第53話 伐採の魔法
本日は同時投稿しております
こちらは2/2作目です。
ナンバーテンをした後、神経衰弱、スピードのルールも説明した。
神経衰弱はルールブックにあったらしくて、スピードだけ見本を見せたよ。
さっきの魔王抜きで負けたのがショックだったらしいギルマスが相手だったんだけど、カードゲームで一番好きだったのがスピードだった私だ。
小さくなって捲るのが遅いとはいえ、初心者相手には負けないよ?
そんな事を思いながらやったんだけど、あっさり楽勝勝利!
左右にカードを出すから ギルマスはどっちにどのカードを出そうかと考えているうちに私がカードを次々に置いていくから、アワアワしているうちに終了。
サブマスは爆笑しているし、お父さんは高い高いで褒めてくれるし、エリア先生に肩を叩かれて気落ちしているギルマスが少々不憫に思った次第。
「このスピードというのは軽い紙製の方が良かろうが、他のゲームでは十分木札でも楽しめるだろう。
これは木魔法が得意な大人たちなら直ぐにでも取り掛かれるんじゃないか?」
「そうですね、木魔法が得意な大人たちが集まれば直ぐにでも量産できますよ!」
「村長さん、ポール先生、あのね、できればカード作りは子供達も参加できないかな」
村長たちが嬉しそうなんだけど、ちょっと待ったをかける。
子供が参加するというのに少し驚いているようだけど、お父さんは直ぐに理由を分かってくれたみたいで代弁してくれる。
「ああそうじゃな、今回うちでカードを作る時に、枝を切り出すのと 木片に加工するまでは儂がやったんじゃが、その後のカードの表面を磨く作業はヴィオがやってくれたんじゃ。
もう少し年上の子供らじゃったら、木片加工の練習もできるじゃろうし、枚数が多いから魔力操作の練習にもなる」
「あら、それなら私の授業でカード作りをしてもらいましょうよ。三姉妹も魔力操作の練習をしてもらっているけど、実践に勝る練習はないもの」
お父さんの発現に賛成したのは魔術担当のアリアナ先生だ。
確かに今日の練習でライトの生活魔法も成功した5歳児は次回からどうしようかと先生悩んでたしね。
という事で、明後日の言葉の授業ではカルタの続きを、その後の魔術の授業では トランプやカルタ板の加工をすることになった。
勿論攻撃魔法を練習したい組はそちらをしてもらうとして、私たち5歳組と9歳の三姉妹はカルタ加工をすることになるだろう。
魔獣や素材のカルタについては文言、絵に関してもギルドのスタッフさん総出で考えてくれるという事になり、それらが出来上がったところで商業ギルドに登録しに行くことになったようです。
今週末にちびっ子採集体験をすることもあり、その結果も含めて 火の季節にあるギルド会議で紹介するんだって。
子供たちが体験した実績があれば 発表もしやすいだろうね。
会議は私の腹の虫が盛大に鳴った事でお開きとなった。
非常に恥ずかしい思いをしたけれど、興奮していた大人たちを落ち着かせるには良いサウンドだったようでございます。
もう少しだけ会議を続けるという大人たちに手を振って、お父さんの抱っこで早々に退散。
「ヴィオ、あのトランプはうちでも楽しめるように 余分に作ろうか」
「ふふふ、うん。お父さんと一緒に遊べるね」
見学に徹してたけど、お父さんもルールが分かれば参加したかったのかな。
あまり沢山のルールは覚えてないけど、いくつかできればいいよね。
木の枝を切る伐採魔法を午後に教えてもらう約束をして、昼食後に1時間のお昼寝タイムを取ったよ。
◆◇◆◇◆◇
お昼寝でスッキリしたところで裏の森へ。
「うわっ!」
「こりゃ……」
川に近い方の木の剪定をしようという事になって 畑を通ろうとしたら、盛々の雑草の小さな丘があった。森の中に薬草はあるけど、ここは土の畝があった場所の筈で、こんな草原みたいになっている筈がないんだけど。
お父さんもあまりの状態に驚いていて、丘に手をついて何かを調べている。
「ああ、こりゃヴィオの魔力じゃな」
ん?この丘の犯人が私ですか?
「こないだ魔力切れになる程 この畑に魔力を流したじゃろ?それで土の中の魔力が増えた。
ココに作物を植えておったら豊作じゃったんじゃろうが、何も植えてなかったから 雑草が育ったんじゃろ」
なんと!あの時の失敗魔法か!
しかし なんと勿体ないことをしてしまったのでしょうか!
確かにこの森の薬草たちの成長率が良いのも、お父さんが手入れをしているからって言ってたもんね。あぁ、分かっていれば野菜がある場所に魔力ぶちまけたのに。
「あ、そう言えばお父さん土人形作れるようになった?」
忘れてたけど、そもそもの発端は土魔法で土人形を作れるようになれば魔力操作の練習にもなるだろう、って事だったんだもんね。
「いや、昨日はヴィオが倒れてそれどころじゃなかったからな。
ヴィオはどっちをやりたい?」
確かに、お父さんは私を直ぐに運んでくれて、午後はアスレチックに付き合ってくれて それどころじゃなかったよね。
とりあえずトランプ作りの為にも伐採を先にやりたいとお願いしたよ。
この雑草だらけの畝は また後でどうにかすることにして、まずは枝切をするための木をお父さんが選ぶ。
「ああ、これと これ、後はこっちの数本がええじゃろう。
ヴィオこっちにおいで」
お父さんが数本の木に印をつけていく。何を目安にしているのかは分からないけど、日の入り方とかそんなのを見てるのかな?
呼ばれてお父さんの指す木の元へ行く。
「この木の幹に手を当てて、ゆっくり木に魔力を流すんじゃ。
木も生きておるからな、一気に流すのは良くない。ゆっくり木の中に流れている自然の魔力をまずは感じて、その魔力に合わせるように自分の魔力を流すんじゃ」
コクンと頷き 掌をピタリと幹にへばりつける。
土の中を覗いた時よりももっと繊細に、霧吹きで流したよりももっと少なく。
(大きな木さん、あなたの中を少し見せてね)
そんな風に思いながら ジワジワと水が布を濡らすように 木に魔力を染み渡らせる。
両手をついた場所、木の幹は変化がないのに、レントゲン写真を見ているような 木の皮を数枚剥いだような、そんな不思議な光景が頭の中に流れてくる。
教育テレビで見たことがある、人体を流れる血流の様に ドクンドクンと木の中を何かが流れているのがわかる。
その流れを注視すれば、土の下から上がっているものと、上から下りてくるものがある。
「ヴィオ、木の中の流れが分かるか?
土の中、根を伝って土中の魔力と栄養を木は取り込み、全体に行き渡らせる。
そして枝葉からは空気中の魔素と光を取り込んで、それを全体に行き渡らせて土中にも還元しておるんじゃ」
ああ、これはその流れが見えているのか。凄いね。
「うん、見えてる。凄いね、木が生きてるってよく分かるね」
「そうじゃな、それが見えたら 上の方、木の枝のところまで意識を運ぶんじゃ。いくらか光を取り込むのに邪魔になっておる枝がある。栄養を摂りこみにくくなっておる枝があるはずじゃ」
そう言われて 木の血管のようなものを追って視線を上げていく。実際の木はとても高くて見えない筈なのに、魔力を通して見ている木の枝は お父さんの身長くらいの高さの場所に見えている感じだ。
上の方に行けば、確かに数本の枝が光を取り込めなくて 元気がないように見える。
「あった、元気がない枝。これを切るの?」
「いや、その上の元気すぎる枝を落とすんじゃ。元気になり過ぎて成長しすぎた枝葉は他の木の成長も阻害するからな。
栄養満点の枝があるから、その枝の根元の魔力を切断するんじゃ」
元気がないのを切るんじゃなくて、その上なんだね。
もう栄養満タンでしょ?って事ね。さっきの枝よりもう少し上に行けば、確かに3本くらい上にある枝が栄養過多な感じだった。根からの魔力じゃなくて、周囲の魔素を吸い過ぎて 根の方に還そうとしてるけど 多すぎて還せないで溜まってるって感じ。
川の分岐点で支流に流れなくて氾濫寸前!って感じになっているのが分かる。切断するのはこの場所って事だね。
「なんか詰まってる感じの場所があったよ」
「ははっ、よく見えておるな。そう、その詰まっている根本で『切り落としたい』と思うんじゃ」
ほうほう、呪文ではないのね。お父さんは呪文唱えてなかったもんね。
(よしよし、この場所をスパンと切れるようにね)
そう考えれば木の中の魔力の流れが詰まった部分でスパリと切り取られ、バサバサバサと大きな音が聞こえてきた。
「あぁ、忘れておった!」
お父さんの焦った声が聞こえたと思えば抱きかかえられてその場から離された。
バキバキ ド~ン
振り返ったら想像してたより太くてモサモサの枝が落ちてきてた。
バキバキは周囲の枝を巻き込んだんだろう。ちょっと折れている枝もある。
お父さんの時は静かだったのに、どうやら失敗したらしい。
「ああ、いや、ヴィオは失敗しておらんぞ。儂が忘れておったんじゃ。
伐採の魔法を使う前に、蔦の準備が必要じゃった。
切る枝じゃない枝から 蔓を伸ばして、枝の根元に巻き付けておくんじゃ。そうすれば切り取っても直ぐには落ちん。ゆっくりスルスルと下りてくるんじゃ。
怖い思いをさせてすまんかったな」
ああ、そう言えばお父さんの時はつる草がクレーンみたいになってたもんね。
怪我もしなかったし、伐採自体にミスがなかったんなら良かったです。
という事で、別の木でもう一度チャレンジ。
今度は枝を選んだ時点で ちゃんと他の枝葉から蔦を出してもらえるように準備をしてから切ったから、ちゃんと静かに下りてきてくれたよ。
《ヴィオは “伐採”の魔法を覚えた》って某ゲームならレベルアップの音楽と共に流れそうだよね。
うふふ、明日は土人形を頑張ろう!
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