第374話 魔道具と母の思い出
炊飯魔道具は先生のお屋敷に到着してから一週間という速さで完成した。
まあ 魔道具の先生がこれだけ集まれば 不思議でもないかもしれない。
内釜には 水分目安となるラインも刻まれたことで 誰でも簡単に美味しくポアレスを食べられると 商標登録は即座に通ったという(計量カップもセットで登録されたよ)
ポアレスの他、ハズレと呼ばれていた食材を取り寄せるにあたり 先生たちから商業ギルドにも働きかけを行っていたらしく、今か今かと待っていたんだって。
先生からお願いされて試作品をヒーヒー言いながら作ってくれていた鍛治工房も、弟子入り志願者が増え、今外延部の鍛治工房では あちこちで炊飯窯作りが始まっているらしい。
完成した週の終わり、聖の日に商業ギルドへ商標登録された炊飯魔道具は まだその実態を知らない人の方が多いから 予約は入っていない。
ただ、予約待ちになることは必須という事で、商品作成は直ぐにあちこちの魔道具屋さん、鍛治工房に依頼されたらしい。
「あの魔道具は学生たちの練習にも非常に良い教材となっているよ。
成績上位の生徒たちで希望する者は 実際の商品を作る工房に実地訓練をしに行くことが可能になった。将来魔道具士となりたい生徒たちは 伝手が出来ると喜んでいるし、手伝いの手が足りない魔道具士達は助かるし、商業ギルドはこの先増えるだろう販売予約に対応できると 三方良しの状態なのだよ。
学生たちには良いお小遣い稼ぎにもなるらしくてね、噂を聞いた学生たちが魔道具講義を選択したいと受講予約も増えているくらいだ」
魔道具の勉強は 人気がないって言ってたから 先生はとても嬉しそうだ。
やっぱり沢山の生徒が興味を持ってくれるのは嬉しいものなのだろう。
魔道具屋さんは 単価が高いものが多いから 売れたら儲けにはなるけれど、なかなかコンスタントに売り上げがある訳でもない。
だからこそ貴族の子女でもない限り資金切れになるんだろうけど、今回の炊飯魔道具は 各店でも販売できるけど、作ったものは商業ギルドで一括買い上げをしてくれるようなので 作ったら必ず売れるのだ。
聖の日の午後に発表された魔法陣は 翌日には 首都で店を構える全ての魔道具店が購入したらしい。
「カルタ好景気と同じ感じだね」
「確かにな。これは 権利をスティーブンさん達にお願いしといて正解じゃったな」
間違いないね。
ここまで大ごとになるとは流石に思ってなかったよ。
新レシピの練習、鉱石の仕入れ、魔道具製作を分担してお手伝いしたんだけど、まだまだ数は足りない。
何故なら 魔法陣を作るのが大変だから。
この一週間、ブン先生とエミリンさんは 商業ギルドに通って 魔道具士相手に 魔法陣の書き方、刻む場所などを細かく指導しに行っている。
私とネリアさんは お屋敷で 一番面倒な二十合炊きの魔道具をせっせと作っている。
錬成自体は大変じゃないんだけど、魔法陣を書くのが面倒なんだよね。
コピー機でもあれば便利だけど、そんなものはないし 地道に コンパスと定規を使いながら書くしかないのだ。
1日にひとつ分を書ければ上等だ。
「流石はアイリスの娘だよね、アイリスも魔法陣を書くのが凄く早かったの。混合魔法陣とか凄かったのよ」
ネリアさんからは 作業の合間の休憩時間にお母さんのことを沢山教えてもらった。
私の魔法陣は先生に教えてもらっただけで お母さんからは習っていないと言えば 寂しそうな顔をされたけど、5歳児に普通は教えないと思うから しょうがないのだ。
どうやら私の無くしたと思った耳飾りは お母さん謹製のヤバイ魔道具だったらしく、色変えの他に 身を護る結界的な役割があったんだって。
「あの魔魚が出る川を流れても大丈夫だったのは 結界が守っていたからだと思うの。
私は完成品ではなかったけど 構想の時点で聞いてたから、きっとそれがヴィオを護っていると思って サマニア村まで探しに行ったの」
普段色変えをしていた魔力分 結界に回していた事を思えば ゴミ捨て場でピンク髪だったのだ、きっとあの階段落ちは 魔道具が無ければ死んでいた可能性が高かったという事だろう。いや、屋敷でピンク髪ではなかったから あの後の馬車でのガタゴト移動と ゴミ捨て場に放り投げられたのが決定打だったのかもしれないね。
その結界の効果が切れる前にお父さんに見つけてもらえたのは 神がかっていると言ってよいほどの奇跡ではなかろうか。
「あ、そういえば お母さんの遺品の中に 宝箱があってね、多分盗られたネックレスが鍵になる予定だったらしくて開けられないんだよね」
「え? その箱って見せてもらうことは出来る?」
何日目かの作業中に 例の開かずの宝箱の事を思い出して 伝えてみたら 見てみたいと言われた。
どうやらお母さんは からくり箱などを作るのも上手だったらしく、もしかしたら開けられるかもという事だったので マジックバックから取り出してみた。
ネリアさんは 受け取った箱を真剣に見つめながら 裏返したり 箱を撫でてみたりと 色々見分してくれたけど 駄目だったっポイ。
「ごめんね、どうやらこの箱は あのネックレスしか開けることは出来なさそうだわ。
あのどうしようもない阿婆擦れ娘から奪い返せばいいけど、それはフィルの仕事ね。
もう少しこのまま持っておいてくれる? きっと奪い返して ネックレスはヴィオに届けるから」
阿婆擦れって……、あの子私と同じくらいの年齢でしたよね?
まあ将来的にはそうなりそうだなって性格だったけど、うん、何も言うまい。
魔道具と言えば 例の魔法少女の杖、あれはドロップアイテムではなく お母さん自作のものだったと衝撃の事実を知ったんだよね。
お母さんが転生者だったのかと思ったんだけど、どうやら 昔馴染みの人から教えてもらった杖らしい。
「『魔法を使うなら この杖が絶対に必要だし、煌きがあればより効果があるように見えるんだって』って言ってたわ。
確かに普通に使うよりも あの杖に魔力を流して使った方が【ファイアボール】も威力が倍以上になってたんだけど、如何せん使うと中央の石がキラキラ光って派手だったのよ。
最初見た時は冗談かと思って 皆で問い詰めたら『ヨウシキビなんだって』って言ってたわ」
お母さんにその杖を教えた人は 確実に日本人ですよね?
魔法少女を知っている年代という事は 昭和後半以降の人であることは間違いないだろう。
ちょっとだけ お母さんが魔法少女に憧れてたかもと思っていたからホッとしてしまったのは悪くない筈。
いや、良いんだよ?魔法少女。
何なら今の私も魔法少女だしね。
ただ、あの無駄にミニスカートをはいて よく分からんキラッキラの呪文を唱えながら 虹色の攻撃魔法をぶちかますような少女には憧れていないだけです。




