第377話 ダムを見学しに行くぞ
絶景を堪能した私たちは 橋を渡り、ケストネル公爵領地に入った。
これから向かうのは この国で初めて建設されたと噂のダムだ。
村まで戻るだけなら 川船を使った方が早いんだけど、私の【索敵】を使ってリズモーニ国内のマッピング情報を増やすためにも、行ったことのない場所を巡ってみようという事になったんだよね。
中級以上のダンジョンは お父さんと二人だと止められる可能性も高い。
銀ランクになれば中級なら問題ないはずだけど、村に帰るまでは銅ランクだからね。
冒険者ってこういう時に便利だなって思う。
もちろん 何か依頼を受けていれば期限を守る必要はあるけど、基本は自由な身。どこに行っても何を目的に動いても良いのだ。
私たちを待っているサブマス達が心配するだろうから 村には手紙を送っている。
お兄ちゃんたちも 後二週間もすれば メネクセス王国に到着するだろうし、その時に手紙を送ってくれるはず。
私たちがまだ村に戻っていないと知れば心配するだろうから、私たちの近況報告はしっかりしているのだ。
「お兄ちゃんたち、船旅は順調かな」
「儂も海の船は乗った事がないからなあ。じゃが川のあの大きな船よりも大きいらしいぞ」
遊覧船よりも大きいとは 戦艦なのかな?
どれくらいの人が乗れるんだろうか。サマニア村からだったら 船に乗るよりも クラベツィアの国境を渡る方が早くメネクセス王国に入る事が出来る。
その場合は戻ってくるときに船を使うことになるかな?ワクワクするね。
◆◇◆◇◆◇
ケストネル公爵領地に入って四週間。
マッピングの為に 索敵範囲を広く展開しているので 周辺の警戒はお父さんがやってくれています。
ケストネル公爵領地は リズモーニ王国の中で二番目に広い。
一番は北部一帯を管理するプレーサマ辺境伯領地だけど、それに匹敵するくらい広い。
途中、街道を避けてショートカットしていても広いんですよ。
幾つかの町を経由しながら ケストネル領地を縦断する川を見に行った。
ルパインの町からの河川工事は この川で培われた技術が使われたというけど、この川も護岸工事がしっかりされていて、その上 川と堤防の間には 草花が生い茂り 山羊などが放牧されているのが見える。
「随分川と堤防までが広いなぁ。ヴィオ見てみろ 山羊までおるぞ」
日本でも洪水になった時のことを考えて 実際に水が流れている川と堤防までの間に野球場とか ゲートボール場がある場所は多々あった。
なぜあんな無駄な場所を?と思っていたけど 記録的な大雨の時に その全ての広場が水に浸かったのを見て 必要な川幅だったんだと実感したんだよね。
ルパインの方の川は こういった広さはなかった分、深く掘ったのかな?
「しかしダムがケストネル公爵領地にないというのは 思ってもなかったな」
「うん、地図を習った時に川の始まりがオランジェだったのは見てたのに、開発者が公爵だったから疑いもしてなかったね」
私たちはダムを見る為にケストネル公爵領地を旅しているんだけど、旅の途中で聞いたのは ダムがある場所は お隣のオランジェ侯爵領だという事だった。
川の途中でダムを作っていると思ってたのに 山の源流地点の湖にダムを作ったというから驚いたよね。
川を上るための船もあると言われたけど、オランジェ侯爵領までは もう目と鼻の先だ。
これだけ広大な領地だけど 川沿いには それなりに大きな町があるし、町と町の間には農地が広がっていて 見晴らしが良い場所が多い。
大きな山というか森は 橋を渡ったあの場所くらいで 他は林が点々とあるくらいだろうか。
森と呼べるほど大きなものはなく、つまり何が言いたいかというと 整備され過ぎているからウインドダッシュが出来なかったという事だ。
まあ 町を行く人たちは盗賊もいないし 魔獣も小さなものくらいしかいないので 安心して暮らせるとは思うけど、私とお父さんからすれば 新鮮な肉が手に入らないし、移動の時短が出来ないのは少し辛い。
ただ ケストネル公爵領地の大きな川から東側は ジョカイ山脈がある。
なので 川の向こうは森もそのままで 魔獣も多めらしい。
プレーサマ辺境伯領地程ではないけど それなりにダンジョンもあるらしくて 是非そちらに行きたかったんだけど、川を渡る橋はかなり南にあると聞いて諦めた。
首都を出てから約一か月、ケストネル公爵領地からオランジェ侯爵領地に入って二日、やっと目的のダムの町に到着した。
◆◇◆◇◆◇
川沿いの町を北上しながら辿り着いた町は ダムを見学するための観光客が沢山いた。
まあ 沢山と言っても 地球のように安全な移動が確立されている訳ではないから ギュウギュウ人混みが大変!なんてことはないんですけどね。
ただ、ダンジョンで発展している町だと 冒険者や商人がとても多く人の行き来が激しい。
この町はどう見ても冒険者ではない装いの人たちが 其処此処にいる。
キョロキョロしている雰囲気は地元民でもないだろうし、屋台でどう考えてもぼったくりの商品を購入しているのを見ていれば 観光客なのだろうと分かる。
≪お貴族様っぽい人もいるね≫
≪そうじゃな、あまりゆっくり長居はせん方がええかもしれんな≫
視察が目的なのか どう見ても貴族という人がいる。
平民のふりをしている風の人もいるけど、高貴な雰囲気は服装を変えたくらいではどうにもならないだろう。護衛と侍女かメイドっぽい人も 主人に会わせて平民の服を着ているけど ハッキリ言って似合っていない。
護衛の人は 冒険者風の恰好をしていた方が余程浮かないのに、下手に農民のおじさんっぽい服を選んでいるから 違和感が凄い。
いや、けど あの感じもサマニア村だったら馴染むか?
サマニア村の人たちは 八百屋さんも お肉屋さんも 防具屋さんも マッチョが多い。だけど冒険者装備ではないから 村を出るまでは素朴な村人だって思ってたもんね。
まあ、そうやって馴染もうとしている人はまあいいんですよ。
面倒そうなのは 貴族の恰好のまま、メイドもメイド服を着ており、護衛も帯剣して周囲を威嚇している奴です。
屋台を眺めながら 眺めるだけ眺めて フンっと文句を言いながら去って行くのを繰り返している。
「あれって 何がしたいのかな……?」
「ああいう奴らは 貴族だからって 無料で進呈させたいんだよ。
うちの町は カトリーナダムが出来た当初は 国王陛下も訪れたくらいでな、今は大分落ち着いたが 結構色んな町やよその国からも見学に来る人達が多かったんだ。
だから貴族が珍しくもないし、あんな風にされても 誰も無料で何かを差し出すって事もない。
面倒だから関わらない方が良いぞ」
「……ありがとうございます」
偉そうな貴族を見て ポツリと呟いた言葉に 返答があるとは思ってなくてびっくりした。
お肉屋さんのおじさんは 心底めんどくさそうな顔で貴族を見ていたけど、そういう事なんだね。
それは絶対に関わりたくない相手だね。
という事で、お父さんからの提案もあり 気配隠蔽を自分にかけて過ごすことにしましたよ。




