第46話 水の魔法
本日は同時投稿しております
こちらは3/3作目です。
「薬草の納品おねがいしまーす」
「おっ?ヴィオちゃん こんなお昼に珍しいね。って、お休みだから午前中に採集したのか、えらいねぇ」
ギルドに付いたらタキさんが受付にいたので、納品を依頼した。
その間にお父さんは別の受付さんにサブマスを呼んで欲しいとお願いしている。
いつもは学び舎終わりの午後に採集して、夕方に納品に来るようになってるから、羊三姉妹のお爺ちゃんのナーラさんに検品してもらってるんだよね。
タキさんもナーラさんと同じように、鑑定の眼鏡をかけて手際よく確認してくれている。
「聞いてたけど 本当に採集の腕がいいんだね。
お預かりした全て 問題なく納品レベルをクリアしてるよ。
5ポイントで250ラリだね。ハイどうぞ」
「タキさんありがとう」
青銅硬貨2枚と、錫硬貨を5枚受け取る。
自宅のマジックバックに貯めている硬貨は着実に増えている。
あ!土魔法で貯金箱を作ろう。ブタさんじゃなくて クマさんで作ろう。
でも、ブタさん貯金箱はトンカチで割るまでがお約束だよね。クマさんを叩き割るなんてできない。
叩き割っても罪悪感のない動物……、いや魔物にしておこう。
サブマスと会うまでに時間があったら魔物の辞典でも見れないかな。
そんな事を思ったんだけど、タキさんから硬貨を受け取ってお父さんを呼ぼうと思って振り向いたら サブマスが真後ろに立ってたよね。
超ビックリし過ぎて ちょっと飛び跳ねたのは仕方がないと思う。
この人足音しないんだもの。絶対アサシン系の魔法使いだったんだと思う。
「昨日お教えしてからの今日でしょう? 魔法の事でお困りだと思って直ぐに来たのですよ?
今日と明日は 銅ランク以上の冒険者たちが訓練場を使っておりますので、裏庭の方へ行きますか?」
「あぁ、サブマス、昨日の魔法とはちょっと違うことで魔法の相談なんじゃ。大きい桶でもあれば会議室の方がええかもしれん」
サブマスがお外に誘ってくれたんだけど、お水の魔法は受け皿がないと水溜りが出来るだけだからね。
少し首を傾げたサブマスだったけど、分かりましたと頷いて先に会議室に行っているように言われたよ。
桶の準備をしてくれるんだろう。
お父さんと2階の会議室へ。
ここはギルドの登録をした部屋だね。
お父さんの膝の上に乗せられて待っていたら、ノックの音がして サブマスとギルマスが入ってきた。
確かにギルマスもいてくれた方が良いよね。
「なんか魔法の相談なんだって? 俺が聞いても分かるとは思えねえけど、一応同席するぜ」
「昨日のマッサージのような魔法だったら、受けられなくて残念がるでしょうに。
さあ、桶はこれくらいの大きさがあればよろしいですか?」
魔法は感覚派って言ってたもんね。
サブマスが持ってきてくれたのは、大人が一抱えするくらいの大きな樽だった。私だったらお風呂代わりに使えそう。十分な大きさだったのでお礼を言って、お父さんに下ろしてもらおうとしたら止められた。
「ヴィオちょっと待て。
サブマスにギルマス、これからヴィオが使う魔法はかなり凄い魔法じゃ。冒険者ギルドは勿論、商業ギルドにも激震が走るじゃろう。
……多分国も動くことになる」
「は?」
「それはそれは、非常に楽しみですね」
お父さんの真剣な様子にギルマスが固まり、サブマスはとても嬉しそうに微笑む。本当にこの二人って対照的。
だけど流石はギルマス、直ぐに姿勢を正して聞く姿勢になった。
「だったら俺がしっかり聞かねえとじゃねえか。どんな魔法だ?」
「飲める水を作り出す魔法じゃ」
「水魔法の水は飲めないというのは常識ですが、アルクがあえてそう言うということは、既に実験もしてきた、という事でしょうか?」
「ああ、じゃが儂だけじゃと魔力感知能力に自信がないからな。サブマスにしっかり見てもらおうと思ったんじゃ。実際に口にしたが、魔力酔いはせんかったから大丈夫な筈じゃ」
パクパクと口を開け閉めしているだけのギルマスだったけど、意見をするより実際見た方が早いだろうという事で、早速実験することにしたよ。
お父さんのお膝から下ろしてもらって 桶の前にスタンバイ。
サブマスは桶の向かい側で体育座りをしております。大人のイケメンの体育座り。
なんだろうね、残念臭が半端ない。
「じゃあ、やるね?」
4回目になるからとってもスムーズ。
両手から人間スプリンクラーのように魔力を霧散し、キャッチした空気をギュギュっと絞る。
ボチャボチャと大きな水玉が用意された桶に入る。
お絞り位置を桶の近く、低い場所にしたことで 水撥ねもしません。私 学ぶ女!
「マジで水が出て来たぞ……」
かすれるくらいの小さな声が聞こえるけど、まだ魔力がたっぷりの水だからね。
桶の中の水から 魔力をズイッと引き離す。ズルズルっと魔力だけが取り除かれれば≪純水≫の完成だ。
「できた! お父さん、さっきより上手にできたよ」
「ああ、ヴィオは1度やったらどんどん上達するな」
「これは、魔力が一切含まれていない水ですね。魔道具を作るにも非常に重宝されそうです。
確かにこれはギルドだけではなく、国が動きますね。共和国の内陸地域のギルドからすれば垂涎の情報でしょう。
アルク、あなたはどう考えているのですか?
ヴィオさんがこの様な情報をお持ちであると知られれば、貴族からも縁組を望まれるのではないでしょうか」
うえぇぇぇ、貴族と縁組とか、絶対に嫌なんですけど?
あのチビ禿糞デブ領主みたいなのと関わるとか冗談じゃない!ムリ、無理、むりすぎる!
「ぶはっ!絶対嫌だって顔だな。
だがな ヴィオ、貴族のお嬢さんになれば冒険者になる必要もないし、上手い飯も食える。お前は勉強も好きだろう?
学び舎なんかじゃ学べないようなすげえ学校も行けるぞ?
うちの国の王都にある魔導学園は 平民でも優秀であれば入学できるが 余程のコネか金がないと無理だ。
だけど貴族だったら入学は出来る。よその国からも留学してくるくらいすげえ学校だ。うちの国の貴族は絶対入学だからな。どうだ?」
「学校には興味あるけど、たかだかそれだけの為に貴族と一生関わるとかリスクが高すぎてヤダ。それならコネを作って平民枠で入学する!
私はこの大陸のダンジョンを全部行きたいし、ドラゴンにも会いたい。
だから冒険者になりたいの。貴族はヤダ。
この魔法も必要な人が多いんでしょ? 私が成長するまで待ったら死んじゃう人が出ちゃうじゃない。だったらサブマスさんが発見した事にして、大々的に発表して?
それに、元々 お皿を洗う為の水魔法を使いたかっただけなの。失敗から出来た魔法だから功績なんていらない」
「お皿を?」
「水魔法の失敗?」
サブマスとギルマスが首を傾げて不思議顔。お父さんが二人の視線を受けて頷いた。
「攻撃じゃない水魔法をどうやって出そうか考えた末に出来たんが今のじゃ。飲めるようにするのに魔素を抜いたんはその後じゃな」
二人がギギギとても言いそうな感じで私に視線を寄こしたので、大きく頷いて見せる。
サブマスは よろよろしながら起き上がり、ギルマスの隣に座った。私はお父さんの足元まで行ったら持ち上げられてお膝の上だ。
「俺は今のを見てても良く分からなかった。
ヴィオから魔力が広がったと思ったら 桶の上で収束しただろ?そしたら急に水が出てきた。その後は水から魔力を抜いた、で合ってるか?
分かったのはそれくらいだ。完全無詠唱だしな。理屈を聞いたらできるのかすらわからねえ」
ギルマスが頭を抱えながら言うけど、大体当たってるよね。
魔力を感覚でやってる割に凄いと思います。
「そうですね、ヴィオさんが貴族と関わりをもちたくないというのであれば、代役として発表してくれる人を用意する必要があります。
幸い昨日のアレコレで、私の恩師に手紙を送っています。
聖魔法を教えられる相手に関しては行先不明ですのでもう少し先になりますが、生活魔法と他の魔法の違いについての見解をお聞きしたくてご連絡をしたのです。
その方は魔導学園で特別講義を受け持っている方なのですよ。
今朝のギルド便で送ってますから、週明けには遅くてもお読みいただけるはず。
あの方は長寿のエルフですから、きっと興味深く思ってもらえるはず。返信が来たら この水魔法の事もお伝えしてみましょう」
「おい、エルフで恩師って言ったら、あの人か?」
「ええ、適役でしょう?」
「あちゃ~、絶対来るじゃねえか。辺境伯閣下には連絡しておかねえと、あの人は絶対忘れて直接くるだろ。
あぁ だけど、今回のこれだったら来てもらえた方が有難いってことか」
二人で何だか楽しそうだけど、エルフって言った?
エルフに会えるの?
村では人族と獣人族しかいなくて、もう少し大きな街にはドワーフもいるらしいんだけど、ドワーフ&エルフって言ったらラノベの必須登場人物じゃんね。
美人かなぁ、儚げ系かなぁ、やっぱりツルペタだったりするのかしら。あぁ男性だったらツルペタ当り前だけど、イケメンなのかな。
うわあ、超楽しみ!
とりあえず【水生成魔法】に関してはこの4人だけの秘匿情報という事になり、恩師のエルフさんからの返信次第という事になったよ。
お手紙はギルドにあるミニ転移陣でやり取りが出来るらしく、陣に乗せることが出来る小包くらいまでならOKらしい。
一律1か所につき1銀貨、つまり1万ラリだ。薬草採取10本の報酬が50ラリだから200回分。
うへぇ、とてもじゃないけどお願いできないよね。
だからこそ、同じ場所に送る手紙や小包は纏めて送るらしい。
今回は集まるのが待てなかったサブマスさんが手紙だけで送ったらしいので、既に王都に手紙は転移済み。
あとは受け取った王都のギルドが、街中依頼を出して本人の元に届けるんだって。
『ハイテクとアナログのマリア~ジュやぁ』って感じだね。
お読みいただきありがとうございます。
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