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〈閑話〉メネクセス王国 6

大陸歴579年~580年


※残酷表現、処刑シーンがあります※

閑話は読まなくても 本編は繋がりますので、読み飛ばしていただいても大丈夫です


閑話同時投稿しております

こちらは3/3作目です。

王城の2階には、即位式や 婚約披露、新年の挨拶などで王や 王子達家族が 民に顔を見せ 手を振る広いバルコニーがあります。

その時ばかりは 平民たちも城内に入ることが出来、バルコニーから見下ろせる広い広い庭には 平民たちが隙間なく集まるのです。

今も、その時と同じように 多くの平民が溢れているのですが、いつもと違うのは、にこやかな笑顔を浮かべている者は一人もおらず、皆が涙を浮かべ、または怒りの籠った眼差しを目の前の者にぶつけている、という事でしょう。


庭の平民たちが集まるその目の前には、猿轡をされた4名が柱に括り付けられています。

一番左に 私の兄であった エドガード・ラフターラ、次にオレリアン・ラフターラ、次に シシリアン・プリーマ、一番右端はガエル・プリーマ。


バルコニーに王が姿を見せれば、それまでザワザワしていた平民たちも口を噤みます。舞台の左右には少し高い段が設けられ 貴族達も集まっていますが、彼らも静かに王の発言を待っています。


「此度 王都を襲った恐ろしい流行病は、ニーセルブ国からお越しいただいた薬師のリオネル殿のご尽力を賜り すべて浄化された。

王都で働く薬師、そして浄化に奔走してくれた神殿の皆に感謝申し上げる。

今 王都だけでなく、我が国は悲しみに打ち震えている。

私も愛すべき…………。

愛すべき妻と、息子たちを失うこととなった。」


王自身が罹患し、食事が摂れなかった事もあり、体重は激減しました。

そして、それ以上に 奥様お二人に続き、王子お二人も立て続けにお亡くなりになられたことが衝撃過ぎて、食事が喉を通らなくなっているのです。

何故息子ではなく自分が生き延びてしまったのかと 人知れず嘆く姿は、あの愚兄の愚かさを知りながらも、どこかで改善してくれるのではないかと思ってしまっていた自分の甘さが招いた悲劇なのです。


王が震える声で演説をすれば、広場でもすすり泣く声が聞こえ始めました。

リオネル殿がかなり無理をして急いでくれたからこそ、これだけ生きている人たちがいます。しかし、どれだけの被害が出たのでしょうか。


王の宣言が行われ、4人の罪人たちの犯した罪が述べられました。


エドガード・ラフターラは、

此度の流行病の元となる物を調合し、散布。

その為に1つの街を実験として壊滅に近い状態にした事、

第二王子妃に子供が出来ぬよう 妊娠阻害の薬効がある茶を密かに飲ませていた事、

第一王子妃にも同じことをしようとしていたが、こちらは未遂で終わっていた事、

第二王子に虚偽の情報を与え洗脳し、クーデターを起こさせようとした事、

他にも沢山の罪状はありますが、今回の刑罰の理由はこの4つ。



次にオレリアン・ラフターラは、

此度の流行病の元となる物を調合し、散布。

その為に1つの街を実験として壊滅に近い状態にした事、

罪人を捕縛に行った第二王子を毒殺した事(病で弱っているところに治療薬と称して毒薬を飲ませた。この時に薬を与えたとされる薬師はその場で処刑されている)

王の側妃であるアンジュ妃に対し、血縁者であるからと油断させ、弱毒性のある蜜を飲ませていた事が述べられました。

ラフターラ公爵家ではハチミツが名産の一つであり、その中で毒花から集めた蜜をアンジュ妃との茶会で持ち込み、飲ませていたことが判明しています。



次に シシリアン・プリーマは、

祖父と父の企みを知った上で協力、自身が血縁者の中で最も優れていると勘違いし 王子2人が死亡すれば自分が女王になれると思い行動した事、

指名手配がかかってるにも拘らず、父と祖父を匿い 王城へ虚偽の申請をした事などが述べられました。


最後はガエル・プリーマ、彼はある意味被害者でもあるかもしれません。

伯爵が公爵の頼みを断れるはずもなく、彼らがシシリアンの結婚相手に選ばれたのは、その先のヘイラン国の流行病と、特殊な茶葉を求めての事だったのです。

彼の罪は、それらに気付いた時点で王に進言すべきだったのを怠った事でしょう。

彼の両親は 領主を交代した後 田舎へ隠居したと聞いていましたが、既に他界している事も調べで分かりました。

簡単に両親も葬るような相手に逆らうことが出来なかったのも理解できますが、その為に何万人という被害者が出たのも事実です。




「以上、此度の被害の重さを鑑みて、皆の想いもぶつけたいだろう。

知らぬうちに、簡単に終わらせるなど生ぬるいことはせぬ。最後の一人が終わるまで 死なせることはない。存分に気持ちを晴らすがよい。」


祖父である先々代は 小さな国を戦で攻め落とし、今の大国を作り上げた苛烈な王だったと聞いています。

それを見て育った父王は、国内の平定を第一に考えて行動される優しい方でした。だからこそ、あの兄も廃嫡することなく 公爵に据えたのだと思います。

そして我が王も父に似て、優しい心を持つ王で、国内の皆が過ごしやすい様にと 考えておられました。時に甘いと言われることもありましたが、厳しさは 私やガルデニア公爵を筆頭に、古参の貴族達が引き締め役をするので十分だったのです。


その王が、この様な苛烈な公開処刑を選択するとは、議会でも少々驚きの声が上がりましたが、此度の被害の大きさを考え、そしてオルヒーデ殿下の最期を看取ったガルデニア公爵が賛成したことで実現いたしました。

家族の無念、突然引き裂かれた悲しみ、憤りなどを直接ぶつける機会を頂けたのです。



「お前のせいで、お前のせいで母さんは死んだんだ!【バーン】」


王がバルコニーから下がれば、民の一人が進み出て 着火魔法を唱える。

小さな火の玉はエドガードの顔に当たり、猿轡が焼け落ちる。


「この愚民が、真の王になるべき我にこのような事をして赦されると思うな!

貴様の母などただの平民、平民如き交尾で何匹でも湧いて出るではないか。一人二人減ったとて、食い扶持が減って助かったと感謝してもらうべきではないか!」


「きさま!死ね!【バーン】」


唾を飛ばしながら罵声を浴びせるエドガードに 憎しみを込めた目で別の男が魔法を中てる。大口を開けていたためか、同じような場所に火の玉が当たり、噎せている。


「貴女のせいで、わたくしのお兄様は苦しみながらお亡くなりになられたのですわ!貴女のような悪女が女王だなんて世界がひっくり返ったってあり得ませんわ。【ウインドカッター】」


貴族席からは詠唱の声も聞こえていましたが、彼女の兄は回復魔術が少し使えることで 城内でも非常に活躍してくれていました。魔力切れを起こしそうになれば 魔力回復薬を飲みながら走っていた姿をよく覚えています。

風の刃がシシリアンの頬を切り裂き、こちらも猿轡が切れましたね。しかし猿轡のお陰で 髪のひと房が落ちたくらいで顔に傷はついていません。


「わたくしの美しい顔に傷がつくところだったでしょう?たかだか下級貴族の分際でわたくしにこの様な事をしてただで済むとは…ギャっ!」


目を吊り上げて叫んでいるところに、水の玉が投げつけられました。洗浄されてはいないので【ウオーターボール】でしょうか。


そうこうしているうちにガエル・ブリーマ以外の3人にはどんどん魔法が撃ち込まれていきます。

あれだけ騒いでいたエドガードは、恨みをぶつけてくる相手も多く、既にボロボロです。

うめき声を上げなくなったところで神官が舞台に上がり手を上げて 皆に制止を促しました。そしてボロボロの3人に 回復薬を無理やり飲ませ、更に【クリーン】で見た目の汚れすら落とします。

顔を上げたことを確認すれば、神官たちは舞台を下りました。


「おい!どういうことだ!回復するならこれで終わりだろう!何故まだ括り付けているのだ!早く解け!」

「最後の一人が終わるまで、あなた達は死なせませんと王が言ってたでしょう?

気を失ったら回復をしますよ。我々の大切な上司も気を失いながら 沢山の人たちを助けて回っておりましたから、我々も 回復薬を飲みながらでもあなた達を最後まで回復させます。

そして、最後の1人までお気持ちをぶつけられましたら、初めてあなた方に静かな眠りが与えられるでしょう。」

「そ、そんな、そんな非人道的なことが許されると思ってるの?あんたたちイカレてるわ!」


回復された事で再び目を開けたエドガードが 自分の身体を見て叫ぶ。まだ自分の置かれた状況を理解していないようだ。

そして、回復をした神官が心底軽蔑した目を向けて 彼らに現実を突きつけます。

涙を流しながら謝罪を続けているガエルは未だ軽傷ではあるが、その言葉に気を失ったようですね。

ですが、シシリアンとオレリアンは吠えています。お前が言うなと、心の底から言いたいですね。

そして同じことを思った者も多かったのでしょう、特に貴族たちが。

左右の席から 先ほどまでとは比にならない程の魔術攻撃が3名を襲います。

自分たちの攻撃で死なせてしまう訳にはいかないと我慢していたのかもしれないですね。

即座に舞台に上がった神官たちが回復薬を口に含ませ 傷を治していく。

あの回復具合を見れば、上級、いや特級の回復薬なのかもしれない。


唖然としていた平民たちも「親の恨み!」「家族を返せ」「お前のせいだ」と次々に生活魔法や 攻撃魔法を中てていく。

中てた者たちは順に広場を出るように促されていたため、1人、1人と減った広場は 最後の老婆がお一人残されています。


「ご婦人はどうなさいますか?攻撃をしなくてはいけないという訳ではないのです。ご希望があれば私が手伝いますよ。」


会場警備をしていた騎士団の者が婦人に声をかけましたが、老婆はその申し出に頭を下げて断り「直ぐに回復をお願い致します。」と言いました。


「この年寄りだけを残し、息子夫婦と孫たち3人が旅立った。天災であったなら仕方がないと思えたが、まさかの人災。お前たちだけは赦すことが出来ない。」


正面を見つめた老婆が キツク睨んだと思えば、3人の足元から極太の木の槍が飛び出し 3人の下半身を深々と貫きました。

下半身が一瞬持ち上がり 血飛沫が降り注ぎ、神官たちが慌てて回復薬を口に突っ込みました。確かにあれでは出血多量で死んでしまいますね。

というか、トリガーさえも唱えないであの威力、あの老婆は一体何者なのでしょうか。名のある冒険者だったのかもしれないですね。


こうして民が消えた広場に残された4名は、翌日貴族達の前で斬首刑とされました。

この後、ヘイラン国への損害賠償請求を行い、国の立て直しもしなければなりません。しかし王も流行病の後遺症か、家族を失ったことによる喪失感か、心配な状況であるのは変わりません。

王太子殿下の遺児は洗礼式すら終えていない幼児と乳児。

せめて彼らが立太子出来るまで 王をお支えできる人がいれば……。


……いるではないですか。

王の息子の一人、瞳の色も王にソックリで、愛妻のアンジュ妃によく似た王子がいたではないですか!

確かリーシック伯爵領にいたところまでは調べていました。

今もまだ拠点をそのままにしているかは分かりませんが、調べるに越したことはないでしょう。

リオネル殿をニーセルブ国に送り届ける必要もありますので、その時に周囲を調べてこさせましょう。そして見つけられたら現状をお伝えして帰ってきてもらいましょう。我らが第三王子ファイルヒェン・ドライ・メネクセス殿下に。



次回から またヴィオのお話に戻ります

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