第67話 魔法の呪文をつくる
本日は同時投稿しております
こちらは1/2作目です。
言葉の組み合わせ……!
という事はあの厨二満載なのも、誰かが考えて組み合わせた言葉だったのか。
格好つけたい男子が最初に思い付いた言葉とかだと思ってたけど、ちゃんとした理由が有ったらしい。
「例えばファイアボールの〈我の手には炎が宿り 全てを焼き尽くす炎は玉となり弾け飛ぶ〉という言葉がありますね」
我の手に=魔法をどこに出現させるか
炎が宿り=属性を確定させる
焼き尽くす=どのような効果をもたらすか
玉となり=魔法の形を確定させる
弾け飛ぶ=“飛ばす” という行動を確定させる
サブマスが呪文を黒板に書いてくれる。あの呪文には5つの工程が含まれていたらしい。
全てをってのは無くても良いらしいけど、格好良いから付けたのかな?
ってかこれこそ授業で教えることじゃない?
「ははっ、これは魔導学園で教える内容だよ。
冒険者はここまで教えなくとも感覚で使うものが多いし、自分に必要がない、いや 得意属性以外は覚えない人が多いからね。
この学び舎はかなり丁寧な授業をしているが、他の学び舎は もっと実用性だけを詰め込んだ授業を行っているところが多い。入学時期も7歳以降というところも多いしな。
プレーサマ辺境伯領地はかなり特殊だ。」
そうなんだ。そう言えば学び舎完全無償も この領地ならではって言ってたもんね。
プレーサマ辺境伯サマ、おありがとうございますですよ~!
「では、ウインドカッターの呪文について、どのような意味があるか分かりますか?」
おお、突然の問題ですね?
確か呪文は〈我が手に集まりし風よ 強く回転する風の刃ですべてを切り裂け〉だったよね。
我が手に=出現位置
集まりし風=属性の確定
強く回転=効果
風の刃=魔法の形
切り裂け=行動を確定
「こうですか?」
黒板は高いから、お父さんに子供抱っこをしてもらったまま お手伝いしてもらったよ。
「ははっ、これは凄いな。ヴィオ嬢 魔導学園に入学しないか? これは3年生以上の魔法研究コースで学ぶ内容だよ?1度で簡単に理解しているのも凄いし、呪文を覚えているのも素晴らしい」
いや、あんな厨二呪文、恥ずかしくて覚えちゃうよね。使わんけど。
というか3年生でこのレベルって、学園に行く気が益々なくなったね。
「ということは、こないだサブマスさんがかけてくれた回復魔法は、『聖なる力』が属性で、『回復を願う』が効果だったわけですよね?
出現位置は 私の足の近くで手をかざしてたから 場所の固定をしてたし、回復は魔法の形がないから省略できたわけですね。行動は、ああ『願う』が行動になるのかな……」
先日筋肉痛の時にサブマスがしてくれた魔法を思い出して 黒板に書いていく。
ギルマスは「こんな短い回復の詠唱は普通ない」って言ってたもんね。
書きながら振り返れば、サブマスさんがポカンとした顔になっている。あれ?間違ってるかな?
ギルマスは「わけがわからん」と呟いているし、正解はなんですか?
「あの日、ヴィオさんが どんな風に考えて呪文を唱えているのか、どうやって治そうとか考えて唱えているのか、と質問してくれたでしょう?
私は症状を聞いて、傷であれば塞がるように、痛みがあるなら 痛みがなくなるようと想像しながら唱えていました。
ですから属性と効果の2種で呪文が行使されていたのですが、まさかその事実を直ぐに気付かれるなど思ってもいませんでした。」
そこに至るまでが難しくて 壁にぶち当たるのだとドゥーア先生が教えてくれた。
まあ人体解剖図を知らない人からすれば、見える場所の傷を如何こうすることが出来ても、筋肉痛とか見えない痛み、内臓の傷なんかをどうにかするのは難しいだろうね。
「おい、今日は水生成の呪文を考えるって言ってなかったか?」
静かにしてたギルマスの言葉に、ドゥーア先生とサブマスが「そうでした!」といい始める。
まさか、今日はそれがメインだったのか。
いや、まあそうだよね。それを考え付いたのがエルフ先生という事にしてもらおうと考えてたじゃんね。
「あの魔法はいくつかの工程があります。
1)魔力のミスト化
2)空気中の水蒸気を魔力で捕まえる
3)それを集めて圧縮《絞る》することで水を製作
4)水の中から魔力を抜く
最低でも4工程ありますから、それをどうするか考える必要があるのです。」
そうやって並べると、4つだけで済むんだね。
って思ったら「4つだけど、一つずつの事象を起こすのが普通は大変なんだよ」と言われました。
「まずは魔力をミスト化させることですが、これは『魔力を手の先に集め』『手から魔力だけを出し』『その魔力を極小の粒に変形し』『周辺に噴霧する』という4つの工程があります。」
……え?
なんかそうやって聞くと非常に大変な作業に聞こえるんですが、手から直接ミストシャワー噴水みたいに出す想像じゃダメなの?
サブマスが黒板に書いていく内容を見て 驚いている間に、大人たちが意見を出し合っている。
確かに初めてやる時は、体内で魔力を動かすところから想像しながらだったから、知らない間にこの工程を行っていたのかもしれない。
でも2回目以降はそんなこと考えなくてもスルリンと出来るんだけどね。
あぁ、そういうアレが生活魔法みたく 慣れたら魔力が少なくて済むって事なのかな。
1回目よりも断然魔力消費が少ないもんね。
「では、二つ目の水蒸気を魔力で捕まえるという事ですが、これは『噴霧した魔力を周辺の空気と馴染ませる』『その中から水を作り出す成分だけを固める』という2つの工程ですね。
これでしたら三つ目の工程、圧縮するも同時にできるかもしれませんね。
『固めた成分を布状に集める』『集めた成分を絞り出す』という工程です。」
「それなら二つ目の固めると三つ目の集めるを同じにしても良さそうじゃないか?短縮できた方が良いだろう。」
工程が次々に書き出されていく。
『魔力を手の先に集め』『手から魔力だけを出し』『その魔力を極小の粒に変形し』『周辺に噴霧する』
『噴霧した魔力を周辺の空気と馴染ませる』『その中から水を作り出す成分だけを固める』
『固めた成分を布状に集める』『集めた成分を絞り出す』『魔力水から自分の魔力を抜く』
全9工程が出たんだけど、ここからいくつかが省略というか合併された。
『集めた魔力を掌で小粒にする』
『空気中に魔力を噴霧する』
『自身の魔力が馴染んだ空気中の水分を布状に集める』
『集めた成分を絞り出す』
『魔力水から自分の魔力を抜く』
最後の2工程は 私もやってるからね。随分スッキリしたね。
工程が決まったら、これに呪文をつけていくんだって。新しい事象だと分かり易い言葉にする必要があるから、ちょっと呪文も長くなるらしい。
今のあの厨二呪文ですら、随分短くなってアレらしい。
「『集めた魔力を掌で小粒にする』に関しては、〈我が手に集まりし魔力は霧となり〉で良いでしょうか?」
「ああ、それは分かり易いな」
「良いんじゃないか」
……そんな感じで決めるんですね?
ドゥーア先生曰く、魔導学園では 昔使われていたであろう魔法の事象や伝承から どんな魔法だったのかを想像して、呪文を考えたりする研究室もあるんだって。
魔力が足りなくて再現できない事も多いらしいけど、勇者の魔法はなんかすごいのが多かったらしくて、それを再現するのはロマンらしい。
消費魔力を少なくして、皆が使える様な規模の小さくなったものが 今ある攻撃魔法なんだって。
途中までは面白くて聞いてたんだけど、意見が色々出て決まらない。お父さんの膝抱っこだから 温かくて、皆の声が良い感じの環境音みたいになってきて、気付いたら寝てたのも仕方ないと思う。
ドゥーア先生は魔法の権威で凄い先生なのです
ヴィオはサブマスと同じような魔法大好きオジサンと思ってますけど……