態でやっても作ることは出来た。
ただ、魔力がとても沢山必要だったし、コップ一杯分くらいの水しか作れなかった。
「飲めるようになる水を作る為の魔法を作りました。まずは呪文だけをお伝えしますから それで行使できるか確認したいのでやってみてください」
と、碌な説明もないまま呪文を伝えられた先生は可哀想だと思う。
全員が同じような結果になった後、サブマスが手本を見せ、実際に魔力を抜くところまでやった水を飲ませた後にもう一度呪文を唱えたら、アリアナ先生以外が出来るようになった。
「どうして何もない場所から水がでるの?だって魔力が集まっただけじゃない。え?魔力が集まれば水が出るの?どういうこと?」
「魔導学園ではこういう生徒が多いんだよ、だから新しい発見がなかなかできないんだ。アリアナ嬢、君は相変わらず机上の理論ありきで動くんだな」
「ドゥーア先生!」
感覚派のエデル先生、魔法のプロが言うならできるんだろう、と素直に行使したポール先生とエリア先生、魔法は納得しないと使えないアリアナ先生という事らしい。
アリアナ先生は自問自答し始め、ドゥーア先生が声をかけたことで やっと正気を取り戻した。
納得できないアリアナ先生に、ドゥーア先生に手伝ってもらいながら物質の状態変化について説明する。
「まずはこのお水の温度が低くなったら凍るのはわかりますか?」
「ええ、私は魔法で作ることは出来ないけれど、冬には水が凍っているのは見るわ」
先生たちが出したままの水があるので、それを凍らせてほしいとドゥーア先生にお願いした。
「ええ、良いでしょう。
〈この手のうちにある水よ その身を震わせ 冷気と共に 全てを凍らせよ【アイス】〉」
水桶に手を翳した状態で呪文を唱えたら、桶の中心から水の色が白っぽくなり、パキパキと凍っていくのが分かる。氷って分子が固まった状態って聞いたことがあるんだけど、呪文は“身を震わせ”なの?
それは寒くて震えるにかけてる?
イメージしやすくするための呪文だからいいのかな。
完全に凍った水を見て、これを湯煎するには桶が駄目になることに気付く。
「ドゥーア先生ごめんなさい、この後 凍ったのを温めて沸騰させるのが目的だったのを忘れてました。火にかけても大丈夫な容器に入れ直してから、もう一度凍らせてもらってもいいですか?」
「ん? あはは、もちろんだ。じゃあこれは元に戻していいのかな?」
高名な魔法使いというわりに、結構簡単にお願いを聞いてくれるドゥーア先生。
有名な魔法使いとか「私の魔法は価値が高いのだぞよ!」とか言いそうなのに、あの魔法学校の校長ばりに 穏やかで色々試してくれる先生だ。
ギルマスが 鉄っぽい素材の小さい鍋を持ってきてくれたので、それに水を入れて、また凍らせてもらう。
「ドゥーア先生ありがとうございます。
えっと、この状態は凍っているので固体です。
これを火にかけると少しずつ溶けてきます。完全に融けなれば水に戻ります。これが液体です」
「ええ、そうね。それはわかるわ」
凍った鍋にドゥーア先生が【ファイア】と唱えれば、たちまち鍋の中身が水に戻った。着火のバーンでもなかったけど、ふんわりした火の玉が鍋全体を包んだと思ったらすぐに消えたんだよね。
「ドゥーア先生、今度はこの水をグツグツしたいので、下からお鍋を温める感じでお願いします」
「ああ、分かったよ」
今度も同じように【ファイア】を唱えたんだけど、さっきと違って鍋底にコンロの火が集まったような感じで小さな炎がチロチロしている。
スゴイ! 凄いけど、今はそっちに感動してる場合じゃない事も分かってるから 後で聞こう!
火の数が多いから直ぐに鍋の水が泡立ち、ブクブク グツグツと吹き始め、湯気が上がり始める。
「先程の液体を更に温めると、こうして沸騰します。この時に出てきている湯気は水が空気に解けている気体という状態です」
鍋の上に水の入ったコップを翳し、湯気が当たったコップの底に水の雫がつき始める。
「そして気体の温度が下がれば、こうしてまた液体に戻るのです。ドゥーア先生ありがとうございます。もう大丈夫です」
先生が火を消してくれて、お父さんがコップを受け取ってくれる。
「自然の中では、これが当り前に行われていて、空に上がった気体が お空の上で冷やされて 雨となって地に降り注ぎます。
だから普段は目に見えていなくても、空気の中には小さな水が沢山いるのです。
水生成魔法は 何もないところからお水を作るのではなく、空気の中のお水を集めて絞り出しているだけなのです」
言い終わってから 周りを見たら、先生たちとギルマスがポカーンとしていた。
あ!そういえば私は5歳の人族。分かり易く伝えたけど、こんな少女が説明するには無理があるだろ!
「お母さんがお庭の薬草を育てる時に、不思議体験って言って教えてくれたの。
キラキラ光る虹っていうのも作ってくれたんだよ?」
「ほう、雨上がりに時々見ることが出来る妖精の橋と言われる虹ですが、それを作り出すことが出来ると?」
必殺『お母さんが言ってた』は無理があるかもとは思ったんだけど、ドゥーア先生と サブマスが食いついてくれた。残念ながら魔法ではないけどね。
というか妖精っているんですか?
「ああ、あんたの母親は 高名な冒険者だったと聞いたが、相当頭の良い人だったんだね。あんたがトランプも知ってたから、きっと金持ちのお嬢さんだったんだろう」
「聖魔法は 通常の属性魔法よりも取得自体が難しいといいますから、もしかしたら ヴィオさんのお母様は幼い頃にしっかり学ぶことが出来た 貴族ご出身なのかもしれませんね。」
先生たちが勝手に想像してくれているけれど、あのお母さんが貴族?
私のイメージする貴族とはかけ離れているんだけど、この世界の貴族の基準が分からないから何とも言えない。
状態変化について理解ができたアリアナ先生は、無事 水生成魔法を再現することが出来、ドゥーア先生の希望で ギルドの裏庭で水魔法を霧吹きのように噴出してくれたサブマスにより虹も作ってもらいました。
困ったときは〈お母さんに教えてもらった〉を使うヴィオ、お陰で 大人たちが想像する”お母さん”の凄さがどんどん上がっております