第49話 やっと武術訓練?
本日は同時投稿しております
こちらは2/2作目です。
家の裏手は森と畑が広がっているけど、家の前はウチが東門に一番近い場所に建っているから、門までの広い場所は自由に使える。
畑仕事をしている人たちは午前中に終えているし、他所から来る馬車なんかはギルドのある西門から入ってくるから、こっちの門を午後から使う人は殆ど居ない。
そっちの広い道で訓練をするのかと思ったんだけど、お父さんは森に入って行く。
いつも薬草を採集しているよりも奥、川に近い方まで行けば アスレチック場(?)みたいなのが出来てた。
木の太い枝からロープが垂れ下がり そこに丸太が括り付けられていたり、木と木の間に縄梯子みたいなのがかけられていたり、太さや長さの違う丸太が一定間隔をあけて並んでいたり、数本の太い幹にはタオルじゃないけど何か布用の物が巻き付けられていたりする。
ナニコレ、ナニ此処! ワクワクするんですけど!?
「ははっ、喜んでもらえておるようで作った甲斐があるな。武術訓練は組手もあるが、まだまだヴィオには厳しいじゃろうからな、体力やバランス力をつけるのにこれを作ったんじゃ」
お父さんが嬉しそうに説明してくれるけど、まさか 私の為にこの場所を作ってくれたの?素敵すぎるんですけど!
「お父さん凄い!楽しそう! 組手はまだまだ先なんだろうけど、お父さんの武術も見てみたい!」
興奮しながらお願いしたら 見せてくれた。
太めの丸太に座らされ、少し開けた場所に立ったお父さんは軽く目を閉じ、スウっと息を吸い込んだ。
瞬間 その場の空気がピリリと張りつめたのが分かる。
お父さんは魔法が得意じゃないと言ってたけど、これはお父さんの魔力が お父さんの周囲に うっすらと振り撒かれたような状態だと思う。
この中に敵が足を踏み込めば 直ぐに察知されるだろうし、お父さんの魔力の干渉内だから即攻撃されるだろう。
普段の優しいお父さんとは違って、キリリとした表情で佇む様は 一流の格闘家の試合直前のように見える。
カッと目を見開いたと思えば 右手が素早く突き出され、触れてもいないのに 右手の直線距離に吊り下げられた丸太がブゥンとその体を揺らす。
上半身を低くした状態のまま くるりと振り返り 右、左と掌底を繰り出せば、後方にあった丸太もカランカランと音を立てて揺れる。
グっと膝を落としたと思えば そのまま飛び上がり、一番高い場所にあった丸太を蹴り上げ、くるりと回って音もなく着地した。
熊獣人のお父さんは体が大きく、猫獣人の彼らに比べれば普段の足音もしっかり聞こえる。だけど今 この時には全く足音が聞こえずに、揺れる丸太の音だけが森の中に響いている。
着地したお父さんはそのまま太い幹に 左右の拳を叩きこみ、裏拳というのだろうか、手の甲から前腕を使って左右で更に叩き込む。
木から少し離れて蹴り技も叩き込んだところで もう一度元の場所に戻って スウっと息を吐き出した。
ここまでの連続技の余りの凄さに 息をするのも忘れていた。
お父さんの纏う空気がいつものモノに変わり、魔力も霧散されたことで やっと大きく息を吸うことが出来た。
「久々にやったが やはり鈍っておるなぁ。これを機にもうちっと練習しておくか」
ポリポリと頭をかくお父さんはいつものお父さんで、アレで鈍ってたとは 現役時代はどんだけ凄かったんだと驚く。
「お父さん、格好良い!凄い!凄かったよ!
最初のバーンってした右手で丸太が飛んでったのは 風魔法?いや、魔法は使ってなかったよね?
集中してた時にお父さんの魔力が満ちたから、それに攻撃の何かがノッてたのかな。
いつものお父さんじゃないみたいでびっくりだったけど、凄く格好良かった!」
ちょっと興奮しすぎて語彙力が大分残念なことになっているのは理解しているけど、無理、良さそうな言葉は見つからない。だって凄く格好良かったんだもの。
少林寺拳法にも似ている感じだったけど、安全に配慮された競技とは違い、多分あれを敵に繰り出せば 確実に殺れるだろう。
獣型の魔獣相手にはあまり使えないのかもしれないけど、対人戦では非常に効果的なんじゃないかな?
ん?お父さんって冒険者だったよね。
冒険者って魔獣退治が主だと思ってたけど、対人もあるの? 護衛とかだと盗賊とかが襲ってくることもあるから必須なのかな?
「魔力が満ちて……、そうなんか? あんまり考えたことはなかったが、集中しとると 一定範囲内は 敵の動きも良く見えるんじゃが、そうか、自分の魔力の影響下にあったからじゃったんかもな」
お父さんは 今初めて気が付いた!みたいになっているけど、流石感覚で魔法を使う人だよ。掌底で丸太が吹っ飛んだのも気合で吹っ飛ぶって言われてしまったから、私に同じことが出来るとは思えない。
多分サブマスもできないだろうけど、ギルマスは出来るんだろうな。
お父さんのすんごい技を見せてもらったところで、私の訓練が始まった。
勿論あんな蹴り技や手技が出来る筈もないので、まずはアスレチックで体幹を鍛えつつ、足腰を強くするのが目的だ。
「ほれ、ヴィオがんばれ!」
「んっ」
お父さんが並走しながら丸太を飛び跳ねながら走る。
身体強化を使わずにまずはやってみようという事で、高い丸太は越えられないのでS字に潜り抜けながら走る。
「はじめはロープを持ちながらでもええぞ」
「ゆっ、揺れるぅ~」
縄梯子は手すり替わりのロープもあるけど、吊り橋みたいに繋がっている訳ではないから非常に不安定だ。梯子の間も 渡り始めは間隔が狭くて下が見えないのに、半ばを超えると段々間隔が開き、地面が見えるから恐怖心で足が震える。
この縄梯子もいくつか準備されており、今渡っているのは私の膝丈くらいしかない非常に低いものだ。梯子の上に立っても お父さんの胸までくらいにしかならないんだけど、足元が不安定というのは 中々の恐怖だ。
あの木の上に見える梯子を渡ることが出来る日はいつになるのだろうか。
お父さんに応援されながら、アスレチックを2周したところで完全に息が上がってしまった。
「まさか強化魔法なしで2周もできるとは思ってなかったぞ。ヴィオ、基礎体力は着々と身について来ておるな」
「ほんと? うれし~」
地面に大の字になったまま寝転んで息を整えていたら、お父さんが嬉しいことを言ってくれる。
確かに家から半分の距離しか歩けなかった時より 随分筋力もついてきている気がする。
「もう少し休憩したら、今度は強化魔法を使ってもう2周してみような」
ニッコリ微笑みながら提案してくるお父さん、うん、中々のスパルタです。
でもあの格好良い技が出来るようになりたいからね、頑張るよ!
アルクお父さんだけでなく、前衛近接系の冒険者は感覚で魔法を使う人が多く、魔法を使っているかどうかに気付いていない事も多々ありますw