兄達との別れ
先生のお屋敷に来て三週間。
新しい食材の使い方もバッチリ覚えた料理人さんは 近々また教えに行くのかと思ったんだけど、遠方すぎる場所は 大変だったという事もあり、王都に各地の料理人が学びに来ることになったんだって。
前回ドゥーア先生は 先生と仲良しの領主だけにレシピを伝えるため料理人を派遣した。
教わった領主たちは 直ぐに 自領地の各地を納める貴族の料理人を集め 新しいレシピを発表。
それにより ショボいと言われていた豊作ダンジョンからも 使える食材が採集できると分かり 各地のギルドと町が湧いた。
もちろん新しい屋台も増え、その味を知った冒険者が 他の町でも食べたいと噂を広げ、美味しいものが食べられる町に移動する冒険者が増えた。
そうなれば黙っていられないのは 教えてもらえなかった領地の領主たちだ。
年末の社交はその申し込みが多すぎて大変だったんだって。
王様としては色々思うところがあるのかも知れないけど、とりあえず 新しいレシピに関しては 既にすべての権利をドゥーア先生が無償で提供している事から、醤油、味噌、ごま油などのハズレ素材と呼ばれていた物のレシピに関しては 自分達が思い付いたなどと言って 商標登録は出来ないようになったらしい。
今回のウミユの素材も同じだね。お酢をはじめとしたハズレ袋の調味料を使った料理は一律 商標登録禁止のレシピとなったし、お米を使った料理もそう。もともとメネクセスでも飼料以外に使われていなかったのは既に調べ済みとの事で 白米は勿論、パエリアなどの炒め飯、丼などの料理も登録不可となった。
その代わりに 王城の一角を使って 各地の料理人が新しいレシピを学べるようにしたんだって。
もちろん料理を学ぶためのお金は必要だという事だけど、それは料理教室に授業料がいるのと同じだよね。
先生のところの料理人さんが 順番に数名ずつ先生役でお城に行くことになったらしい。
先生はもう学園の授業が始まっているから 普通に忙しいし、ブン先生とエミリンさんは なんだかんだと商業ギルドに行く用事が増えた。
料理人もお城での準備があるらしく 屋敷全体がバタバタとせわしない。
なので ある程度 私たちがお手伝いできることは終了したので首都を出ることにしたんだ。
土竜の皆は フィルさんに私の事を早く伝えたいだろうし、お兄ちゃんたちは土竜の皆と一緒にメネクセス入りする。
ここ王都からだと 船で行く方が早いんだって。
皆が首都を去るので、私とお父さんもサマニア村に戻ることにしたんだよね。
「今回は せっかく来てもらったのに 働かせてしまって申し訳なかったね。
次に来た時は ゆっくりできるようにしておこう。
来年の火の季節は……」
「旦那様、その頃は 回復魔法の件で大変なことになっていると予想されますよ。来年は国内が、再来年は皇国と神国からの問い合わせなどで忙しくなるでしょう」
先生的には 全くおもてなしが出来なかった事を申し訳ないと思っているらしいけど、十分楽しめた。魔法陣の練習も沢山出来たしね。
今年の夏は サブマスをタキさんに引き継ぐ関係で ギルマスたちも大変そうだから 昨年みたいに 一緒に行動するのは無理だね、と言ってたんだよね。
だからこの時期に先生の所に寄れたのはラッキーだった。
新しい回復魔法に関しては 王様を含めた魔法使いの偉い人たちで検証が行われているらしいんだよね。
水生成魔法みたいに急ぐ必要はないから 十分に検証が出来て、使える人、教えることができる人が増えてから発表するらしく、一応予定では来年の水の季節らしい。
「ああ、そうだったね。流石にそんな時期に呼ぶのは危険だな。
そうだな、ヴィオ嬢が十歳になる頃には 諸々落ち着いているだろうから、是非その時にはアスランと一緒に遊びに来て欲しい」
「お嬢様が十歳の時には もっとご成長なさっているでしょうね。
今よりもきっと素敵なレディになっていらっしゃるでしょうし、お可愛らしいよりも 美しさを引き立たせるドレスをご用意させていただきますから 楽しみになさってくださいませね」
おぉ、まさかそんな先の約束をしてもらえるとは有り難いことです。
十歳か……。
「お父さんと金ランクになったら 一緒に遊びに来ますね」
「おぉ!金ランクとは凄いな。
だがヴィオ嬢なら成し得そうだ。そうだな、是非金ランクになった時には 指名依頼をさせてもらおう」
「ははっ、先生のご依頼なら喜んで受けさせてもらいますよ。なあヴィオ」
うん、もちろんだよ。
知らない貴族の依頼とか嫌だけど、プレーサマ辺境伯と先生なら喜んでだよ。
貴族からの依頼を何度か受けると 貴族の間でも 噂にはなるらしい。 あのパーティーは誰某の子飼だ、あのパーティーは誰某が専属にしようとしている。等々
ドゥーア先生とプレーサマ辺境伯は 同派閥だから、敵対派閥の貴族は依頼し辛いし、するのはマナー違反とされるらしい。
『誰某の子飼をわざわざ指名するなんて 暗殺などの良からぬ事を企んでいるのでは?』と思われるんだって。
なので 金ランクになるなら 先生たちの依頼を最初に受けておけば 危険な貴族と繋がる必要がなくなるという訳だ。
「共和国では無法地帯だけどな、メネクセスでは同じような考え方があるぞ。
だから俺たちが金ランクになってフィルからの依頼を受けてたら 王家の子飼って事になったかもな。
今回は秘密裡の指名依頼だったからそれはねえけどな」
王家直属とか格好良いけど面倒も多そうだよね。
そんなドタバタと 少し慌ただしい三週間を過ごし、私たちは先生のお屋敷を後にした。
◆◇◆◇◆◇
お兄ちゃんたちはこの後 ウミユに戻り 川船に乗ってさらに南下、ファンスラー公爵領の南部にある港から海船に乗ってメネクセス王国を目指す。
海船でメネクセス王国を目指すには三週間もかかるんだって。
「海は 陸から離れたら 大型の魔魚がいるらしいから あまり離れられないんだって。夜も危険だから明るい時間しか運航出来ないのも仕方がないよね」
うん、危険がないのならそれが一番。陸路だったら数か月は余裕でかかるところを数週間だもんね。
「メネクセスは広いからな、多分まだまだ知らねえ素材もいっぱいあるはずだぞ。
流石に送るのはあれだけど、どんな素材だったかはダンジョンを出たら手紙に書いてサマニア村宛に送るからな」
うん、お兄ちゃんたち前回共和国に行った後は 数年間お便り無しだったんだもんね。それはお父さんも不安だったと思うよ。私も寂しいし不安です。
「あ~、まああれだ。ヴィオとアルクさんが金ランクになる時には俺らもまた戻ってくっし、そんな今生の別れじゃねえんだから 泣くな」
うぅぅ、だって、数か月とか 半年とかじゃないんだよ?
数年は会えないんだよ?
ダンジョンとか、船とか、もしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ?もう会えなくなるかもしれないんだよ?
「ヴィオ、こいつらがメネクセス王国に着くまでは俺たちが責任をもって 連れて行くから安心しろ。
ダンジョンの中は まああれだけど、お前の兄ちゃんたちだぞ? そんな心配しなくても大丈夫だ」
「お兄ちゃんたちも心配だけど、テリューさん達も心配だよ?
私のお母さんたちのお友達でしょ? 私にとっても 皆はもう特別な人なんだよ?」
ちゃんと笑ってお別れするつもりだったのに、首都の門を出るまでは大丈夫だったのに、外延部の終わりが見えてきたら お別れを実感して涙が止まらない。
「私たちにとってもヴィオは 娘だと思ってるわ。
アルクさんがお父さんで、ドゥーア先生だって貴族の父親役なんだもの、私たちが増えても良いでしょ?
だから約束、娘と会えなくなるなんて私たちも嫌だもの。
私達は もう一人のお父さんであるフィルに会ったら 皇国のアレコレを一旦どうにかするつもり。
お守りを取り返さないと駄目だしね?
そうしたら また会いましょう。
もしかしたら 時間が掛かって トンガ君たちが戻る時期と同じになるかもしれない。
そうしたら一緒にお祝いしましょう、 金ランクになってるんでしょう?」
うん、うん。
「そうね、その時にはフィルも連れて来てやりたいけど まだ難しいわね。
そうだわ! 金ランク試験を受けるダンジョンは メネクセスにすればいいわ。銀ランクになれば 国境を越えられるんだもの。
金ランク試験は共和国か メネクセスのダンジョンだからね。その時は私たちが案内するわ」
「そうだね、その時は僕らも一緒に案内するから 今回のウミユみたいに皆で潜ろう」
うん、それは贅沢なダンジョン探索になるね。
皆が お別れじゃない、ちょっとだけ離れるだけだと慰めてくれる。
新しい町に到着した時には手紙を書くから 受け取ったら返信をもらえると嬉しいと言ってくれた。
その約束があれば 寂しくないかな?
次に会う時は クルトさんをハニトラに落とせるくらい大人っぽくなっているかもしれない。
それも楽しみにしていると笑い合って 皆と笑顔で手を振って別れた。
大切な人たちとの別れというのは一時であっても悲しくなるのです。




