〈閑話〉メネクセス王国 5
大陸歴579年
※残酷表現あります ご注意ください※
閑話同時投稿しております
こちらは2/3作目です。
王都を席巻した流行病は我らの元にも届いてしまった。
グリツィーニの妻であるミュゼット妃は、あのクーデターがあった時点で王都を離れ、アンジュの実家であるトルマーレ辺境伯領地に匿ってもらっている。
長男のシュクラーンも共におり、此度 次男となるロデドロンが誕生したとの連絡があった。
トルマーレ辺境伯に流行病は届いておらず、グリツィーニも安心している。
私も早くにアンジュだけでも実家に帰らせれば良かったのに、本人の強い希望を断ることもできず残してしまった。
元々身体の丈夫ではないアンジュは最近咳が出はじめ、ついに寝付いてしまった。
様子を見に行ったが、ゼエゼエという息が苦しそうで、アーゴナスと術氏の到着が早くなるように祈る事しか出来なかった。
次に倒れたのはヴィクトワールだ。
彼女も母国リズモーニ王国に避難を呼びかけたにも拘らず、私と息子たちを置いては行けぬと残った。
自身の体力にも自信があり、アンジュの看病も積極的に行ってくれていたのだが、今朝から咳が出はじめたと聞き 部屋に行ったら 真っ赤な顔で意識が朦朧としているようだった。
昨日までは水桶も軽々持ち運び、食事も通常通りにしておったのに、こんなに急激に悪化する物なのか?これは本当にただの流行病なのか?
◆◇◆◇◆◇
「父上、ラフターラ公爵が見つかりました。これより捕縛の為 騎士団を向かわせます。」
「父上、自身が犯した事の始末をつけるため、私自身の手で彼奴等を捕えます。この機会を頂き感謝申し上げます。」
水の季節の終わりに やっと叔父が見つかったと連絡が入った。
実際に捕縛に向かうのは 第二王子のオルヒーデだ。この数か月鍛え抜かれた身体は、余分な脂肪を削ぎ落し、今まであった朗らかな息子とは全く違う人相に見える。
金色だった髪は全て白になり、息子の心の傷の深さを思わせる。
「私が未熟であったばかりに……。
ソレンヌと我が子を直接殺したのは私ですが、その手をかけさせたラフターラは必ず……。」
自分の夫がクーデターを率いた事を知り、その理由を聞いたソレンヌ妃は ショックのあまり自死してしまった。死亡後に城の担当医が検死した結果、服毒による自殺であり、腹には子もいたという。
月日の計算から討伐に向かう前にできた子で、確かその頃は 孫の顔を見ると言って ラフターラ公爵が領都を離れて数か月目だったと思う。
新しい茶葉が入らなくなり、茶を変えたことにより妊娠していたのだとすれば、あのお茶がなければ もっと早くに子が出来ており、今回のクーデターなど起きることはなかったのだ。
それを聞いたオルヒーデは一晩の後 全ての髪が白くなり、戦鬼の様に室内で身体を鍛えはじめた。
必ずラフターラ公爵を自分の手で捕らえると。
◆◇◆◇◆◇
オルヒーデが出立した翌日、私自身も病に倒れた。
2日ほど 高熱が下がらずに 息も絶え絶えとなったものの、奇跡的に回復することが出来た。城内でも下町でも、同じように罹患したが軽症だったものや、2-3日の高熱だけで回復した者もいるようだ。
アーゴナスが連れて来た薬師は この病が空気中を漂う見えない程小さな病によってなされると発表した。
直ぐに口を水ですすぐこと、室内や帰宅時には【クリーン】を適宜かけること、口や鼻から病を取り入れる可能性が高いため、口覆いの布が配布された。
それにより その後の罹患者は一気にその数を減らし、回復薬ではなく 解熱薬と咳嗽止めなどを症状により処方された事により、重症化する前に完治させることが出来るようになった。
この情報は城下町にも直ぐに知らされ、各薬師たちにより薬が作られ 王都の患者は2週で激減した。
しかし、それでも重症化するものは居り、アンジュは罹患後4日目に息を引き取った。そして一度は熱が下がり、寛解したと思われたが、再び2日後に熱発したヴィクトワールは、倒れ込んだ寝台の上で全身の痙攣をおこし、医師が駆けつけた時には息を引き取っていた。
「はーっはっはっはっは、どうだ、ナルツィッセ!
私が王になっていれば こんな事にはならなかったのにな。
悔しいか?悔しいだろうな。
たかだか瞳の色が違うだけで、優秀な私が選ばれず、少し先に産まれただけの兄が王になるなど 間違いだったと証明できただろう。
お前の息子は二人とも斃れた。流行病は王家の血なんて関係ない。皆が平等に罹患するのだ。女子供は体力がない分 既に他界してしまっただろう?残念だったな。
ナルツィッセ、お前の直系は全て死に絶える。ざまぁみろ!」
ガルデニア公爵が率いる王国騎士団に連行され、縄でグルグル巻きにされた叔父のエドガード・ラフターラ公爵は知らせを聞いて駆け付けた私の顔を見た途端に そんな事を叫んだ。
女子供がまず被害にあい、屈強な男たちですら何人も斃れた。そんな恐ろしい病を、この男はこの国に持ち込んだというのか?
どうやって? そして、何故この男は罹患していない?
厳しい拷問にかけた結果、様々な事が分かった。
彼奴ら親子はやはり プリーマ伯爵領からヘイラン国に密入国し 潜伏していた。
彼の国がこの病の発生源で、彼の国ではこの病の発症を抑える予防薬も開発されているという。
そして今回この男が罹患していないのは、その予防薬を使用しているからだという。
以前南側領地で発生した流行病は、この病の元を振り撒いた時に、どれほどの速さで罹患し、どれほどの速さで罹患した患者が死ぬのかを実験していたのだという。
初めの実験はヘイラン国で行い、南の領地では予防薬の効果を試す実験だったのだそうだ。
非人道的な実験を繰り返し行っていた事に対しての怒り、そしてその理由の浅はかさと そんな考えを持っているこの男に気付けなかった自分が愚かで殺したくなる。
幸いなのは、孫たちは病が始まる前に王都を離れていたことで 罹患の可能性がない事。
そしてこの病は人から人へ感染するものの、感染しないように口覆い布などで防ぎ、本人が回復すればそれ以上に体内で増殖することはない。
城下町などに振り撒かれた病の元を浄化魔法で消し去れば、新たに調合して作らなければ自然に流行することはないという事だ。
此度の病発生についての直接的な原因を作ったラフターラ公爵と息子のオレリアン、そしてこの暴挙を知っていたのに王都へ報告しなかった罪で プリーマ伯爵と妻でラフターラ公爵の孫娘であるシシリアンは公開処刑となった。
私の治世において、この様な公開での死刑を行うことになるとは思わなかったが、王都の平民は勿論、貴族にも多くの被害が出た。
一命は取り留めたものの、味覚や聴覚、身体能力が未だに戻らないものもおり、被害は今後明らかにすれば膨大なことになるだろう。
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