第395話 祭りの後 ~他者視点~
お祭りが大人の時間になり帰宅した。
お父さんにはお酒を楽しんでもらおうと送り出してから ちょっぴり不安になったけど、マジックバックの整理をしていたら気にならなくなった。
その後眠くなったから 明日の準備をしてからベッドに入った。
そこまでは覚えているんだけど、何でこの人が家にいるの???
「ヴィオちゃん起きて!」
ユサユサと起こしてきた人は スチーラーズのお色気お姉さんだった。
寝起きのぼんやりした頭ではよく分からないけど、ここが家だという事は間違いないはずなんだけどな。
「ヴィオちゃん聞いて、今東門で火事が起きてるの!皆で延焼を抑えているんだけど ここにいるのは危ないわ。アルクさんは子供達の避難を手伝っているの。
ヴィオちゃんも直ぐにお着替えして逃げるわよ!」
は?は?は?はあ???
家事? 鍛治、いやいや、火事ですか???
この川がすぐ横にある村で火事って、バケツリレーで直ぐに消化できそうだけどそれどころじゃないのかな?
私もお姉さんに急かされてるから ちょっと焦りながらお着替えしてます。
ちょっと黙っててくれないかな、外の状況を教えてくれるのは良いけど 焦ってるのが伝わるから私もつられて焦っちゃうせいで 着替えに手間取ってしまう。
「おお、着替えたか?ヴィオちゃん、寝てたのにごめんな!とりあえず目覚ましがわりにコレ飲んで」
リビングにはリーダーもいて、お祭りでも出ていた可愛いピンク色のジュースを渡される。
「ありがと、ねえ火事ってそんなに大変そうなの?私水魔法使えるよ?」
受取ったジュースはフィグのジュースで、お祭りでは大人の女性陣からも大人気だったんだよね。冷えてはいないけど 寝起きにキンキンのジュースはびっくりしちゃうから丁度いいかもしれない。
「ああ、火事もそうだが それに乗じて人攫いがでてな、アルクさんはそっちの対処に回ってんだ」
「ええっ!?それってそっちの方が大変じゃない!私もそっちに行くよ!」
「ヴィオちゃんは危険だから 安全な場所にって言われているの」
「そうなの……?でも……、あれ……なん、で」
飲みかけのジュースを最後まで飲むように勧められて飲み切ったけど、スチーラーズの言葉が段々遠くになっていく、なんで?寝起きなのに、なんで眠くなるの……?
もしかして ジュースに眠り薬が? でもなんで?
「ヴィオちゃん、ごめんね」
泣きそうな顔をしたお姉さんの姿が薄っすら見えるけど、謝るならやらないでよ。
何か袋のようなものを被されたところで真っ暗になり 私の意識は途切れた。
◆◇◆◇◆◇
「インラン泣くな」
「だって、この子には私たち恩しかない筈でしょ?それをこんな形で裏切るなんて……」
「しょうがねえだろ、ゲドゥに見つかっちまったんだ。
それに ヴィオちゃんをアルクさんから離すのは可哀想だけど、あっちの国に本当の父ちゃんがいるんだろ?最終的には幸せになるって」
「俺が、俺がパーティー名をさっさと変えていれば……」
ゲドゥと一緒にいた二人組からの指示は『ヴィオを連れ去ってくること』
待ち合わせは初心者の森、その作戦を成功させるために ギルマスたちが不在にする期間が選ばれた。
スチーラーズの三人が村に戻ったのは親子が戻っているのか、いつまで村にいるのかを確認する為だった。
往復十日で充分な領都への仕入れに時間が掛かっていたのは ギルマス会議を待つためだった。
村に彼らの名前で送り付けられた酒樽は キャットニップが入ったもので、獣人が飲酒すると酩酊感が通常以上に強くなるというものだった。
キャットニップは特に猫系獣人に効果が強く、それ以外にも獣系の獣人には効果がある。
鳥系、トカゲ系の獣人や ヒト族にはただの酒と同じ効果しかないという事だったが、サマニア村に住む危険な獣人の殆どには効果があるという事だ。
その酒を振舞うことで戦力を削り、影たちが村の外に火をつける。
燃やす時には痺れ草、眠り草なども混ぜておくことで煙を吸ったヒトたちの動きが緩慢になるだろうという事だった。
同時にあちこちでスカウトして来ていた破落戸共を村に引き入れて 人攫いを行い混乱させる。
影たちからそんな指示をされた時には反発した三人だったが、ゲドゥの闇魔法で拘束されながらの拷問には耐えられなかった。
今、その作戦は決行された。
三人が行ったのは 祭りの開催と強者と門番へ酒を飲ませること、これだけだ。
だがその結果、普段静かなこの村が 子供達の泣き叫ぶ声、大人たちが子供を呼ぶ声、助けを求めて叫ぶ声で溢れている。
三人は自責の念に駆られながらも目の前にいる少女を見下ろす。
「せめてマジックバックは持たせてやろう、ってこれマジックバックだよな?中身無いけど」
「多分そうだと思うわ。使用者制限があれば他人は使えないんじゃなかった?
だとしたらあいつらに奪われることもないだろうし良いじゃない。この鞄、お母さんの形見だって子供達が言ってたし……」
鞭や短剣は鞄に入れたままだったのは ヴィオにとって幸運だったのだろう。
スチーラーズの三人がそれを持たせたのは 罪悪感を少しでも減らしたいからというだけだったとしても、武器無しの装備だけで攫われるよりはずっとましだった。
リュックを背負わせたヴィオをもう一度袋に入れて ディスが担ぐ。
今の混乱状態がどれだけ続くかは分からない。
出来るだけ早く移動しておかないと全てが無駄になる。
三人は混乱する村を後に 初心者の森へ走り出した。
「きゃあ!」
「おい、大丈夫か!?」
途中でインランの足がもつれて転ぶ。
ゲスが手を伸ばすが インランはもう走れないと、置いていけと言い出した。
自分達もかなり足にきているがまだ走れる。だがインランはもう無理だろう。
このまま連れて行けば追手に追いつかれる可能性も高い。
二人の決断は早かった、本人もそう望んでいたので その場にインランを残して二人は森へ走った。
「思ったより早かったわね」
「あれ?女がいなくね?」
森が見えてきたところで 暗闇から急に現れた三人に驚く。
「インランは途中で走れなくなったから置いてきた」
顎で袋を指されたので ゆっくり下ろしてから顔が見えるように袋の口を広げた。
「ふんっ!こいつがね」
女がヴィオの髪を引っ掴んで 忌々し気に睨みつけるのを見て驚いた。父親の元に連れて行くと言っていたのに随分な扱いじゃないか?
ヴィオの為になると思ったが もしかしたら違うのではないか?
「おい!何してんだよ!」
ゲスが女の手を払おうとしたが その手が女に届く前に身体ごと動かなくなった。
ディスも自分の足が地面に縫い付けられている事に気付いた。
ゲドゥの闇魔法だ。
「お前ら、あの村の奴らの能力を舐めすぎてるぞ。こんなことをしてすぐに追いつかれるはずだ」
「あははっ、まあ普通ならそうかもな~。
けど 俺らは山ん中に入るからだいじょ~ぶってな」
「はっ!? あの山の奥がどうなってるのか知ってるのか? あの村の連中ですらある一定から奥には行かないような場所だぞ!」
「ふんっ、そんな事分かっているに決まってるだろう。
俺たちは魔獣が寄り付かない魔道具があるからな、たとえ追いつかれても問題ない。さっさとそいつを寄こせ」
抱えていたヴィオをゲドゥに奪われ、男に斬りつけられる。
「万が一追いついてきた奴らに行先を知られると面倒だからね。
っつーか、お前口が軽くね?」
「すいません……」
薄れゆく意識の中、女の冷たい目と男の嘲るような声、小さくなって謝罪するゲドゥの姿だけが印象に残った。
(そうか、ゲドゥもこいつらに逆らえなかったのか。それなら俺らが逆らえなくてもしょうがない)
トドメを指すことなく去って行った三人を見送って意識が途切れた。
ヴィオは魔の森と呼ばれる山に連れ去られたようです




